第9話:美少女メイドは仕事がしたい

 度重なるお断りの末、美少女メイドに服を着させて、どうにか1人で風呂に入る事が出来た。

 あのメイドさん、ちょっと強引過ぎやしませんか?

 断っても断っても、「これはメイドとしての勤めですので」と返答し、最後にはストンとメイド服を脱ぐという強硬手段に出た。恐るべしメイドの執念。

 これ以上されたら理性が持たぬとこちらも最終手段、帰らせてもらいますよと伝えると、渋々と言った様子で服を着直してくれた。


 それでも目に焼き付いて離れない紗雪さゆきさんのランジェリー姿。あれは反則や。

 スカート丈が長いから全く気付かなかったが、白いソックスだと思っていたのはストッキングで、しかもガーターベルトを装備していた。

 下着も全て白で統一し、俺が見る事を前提にしていたのかと思わせられる出で立ちだった。

 瑠璃るりさんほどではないが決して小さくない胸、そしてほっそりとしたウエスト、張りのいいお尻。

 あれを前にしてよくお断り出来たものだ、本当にお断り屋としての素質があるのかも知れない。


 ん?もしやこれって事前面接的な物だったりするのだろうか。

 お客様としては、断られる事を目的に来店しているとは言え、自分の望むシチュエーションなのだから中にはどハマりしてしまって、色仕掛けで何とか落とそうとして来る人もいるかも知れない。

 そんなお客様に対してでもお断りが出来る人物であるかどうかの試験だったりするのかも。

 だとしたら、逆に思う存分堪能した方が俺的には一石二鳥だったかも。ガバっと行けば良かった。


 などと考えながら1人では広すぎる浴槽に浸かっていると、浴室のドア越しに紗雪さんが現れた。


「旦那様、お湯加減はいかがでしょうか?」


「ちょうどいいです、ありがとうございま……!?」


「いかがなされましたか?」


 いかがなされたかじゃねぇよ、すりガラス越しに見えるそのランジェリー姿がいかがしているんだよ!?

 何でわざわざ脱ぐのか、湯加減聞くだけだろうが!


「紗雪さん、もう一度だけ言います、服を着て下さい」


「……、かしこまりました」


 またもや渋々と言った雰囲気でドアを離れて行く。

 変態美人ズはコンビだと思ってたが、実はトリオだったのか。

 変態美人ズfeaturing変態美少女、コラボかも知れない。


 そうそう、聞き返そうと思って忘れていた事を今思い出した。着替えどうしたらいいんだろうか。

 流れで風呂に入ってしまったが、着替えを用意してあると言っていたのは本当だろうか。

 まぁいい、今日はずっと振り回され続けていたからもう少しゆっくりとお湯に浸かっておこう。


 浴室の窓からも見える夕焼けをゆっくりと楽しんだ後、脱衣所に置かれている棚からバスタオルを取って全身を拭く。ふぅ、いい汗を掻いた。


 トントントンガチャリ、ノックからノータイムで開けられる扉。ノックの意味あるの?それ。


「旦那様お着替えをお持ちいたしましたこちらへ置かせて頂きますお背中を拭かせて頂きますね」


 断られないようにだろうか、早口でそれらを伝えると、俺の手からバスタオルを奪うように取って背中を拭いてくれる紗雪さん。


「ちょっと強引過ぎやしませんか?」


 強く拒絶するのもいいが、優しく気持ちを伝えるのも大事だ。強い拒絶は強い反発を生みかねない。


「メイドから仕事を奪わないで下さい」


 弱々しく発せられたその言葉、なるほど職業意識から来るものですかと納得しかけたらコレだよ。

 背中から腕を回して抱き着く美少女メイド紗雪。

 どういう状況?


「お会いしとうございました、旦那様」


 どこかでお会いしてましたか?そんなはずはないが。

 これもシチュエーションプレイの一環なのだろうな、多分。

 プレイならば俺はプレイヤーになるかも知れない身として、やはりお断りするべきだろう。いや、なるつもりはないけどね。


「紗雪さん、そんなに気安く従者じゅうしゃが主の身体に触れるなど、あっていいのでしょうか?」


 ぴくりっ、少しだけ彼女の身体が震えるのを感じた。


「メイドとは家具も同じ、主人が家具を好きにするのは当然だが、家具が主人の身体を好きにするなどあってはならん」


「もももも申し訳ございません、旦那様!紗雪は悪いメイドにございます!どうか罰を、罰をお与え下さい!!」


 真っ裸の状態の俺に対して、美少女メイドが脱衣所の床に這いつくばって土下座をしている。

 このプレイの行きつく先はどこにあるのだろうか。

 そう考えていると、「やってるやってる」という変態美人ズの笑い声が。何故あんた達がここにいる!?

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