アルタ群島(44)「温泉回・Ⅳ」

~これまでのおはなし~


 遡ること七年前、俺、佐藤翔(19)は同い年で漫画が超うまい鬼才・富井君に、「新作の感想を」と頼まれていた。こいつ執筆ペース早くね。「今度こそ自信作なんで」そればっかりですやん。気が滅入るよ。「今までは、下手にあれこれ話をひねろうとして失敗してた。でも俺分かった。ここ十年くらいの、日常系漫画や飯漫画の増殖っぷりにようやく理解した。マンガは難しいことする必要なんかない、って。日常の中に潜む面白い一コマを切り取ればそれでいいんだ、って」なんか、それっぽいことを言っている。しかしてタイトルは『孤独の温泉宿』。冴えない中年のおっさんが一人旅で日本各地の温泉に入りに行って、感想を言うだけの温泉漫画だった。ていうかこれ、超有名グルメマンガのパクリですよね? つか、温泉漫画ってなんぞ? そんなジャンルあんの? 「かはぁー」とかおっさんが湯の中で悦楽の表情を浮かべてるけど、これせめて主人公を美人OLにした方が良かったんじゃ……。正直、面白く読めたのは、閑散としたゲームコーナーでレトロゲーに興じる描写くらいで、割と困惑させられる漫画だった。しかも主人公に変なこだわりがある設定なのか、風呂上がりにコーヒー牛乳でもフルーツ牛乳でもなく、スコールという謎の飲み物を口にしようとして、「そんなものは当館にはありません」と宿の女将にすげなくあしらわれ、大喧嘩するというオチ。どうしろと。しかし読み終えて顔を上げると、富井君の表情は期待感で満ちている。マジか。仕方なく俺は直接の感想を述べるのは差し控え、「このスコールってのは何?」と聞いてみた。「えっ!?」富井君は、ぎょっとした様子で、「またまたぁ。ガラナはまだしも、スコールは…………え?」「え?」「んえ?」顔を見合わせる俺達。沈黙が下りる。富井君は、何か言いたげだったけれど、しかし、手にしたマックスコーヒーをぐびりと一口飲むことで、思いごと言葉を飲み込んでみせた。もうじき夏。ルートビアの季節だった。





 俺は、空を見上げていた。



 ――生きるってなんだろう。



 憂いをたたえた少年の目。

 若さを失いつつある肉体と共に、ともすれば忘れてしまいそうになる過日青春の血潮が、今、我が胸中に蘇っていた。



 ――人は何故、争い合うんだろう。



 太陽は未だその身を堅持し、辺りは明るい。

 立ちのぼる湯気の向こうには、異世界の青空が、抜けるように高く広がっている。



 ――おっぱいはどうして、人を幸せにするんだろう。



「……綺麗な目をして空見るの、やめてもらっていいですか」

「あ、はい」


 タオルを体に巻き直したマリーの鋭い視線に、俺は俯いた。


 かくして、長年の論争にケリがついた。

 マリーちゃん、処女非処女問題。

 思えば、なんと大きな懸案だったのだろう。

 世界は分断され、多くの血が流れた。

 俺の脳内で、処女派と非処女派、二手に別れた俺達は殴り合い、いがみ合い、そして遂には銃を取り、己が信念に殉ずる為、ゲティスバーグの戦いのような、苛烈なシビルウォー内戦に身を投じたのである。


「腐れ処女厨!」

「クソビッチNTR野郎!」


 怒号渦巻く、狂気と隣り合わせの戦場。

 両軍が掲げるユニコーン一角獣の旗と、バイコーン二角獣の旗も、すっかり襤褸布ぼろぬの同然である。


 しかし、とうとう戦いは終わった。

 もたらされた伝令の報告。

 その天啓。



 ――あんな綺麗なピンク色乳首をした非処女は、いません……!



 非処女派閥、解散。

 晴れてマリーちゃんは、処女派の女神となった。

 大勝利である。


(嗚呼……!)


 目を閉じれば、数刻前の映像がたちどころに蘇る。

 情熱的な肢体。

 肉感的なライン。

 脳内動画サイトにおける再生回数は早くも数万回に達し、ユニークユーザーは俺一人なのに、「Good!」が鬼のようについているという状況にある。

 正直、一日の疲れが吹き飛びました。


(今後半世紀使えるオカズの提供、ありがとうございます……!)


