第22話:妻は夫を立たせる

 プレイヤーデビューの今日、入っている予約は1件のみで、プレちゃんとやらの管理人さんをお相手するのは午後からだという事は分かった。

 起き抜けに話していたが、今日は平日であり、大学生である紗雪さゆきは授業がある。


「それでは私は一度家に帰りまして、学校に行く準備を致します。旦那様のお世話が出来ず、非常に心苦しい限りでございますが…」


 そんな顔で俺を見るな、もっといじめたくなってしまう。


「大学進学を決めたのは自分でしょう?一度決めたなら最後まで責任を持って通いなさい。4年が長いと見るか、短いと見るかはあなた次第よ。授業が終わればその足で店に来ればいいのよ」


 瑠璃るりさんの言葉に渋々頷く紗雪。大学在学中に事業を立ち上げ、軌道に乗せるだけでなく拡大の一途である姉の言葉は偉大だな。ただのご令嬢ではないと言う事か。


「私も紗丹さたん君との専属契約とその後の想定関連でしばらくは忙しくなりそうです。今日は朝からオフィスで書類仕事が多いので、先に行ってますね」


 牡丹ぼたんさんも先に昨日連れて行かれたオフィスへと向かうそうだ。俺としては今日はあのオフィスに用事はないと思うのだが。


「あのオフィスの入っているビル全体がうちの店よ、言わなかったかしら?」


 はぁ!?あの高層ビルの全体がスペックスだと!!?正気か、テナント料だけで毎月どれだけの金額になるんだ、想像も出来ん。


「あのビルのオーナーはスペックス運営会社、つまり私の会社のビルよ。ちなみに私達の家はあのオフィスのさらに上、最上階だから。紗雪も牡丹も、私も優希ゆうき君も、向かう時間は違うけど目的地はみんな一緒よ」


 ははは、さいですか。住んでる世界が違い過ぎる。俺は今のアパートで十分だな。


「優希君はいつ頃うちに引っ越し出来る?」


「お断りします!!」



「「「そのお断り、お断りします!!!」」」





 紗雪と牡丹さんが先にホテルを出発し、現在瑠璃さんと俺が2人きり。途端に俺へとくっ付き離れない正妻だと名乗るこの人。


「はぁぁぁ……、アナタは私の願いに答えてくれました。そんなアナタに私は何が出来ますか?」


 えらくしおらしい態度だな、正妻モードではお淑やかな夫を立てる妻になるのか。おい、胸をツンツンするな。


「瑠璃さんにして欲しい事なんて考えられないですよ、僕はまだ今の状況に慣れてないんですから」


「そんな他人行儀な話し方、止めて下さい。私の事は「おい」とか「お前」とか、好きに呼んで下さい」


 そう言って肩に頭を乗せて来る。ホントこの人は太もも撫でるの好きだな。正に夫を立てる妻だ、ただでさえ朝の紗雪のご奉仕で敏感になってるってのに。でも、いいんじゃないだろうか?何が出来るか聞かれてるんだから、ナニしてもいいんだろ?っとイカンイカン、すぐに思考が暴走する。朝っぱらからとか、覚えたての猿もいいところだ。



「お願いします、アナタの妻を抱いて下さいませんか?」


 この後滅茶苦茶セックスした。




 昼前、ゆっくりと2人の時間を堪能した後ホテルをチェックアウトした。

 またもや瑠璃のブラックカードが炸裂、帰り際にホテルの支配人とやらがお見送りに来た。俺を主人だと紹介するのはどうかと思う。宮坂三姉妹は世間体など気にならない超越した存在なのだろうか。


 昨日美少女メイドが運転していた赤い高級車は、紗雪の所有車との事。紗雪が乗って帰ったので、俺と瑠璃はタクシーでスペックスビルへと向かう事に。

 第三者の目がある場所でキスをせがむのは止めてほしい。舌打ちしたら黙った。顔が赤くなったのは気のせいだと思う、多分。


 そんなこんなで到着し、改めてビルを見るとデカいの高いのったらない。

 この立地、この大きさのビルを購入し維持する事が出来るお断り屋という接客サービス。本当に俺に勤まるのだろうか、不安で仕方ない。エレベーターの中から見える外の景色があまりにも眩し過ぎる。


「アナタ、今日が記念すべき第一歩です。アナタが不安に思う事など何もありませんよ?」


 プレイヤーとしての俺の成功を疑いなく信じる瑠璃。俺に瑠璃をそう思わせるだけの何かがあると言うのなら、俺は瑠璃を信じてみようと思う。


「分かった、やってみるよ」


 瑠璃を抱き締めてキスをする。惜しみながらも身体を離すとちょうど、エレベーターのドアが開いた。



 さて、プレイヤーデビューと行きますか。

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