第13話:事後、全裸、土下座

「すみませんでした!!!!!」


 ホテルの一室で俺は、全裸で全力の土下座をして謝罪する。


「だ、旦那様、お顔をお上げ下さい!」


 メイド姿の紗雪さゆきさんが気遣ってくれるが、いやいやそんな訳には行かん。俺はとんでもない事をしてしまった。我を忘れて欲望と野獣と本能に身を乗っ取られていたとしか思えない。


「紗雪ちゃんの言う通りです、何も悪くないですよ。私達全員と合意の上ですから」


 緑色のワンピースに着替えた牡丹ぼたんさんがフォローしてくれる。しかし、しかし!


「確かに強引過ぎる所はあったけれど、それもそれでイイわ……」


 タオルケットに身を包み、やや憔悴した様子の瑠璃るりさんも声を掛けてくれる。


「すみませんでした!調子に乗り過ぎました!!許して下さい何でもします!!!」


 俺に出来る事なら何でもします!許してもらえるのなら何でも!!


 瑠璃さんと牡丹さんの口ぶり・そしてその見目麗しい姿からして、2人は明らかに成人していると見受けられる。

 だがしかし、だがしかし!紗雪さんは成人どころか俺よりも年下だとしか思えない。つまり、彼女は高校生だと言う事だ。何とかこの場を乗り切らなければ、最悪俺には前科が付く。家族を失い、さらには前科者になるなどこの先どうやって生きて行けばいいのかと……。


「そう、じゃぁとりあえず3人でシャワーを浴びに行きましょうか。牡丹は入ったのよね?」


「ええ、私はお先に浴びてしまいました、ちょっと残念ですね……」


「それでは旦那様、今度こそお背中をお流し致します」


 俺は瑠璃さんと紗雪さんに両腕を掴まれ、浴室へと連行された。戸惑いはあったが拒否する権利は俺にはない、されるがままに身体を洗ってもらった。あれだけのドタバタの後だと、さすがにアレも反応出来ないようだ。


「はぁ、何て童貞喪失だよ……」


 思わずひとちる。


「はぁっ!?」 「……!?」


 瑠璃さんと紗雪さんが何やら驚愕と言った表情で俺を見つめる。


「今何て言ったかしら……?」


「あぁ、聞こえてましたか。いや、とんでもない脱童貞体験だったなと思って。ははは…」


 ここまで来たら恥も外聞もないよね、うん。ちょっと素直になれた気がする。後がない状況だからなのか、それとも大人の階段を昇ったからかな……?


優希ゆうき君、それ本当に言ってるの?」


「本当も何も、初体験で相手が複数なんて聞いた事ないですよ」


「旦那様、今日が初めてだと言う点が重要なのですが……?」


「ん?ええ、だから今日が初めてですってば」


 そんなに何回も聞き返すような内容だろうか。ただ今日までそういう経験がなかった、と言うだけではないか。それともあれか?童貞が許されるのは小学生までだよねぇ~みたいなノリか?


「私は旦那様の初体験に立ち会う事が出来て、光栄です!」


 両手を顔の前で組み、満面の笑みでこちらを見つめる紗雪さん。

 いや、あなた今全裸ですよ?何で頭のブリムだけ付けてるんですか?お風呂入る前にわざわざ付け直したのかよ、何狙いだよ。隠すとこ隠さなくていいの?

 ってか俺の初体験の相手は瑠璃さんであって、紗雪さんはその場にいたってだけで。そもそもそこに立ち会うって時点で十分アブノーマルだよな、何が光栄なんだろう。

 対する瑠璃さんに至っては、「初体験の子にあんなに滅茶苦茶にされた…」と憔悴し切った顔を赤く染めている。悔しいのか、戸惑っているのか、それとも被虐心を煽られているのか。この人もそのまんまアブノーマルだ。


 身体を洗ってもらった後、紗雪さんにバスタオルで拭いてもらって服まで着せてもらった。まるで王様にでもなったかのような扱いだ。しかし彼女曰く俺に対する奉仕の気持ち以上に、俺が何でもすると言ったからこそ、自分の喜びの為にやりたいのだとか。いや、よく分かりませんんん。

 ドライヤーで丁寧に髪を乾かしてもらい、何故か髪型をセットしてもらった後、牡丹さんの待つリビングへと向かう。


「ちょっと聞いてよ牡丹、優希君ったら今日まで童貞だったって言うのよ!信じられる!?」


「ええっ!!?」


 牡丹さんまで驚いている。そんなにびっくりする事なのだろうか。


「確かに童貞でしたけど、今まで彼女いた事ないですけど、そんなにびっくりする事でしょうか……?」


「「「ええっ!!!?」」」


 本当にリアクションが大きいな、この3人は。


「本当に?高校は男子校だったとか?」


「いえ、普通に共学でした。男子の方が割合が多いとかもないですね」


 3人が口ぐちに信じられないだとか、周りの女共は何をしてたんだとか、ファンクラブの圧力がとか好き勝手言ってる。俺はそんな特別男前じゃないですよ?


「ん~、優希君、もしかして幼馴染の女の子とか、いた?」


「ええ、よく分かりましたね。親同士が仲良くて、生まれてすぐから一緒でした。保育園から小・中・高と同じ学校に通ってましたよ」


「「「あぁ~なるほどぉ~」」」


 何がなるほどなのかと。そしてあぁ~の後には読点とうてんを付けろと。


「さぁ、何故優希さんに彼女がいたことがなかったのか解明されたと言う事で、さっきのお話の続きをしましょうか?」


 牡丹さんが場を仕切り直すと共に、俺も意識を切り替える。そう、どうやったら許してもらえるか、その続きの話だ。


「優希さん、あなたは先ほど何でもしますと仰りました、そうですね?」


 ごくりっ、唾を飲み込んでから、ゆっくりと頷く。それを見た牡丹さんがニッコリと笑顔を浮かべ、


「それでは、この書類に署名と捺印をお願いしますね」


 瑠璃さんの経営する店お断り屋との契約書を差し出した。

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