第23話:受付カウンターにて
エレベーターが開くと、まず目に入ったのは受付カウンターだった。4つのカウンターにそれぞれ1人ずつ受付嬢が座っており、プレイヤーと
「ようこそ『
待っていたかのようなタイミングで、
「牡丹、私が案内するからいいわよ?」
「
ちょっと強気に責める牡丹さん。瑠璃にも意外に感じたのか、少し押され気味だ。
「瑠璃さん、せっかくだから牡丹さんにご案内してもらいますよ。僕もお仕事の邪魔をしたくありませんし」
「ちょっとアナタ、そんな他人行儀な言い方しないで下さい!」
はぁ!?みんなコッチ見てんですけど……、本人全く気にしてないわ。やっぱり
まぁ俺は昨日の変態美人しか知らないんだが。
「瑠璃ちゃん、オンとオフはしっかり分けないと。プレイヤーの仕事に支障が出ますよ?」
しゅん、とする瑠璃。肩をぽんぽんと叩いてやると、力ない笑顔を浮かべ、「アナタ、行ってきます」と散々こちらを振り返りながらオフィスへと向かった。いってらっしゃいのキスなんて出来るわけないでしょ?
「はぁ、お待たせしてすみません。案内をお願いします」
「はい、では参りましょう」
牡丹さんが俺の腕を取って受付カウンターと誘導する。おい!オンオフスイッチ仕事しろ!!
「本日プレイヤーデビューされる希瑠様ですね、こちらがご予約のアクトレス情報です」
受付のお姉さんがファイルを手渡して来る。さり気無く手を触らないで下さい、牡丹さんの威圧が凄いです。
アクトレスの好む役柄やシチュエーション、性格的な傾向まで細かく記載されており、これらを頭に入れた状態でプレイに臨むようだ。
プレイ開始までまだ時間があるので、受付カウンター近くに設置されているソファーへと腰を下ろす。このファイルはこのフロアでのみ閲覧可能との事。まるでカルテのようだ。
「紗丹君、時間になる前に受付が声を掛けてくれるから、それに従ってプレイルームまで移動してね。私は瑠璃ちゃんがちゃんと仕事しているか見てくるから」
「了解です、また後で」
コラコラ、受付嬢の事睨まないで。俺の身が保たんわ。
ふぅ、やっと1人になれた気がする。っと、にこやかな笑みを浮かべ、近付いてくるのは昨日バーで会った
「信弥さん、おはようございます」
「やぁ、昨日契約して今日初プレイかい?本当に君は何者なんだ?」
他のプレイヤーも微かに頷いているのを感じる。よせやい、俺が聞きたいわ。
「本当は2週間の研修があるんでしたっけ?俺そんな説明受ける前にプレイヤー情報を公開してしまって。気付いたらもう5件の予約が入ってたんですよ」
「それはそれは、いろいろと順番がごっちゃになっているようだね」
そうなのか、あの3人さえしっかりと説明してくれてたら……。はぁ、まぁ仕方ないか。やってみてダメだったら辞めりゃぁいいや。
今ならあの3人に愛想付かれても立ち直れるだろう。またどっか引っ越して静かに暮らすさ。
そんな事を考えていると、信弥さんが暗い顔をしている俺を気遣ってか、話題を変えてくれる。プレイヤースキル
「
チラリと大型液晶テレビに目をやると、すでに違うCMに切り替わっていた。かつて州知事まで務めた男が憐れな姿を晒している。
「その名前初めて聞きました、最近テレビ見てないんで。若い子ですか?」
「うん、確か18歳じゃない?あ、ちなみに僕は20歳だ、別に年上だからって敬語は必要ないけどね」
うん、ありがたい。こっちに出て来て、気軽に話を出来るのなんて友一くらいなもんだったからな。その友一もいつ切れる縁なのだろうか。もう切れてるかもな。
「ホントに?影であいつ調子乗ってるとか言わない?」
「そんな事言わないよ、ほら握手」
何か青春してる気がする。あと2年くらい早かったらな、こういうの。
「プレイヤーはみんな味方だからね。競い合う事はあっても蹴落とす事はないよ。スペックスの基本方針だ。例えばさっきのエミルちゃん、あの子のように新人女優達は経験不足でね。よくうちの店に来てプレイヤー相手に演技の練習をするんだ。けどね、女優によっては事務所が1対1を許さない事もある。だからマネージャー入れて2対2とかでプレイしたりするんだ。その時はお互いにサポートしたり、会話を進めたりするんだよ」
へぇ~、女優がわざわざ演技の練習をしに来るくらいクオリティの高い店って事?マジかよホントに俺に勤まるのかよ…。
そういえばさっきのカルテっぽいファイルにも、プレイの時に感じた事や注意点などが記載されてたな。あれは実際にアクトレスのお相手をしたプレイヤーからの情報か。確かに敵ではなく仲間って感じだな。
「希瑠様、お時間が近付いております。ご案内致しますのでお願い致します」
おっと、もう時間が迫っているらしい。
「紗丹、またね。デビュー戦の感想を聞かせてくれよ」
「うん、その時は慰めてね」
「嫌だね、その役目を取ったら3人に何言われるか分からないからな」
よくお分かりで。
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