第5話:大きくて柔らかくて温かい感触

「な、名前ですか?桐生きりゅう優希ゆうきです」


「何歳ですか?」


「18歳です」


「好きな食べ物は何ですか?」


「ケーキです」


「特技はありますか?」


「人とすぐに仲良くなれます」


「自分の長所だと思う所は何ですか?」


「物怖じしない所でしょうか」


「好きな体位は?」


「質問の意味が分かりません」


「キスをするとのされるの、どちらが好きですか?」


「質問の意図が分かりません」


 予想していたリアクションではなかった為に、一瞬頭が真っ白になってしまった。

 その隙を付くように、牡丹ぼたんさんから次々に質問を投げられ、反射的に次々に答えてしまう。

 名前と年齢以降の質問は単なる時間稼ぎだったのではと、後で気付いた。


「ふむ、確かにプレイヤーデータベースに名前も顔も出ていないわね」


「そうですか、ではあれは本当にプライベートなやり取りだったと言う事ですね」


 手元のタブレットを見ながら話す瑠璃るりさんと、頷く牡丹さん。

 何だよプレイヤーデータベースって。

 だからフリーターだって何回言わせたら気が済むんだこの2人は。


「さて、優希君。本題に入りたいのだけれど、いいかしら?ずいぶんと不本意そうな顔をしているようだけど」


 おっと、顔に出ていましたか、それは失礼。


「いえ、すみません。身の上話をした際の反応が、あまりにも他の人達と違ったもので拍子抜けしてしまいました」


「そう、確かにあなたは辛い経験をしたのだと思うわ。でもね、気を悪くしないで聞いてもらいたいのだけど、実は牡丹も辛い経験をしているのよ」


 そう言って、瑠璃さんが牡丹さんの方を見る。


「ええ、私も両親と家族を亡くしています。事故ではなく無理心中なんですけどね。たまたま私は生き残りまして、瑠璃さんのお宅へ引き取ってもらいました」


 ……、これはまたヘビーな話題をさらりと言ってくれるじゃないか。

 牡丹さんの表情はごく普通、ただの世間話をしているかのような印象だ。

 さっきまで俺は、どんな表情で自分の話をしていたのだろうか。


「人よりもどうこう、そんな話をしたいわけではないの。あなたはまだ事故から日が浅いし、牡丹の件はもう10年近く前の話、人それぞれ受け止め方も違う。でもね、いつかは心の整理が出来ると思うのよ。牡丹もカウンセリングを受けて、今では心の傷も癒えていると思う。それでも辛い過去の経験はなくならない。だからって、それをかせにして、今を楽しむ事に投げやりになってはダメだと思うのよ」


 枷、か。

 俺はそんな風に思っているのだろうか。

 突然いなくなった両親、一度も目を覚ます事なく亡くなった妹の優奈ゆうな

 残された俺はどう生きたらいいのだろうか、そんな考えが常に頭の中にあった事に、今改めて気付かされる。

 そうだな、残されたわけじゃない。

 俺は俺の人生を生きる、それでいいのかな?

 そんな事をぼんやりと考えていると、気付けば隣に瑠璃さんが座っていた。


「どうせ生きるなら、楽しく行きたいと思わない?だって、生きているんですもの」


 そう言って瑠璃さんは俺の右手を取り、その自らの胸元へといざなう。


「ほら、おっぱいよ」


 あ、本当だ、おっぱいだ大きくて柔らかくて温かいや。




 いやいや、せっかくの感動的な雰囲気が台無しなんですけど。

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