第7話:時給に直すと12万円?へぇ〜。

 お断り屋とは、ごく簡単に言うと性的接触をもちいないイメージプレイのお店だと理解した。

 対象客は女性に限り、男性を相手に自分の望むシチュエーションで会話を楽しむ事で、疑似恋愛を体験出来る。そんなサービスだと説明された。

 ただの疑似恋愛であればホストクラブと大差ないではないか、そう思ったのだが大差があるらしい。

 その大差とはと言うと、俺がスカウトされた一番大きな要因、告白を断るという点だそうだ。


「つまり僕が友達の彼女を振った場面を見て、あれをプレイだと思ったって事ですか」


 断られる事を目的としてお金を払ってプレイする…、とても想像出来ないのだが。


「そういう事ね、結果お芝居でも何でもない現実だったわけだけれど、逆に現実なのであれば何の打ち合わせもなくあの流れに持って行った優希ゆうき君のテクニックは、私の想定以上だったって事になるわ」


 瑠璃るりさんが言うような、そんな大層な物なのだろうか?俺の過去の辛い経験から出来るだけ他者といざこざを起こしたくないという一心だったのだが。


「さっきちらりと瑠璃ちゃんが言いましたが、30分のショートコースとは言え一般の人がいる店外でのプレイ、そして告白をなかった事にしようと提案する上級テクニック、ラストの真実の愛に向けて走り去るフィニッシュ。これをプロのプレイヤー相手にお願いすると15・6万円の請求額になるでしょう。店とプレイヤーの売り上げ配分は協会より、店側が6割でプレイヤー側が4割と決められています。仮定の上での計算ではありますが、あなたは30分で6万円を稼げる素質をお持ちだと言うことです」


 30分で6万円?時給に直すと12万円、へぇすごいねお断り屋さんって儲かるね。


「そうですか、それはすごい事ですね」


 思わず棒読みで答える。

 家族を失った事をきっかけに、俺は働く必要がないほどの大金を手にしてしまった。

 1日に何十万と稼ぐのは確かにすごい事だが、果たして俺がその仕事をしたいと思うだろうか。

 バイトをしているのは暇つぶし、そして他者と関わる為のリハビリと言ってもいいかも知れない。

 お金を稼ぐ事を目的としてバイトをしているわけではないのだ。家に閉じこもったままだと精神衛生上よくないから、その程度のものだ。

 そんな事を思っていると、瑠璃さんが牡丹ぼたんさんを手で制した。


「お金の話はいいのよ、さっきの身の上話を聞いた限り、優希君はお金に困っていないんだもの。それよりも別なアプローチで攻めるべきだと思わない?それも明日にしましょう。優希君、明日改めてお断り屋の仕事の説明をさせてもらえないかしら?話を聞くだけでも、いい暇つぶしになると思わない?」


 そう言って俺の太ももを撫でる瑠璃さん。俺が年下だからってからかい過ぎだ。

 本来ならここでもお断りをしたいところなのだが、さすがに精神的に疲れた。

 そしてこの甘い誘惑と手に残る柔ら温かい感触…。

 早く1人になっていろいろと発散させなくては!


「そうですか、いい暇つぶしになると仰るならばまた明日にお伺いしましょう」


「それは良かったわ、紗雪さゆきに手配させるからもうちょっとだけ待ってもらえる?」


 そう言って瑠璃さんはソファーから立ち上り、部屋を出て行く。

 後姿だけ見ればバリバリのキャリアウーマンであり、高級そうなスーツを身に纏い肩で風切り歩いて行く。

 

「優希さん、瑠璃ちゃんは見た目キャリアウーマンですけど、あの時本当にぞくぞくしてたんですよ」


「いやいりますか今の説明!?」


 ニコっと笑って眼鏡変態美人こと牡丹さんも立ち上がる。

 こちらは瑠璃さんと違いパンツスーツだ。スーツ生地が歩くたびに上下左右へと形を変えて皺を作っている。俺の視線に気付いたのか、瑠璃さんが置いて行ったタブレットでお尻を隠し、イタズラっぽく笑い歩いて行った。


「何なんだ一体……」


 長らく左右から纏わり付かれていた為に凝ってしまった身体をほぐし、ソファーに身を預ける。

 ふと左手をつくと、そこにはほんのりと残った体温……。左に座っていたのは牡丹さんか。


「本当に何なんだよ今日は……」


 これって男としてラッキーなの!?アンラッキーなの!?

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