 脳内俺、合掌にて衆生しゅじょうの昇華。

 どうやら、あちこちすっかり元気一杯となっているのは、温泉の効能によるものばかりではないようである。


「それで、サトウさん」

「え?」

「ちゃんと責任取ってくれるんですか?」


 頬を赤らめたマリーが、口先を尖らせていた。


「はい……?」

「もしかして、話を聞いていなかったんですか?」

「えっ? えーと……」


 やべ。ちょっとトリップしてた。


「マリー……憐れね」

「ちょっと、ハサーシャ。何を鼻で笑っているんですか」

「ふっ……。前からマリーはダメな女になると思ってた。ダメな男に尽くすタイプの、ダメな女に」

「む~~っ……! ど・う・い・う・意味……っ!」

「あっ。ち、ちょっとマリー。やめ。こ、こら……。本取るな。あたし裸……」


 なにやら、美少女が二名、ばちゃばちゃと見苦しく湯船で争っていた。

 目の保養である。


「と、とにかく、見られてしまったものは仕方ないですけど、先ほども言ったように、サトウさんにはきちんと責任を取ってもらいます」


(せ、責任……!?)


 どういうことだろうか。

 大事な話を聞き逃してしまったのだろうか。

 やはり、あれだろうか。

 甲斐性を示せということだろうか。

 女性の大切な部分をばっちり拝見し、視線で傷物にしてしまった以上、男として、責任をもってマリーちゃんをめとれということだろうか。

 マリーちゃんの良き伴侶となり、二人で優しい家庭を築き、そして、毎夜あのマシュマロのようなむちむちふにふに極上ボディを好きにして、全身をとろけたバターのごとく開発しまくった挙句、尻を一撫ですれば、たちまち腰が砕け、乳首を弄べばそれだけで絶叫アクメしてしまうところまで徹底的に愛し尽くし、調教し尽くせと、そういうことなのだろうか。責任を取るからには行き着くところまで行けと、アンストッパブルであると、要するにそのようなことをこの異世界転生者に求めているとしたら望むところでありむしろたかぶりのあまり意味もなく「おっしゃーオラオラー」と四股を踏み踏みツッパリ連打の所存だが、いやしかし、まさか……。


「体で支払ってもらいます。いいですね?」


(――“!?”)


 俺の喉が、ひとりでにゴクリと音を立てる。


「……」


 思考は限りなくエスカレートし、マリーちゃんとの目眩めくるめ睦言むつごとの幻影に、俺の脳は痺れた。

 陶然となる。

 麻薬のような妄想。

 湯船の中、夢心地のまま、静かに沈黙し続けた。


「マリー。サィトウ、責任取る気ないみたいだよ。黙ってる」

「最低です。サトウさん……」

「い、いや、ちがう。ちょっと放心しちゃってただけだ。責任は取る。任せてくれ」


 拳で、自分の胸をドン、と強く叩いてみせた。

 同時にムクムクと何かも大きくさせる。


 ただ……と、思う。

 今の俺は借金大王だ。

 その日暮らしの半無職。

 彼女を幸せにできるかどうか、不安が無いと言えば嘘になる。

 スケベ心だけで彼女をモノにしてしまって、本当にいいんだろうか……。

 それで、責任を取っていると、言えるんだろうか……。


「そうですか。じゃ、後で準備しますね」

「え? 準備?」

「はい。多分まだ二十本くらいあると思いますから、少なくとも、全員四本はいけるんじゃないかと」

「マリー……もしかしなくても、あたし達にも飲ませる気?」


 ん? なんの話だ……?

 なんか勘違いしてる? 俺?


「えっと……ちょっと聞きたいんだけど」

「なんでしょう」

「それって、結婚の準備では、無い?」

「結婚? 何のことですか?」

「あ、いやいや。違うならいいんだ」


 やべぇ。またなんかやらかすとこだった。

 「マリー、新婚旅行に行きたい場所はあるかい?」とか口にしちゃうとこだった。

 おとなしく質問しておこう。


「すまないんだが、『責任を取る』って、具体的に何をすればいいのか、もう一度教えてくれないか?」

「……」

「……」


 白眼視。


「サトウさん……やっぱり何一つ、聞いてなかったんですね」

「…………ごめん」

「はぁ~……」


 ちゃぽん。

 ぶくぶく……。


 分かりやすくマリーが肩を落とした。

 そのまま後ろに倒れるように湯に沈むと、口元を水に浸けて、ぶくぶく泡を吹いている。お行儀悪い。

 タオルの中に押し込められた大きなおっぱいが、水面にぷかりと浮かんでいた。


「マリー……憐れね」

「いいですよーだ。マリーは憐れな女の子ですよーだ。見られ損のくたびれもうけですよーだ」


 ぶくぶくぶくぶく……。


「ショウくん、きちく」


 俺のすぐ隣で成り行きを見守っていたメムが、ボソッと呟く。


「かわいそう」

「いや、鬼畜て……。たまに難しい言葉を使うよな、メムは」

「きちくまるだしの、おにんにん」

「やっ、やめなさい!」


 はしたないこと言っちゃいけません!

