第14話:店との専属契約とプレイヤー登録

 俺は受け取った書類にすぐに署名して、紗雪さゆきさんが用意した印鑑をポンと捺印した。


「はい、次はコレです」


 すぐに署名してハンコをポン!


「はい、次はコレです」


 すぐに署名してハンコをポン!


「はい、ではこれで最後です」


 結局6枚の書類に署名・捺印をした。内容はチェックしていない。だって何でもするって言った俺に対して、これに署名・捺印をしてくれと牡丹ぼたんさんが言ったから。

 内容に目を通すようとは言われていないのだから、読んでいない。


「あ~あ、よく読んでない書類にハンコつけるわね」


 瑠璃るりさんが呆れたような表情で呟く。その後の、「まぁ好都合だけど」という呟きも聞き逃さなかった。


「それで、内容はこれから説明して頂けるんでしょうか?」


「ええ、もちろん。最初の書類は瑠璃ちゃんがオーナーである私達のお店、『Specialスペシャル Experienceイクスピアリエンス』と優希ゆうきさんとの専属契約について、そして2枚目はお断り屋協会へのプレイヤー登録申請用紙、それ以外の書類は今後を想定した上での予備です。必ず必要というわけではないのですが、ついでですので」


 ふふっ、と牡丹さんはイタズラっ子のような笑顔を見せる。書類を受け取った瑠璃さんが中身を確認した上で、


「へぇ、さすが牡丹ね。分かってらっしゃる」


 と牡丹さんの肩をつついている。何が書かれているのか若干気になるぞ……、やはり内容を確認させてもらった方がいいだろうか?


「さて優希君、店との契約関係はこれで以上なのだけど、協会に対する手続きはまだ完了していないのよ。今牡丹がノートパソコンであなたのプレイヤー登録申請を受理する処理をしているわ。今のうちにあなたのスマホでこのQRコードを読み込んで、プレイヤーカードアプリをダウンロードしてくれる?」


 そう言って瑠璃さんがQRコードが印刷されている名刺を手渡してくる。肩書は代表取締役となっている。協会なのに取締役?理事会で運営するんじゃないのだろうか?まぁそんなに詳しくは知らんから今はいいとして。

 へぇ、瑠璃さんの名字って宮坂みやさかっていうのか。宮坂、何となぁ~くお金持ちってイメージを思い浮かんで来るが、何でだろうと考えつつもスマホでQRコードを読み取ってアプリをダウンロードする。


「瑠璃ちゃん、協会のシステムに必要事項の入力が終わりました。これが優希さんのIDです。優希さん、私も名刺をお渡ししてもいいですか?」


 ノートパソコンを瑠璃さんに手渡し、牡丹さんも名刺を俺に差し出す。肩書は同じく代表取締役だ。え、宮坂?


「牡丹さんの名字も瑠璃さんと同じで宮坂なんですか?」


 質問してから気付いたが、例の無理心中事件をきっかけに宮坂家に引き取られたのなら、名字が変わってしまっている可能性もある。そんな突っ込んだ内容を質問した事にちょっと後悔。


「ええ、気を遣わせてしまったかも知れませんが、私は生まれた時から宮坂ですからね?瑠璃ちゃん達とは従姉妹いとこですから」


 従姉妹なのか、ん?達、とな?


「ついでに紗雪も渡しておいたら?」


 くすくすと笑いながら瑠璃さんが紗雪さんを促す。一礼して、紗雪さんも俺に名刺を差し出した。また宮坂、何で宮坂?この部屋宮坂さん率75パーセントもあるやん。

 ……、ダメだ、事態に対応出来ず思考が混乱している。ちなみに肩書は取締役となっているが、そんな事はもはやどうでもいい。


「つまり、瑠璃さんと紗雪さんは姉妹であると。で、お2人と牡丹さんは従姉妹同士だと言う事で、合ってますか…?」


「その通りでございます、旦那様」


「そして私達はもう1つの意味での姉妹でもあるわね」


 ヤメロ。


「先ほど優希さんからご自身のお話をお聞かせ頂きましたから、プレイヤー登録が終わり次第私達のお話もお聞き頂かないといけませんね」


 とりあえずプレイヤー登録をさっさと済ませろということね、あい分かりました。


 ノートパソコンの画面に映されるIDをスマホアプリに入力する。プレイヤー登録自体はこれで以上らしいが、また後でプロフィール等を入力しておくよう説明された。その上で設定画面から『プレイヤー情報を一般公開する』というボタンを押す事で、お客様がプレイヤー情報を閲覧出来るようになるのだとか。

 牡丹さんにプロフィール用の写真を撮られた。だから紗雪さんは髪型をセットしてくれたのか。


 俺がスマホを操作している間に、ゆっくりと話が出来るようにと紗雪さんがコーヒーの用意をしてくれていたようだ。いい香りの中深呼吸をすると、少しだけ気を落ち着ける事が出来た。

 瑠璃さんが紗雪さんにも座るように言い、俺の対面には宮坂三姉妹が座っている状況。


 何で俺も気付かなかったのだろうか?よくよく見ると、キリっと綺麗な瑠璃さんの顔を幼くしてほんわかふるりんとしたら紗雪さんになるじゃないか!まじまじと2人を見比べている俺に、「いいかしら?」と笑いながら瑠璃さんが切り出す。


「さて改めまして、私は宮坂家の長女、瑠璃よ。年齢聞かれる前にこちらから教えてあげるわ、春に大学を卒業したばかりの22歳よ」


「牡丹です。瑠璃ちゃんと同じく22歳です」


「宮坂家次女侍女、紗雪でございます。姉達と入れ替わりに大学へ入学したばかりの18歳です」


 紗雪さんの自己紹介を聞いた俺は思わず立ち上がり、天井に向けて吠えた。








「セーーーーーーフ!!!!!」




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