 というか、どこ見て言ってるの!?


「ショウくん、また、お湯をにんしんさせる……?」

「お湯をニンスィン!? ささ、させませんよ!?」


 どゆこと!?


「でもさっき、お風呂のなかで、ビクビクって」

「ちょちょちょ、なにゆってんのォ!? ただでさえ無い信用が、底をつくからやめてねェ!?」


 ところで、そんなメムさんも今、真っ裸であったりする。

 もともと幼い風貌通り、ぴちぴちお肌の女の子だが、湯の中で一層艶っぽくなっておられる。


 そんな未発達褐色ロリータボディが、ほんのすぐ傍、手を伸ばせば届く距離にある。


「……」


 無防備すぎる……。

 ついつい、お湯越しに彼女の体をチラ見しちゃう俺を、お許し下さい……。


「ショウくん、えっち……」


 メムが両手で胸元を押し隠し、恥ずかしそうに言った。


「だめ」


 圧倒的な顔面偏差値を誇る美少女が、長い睫毛をぱちぱちさせながら、色っぽく上気した表情をこちらに向けているというシチュエーションだけでも「人間は、体の硬度を自由自在に変えられる生物なのだ」と研究論文の発表を促されるというのに、どうしたらいいんだろう。ぼくは、どうしたらいいんだろう。しねばいいのかな。しねばいいんだな。


 まあメムだけじゃなく、今、温泉にいるメンバーは全員やたら可愛いんだけどね。なんだこのボーナスステージ。俺、本当にもうすぐ死ぬのか? それとも、もう死んでるのか? あっ、死んで異世界に来たんでした。ははは死んでました。


「サトウさんが、メムさんとイチャコラして、マリーを無視します……」


 ぶくぶくぶくぶく……。


「犬に噛まれたと思って我慢するのも限界です……」


 ぶくぶくぶくぶく……。


「こらサィトウ。サィトウのせいでマリーがいじけた。どーすんの」

「ええっ……どうするって言われても」


 ずい、とハサーシャが前に出てくる。


「罪を重ねてないで、男らしくする」

「何それ。どうすりゃいいの」

「今から、あたしが言うことを復唱する」

「復唱?」

「いいから。『ごめんなさい』」

「……」

「ほら。早く」

「ご、ごめんなさい」

「『なんでもするから許して』」

「なんでもするから許して」

「『俺が一人で引き受ける』」

「俺が一人で引き受ける。……って、何をだよ」


 我に返った。

 なんかこれ、あれじゃね。

 妙な訪問販売人に、怪しい契約をさせられかけてね。


「そですか。じゃ、許してあげます」


 マリーが泡吹き蟹を卒業し、立ち直った。


「いやあのさ、だから、何の話なんスか」

「ポーションですよ。ポーション」

「ポーション……?」


 飲み薬の?


「ちなみにサトウさんは、温泉を上がった後、何か飲んだりしますか?」

「え?」

「ほら。こうやって温泉に入ると、喉が渇きますよね? 出たら、何か飲みたくならないですか?」

「んー、ああ、まあそうだな……」


 何の話だろう、と思いつつも、


「一番好きなのは、やっぱコーヒー牛乳かな」


 日本の風呂文化に思いを馳せ、頷いた。


「なんですか、コーヒー牛乳って?」

「へ?」


 しまった。この世界に無かったっぽい。


「名前からすると、ミルク多めのコーヒーみたいだけど」

「でも、コーヒーのように熱い飲み物は、お風呂上がりに飲みたくはならないんじゃないですか?」

「確かに。じゃ、別のもの?」


 ヒソヒソ話されている。


「い、いいから俺のことは置いといて、話の続きを」

「ええと、私は温泉を出た後はフルーツジュースを飲むのが好きなんですけど、今日、『もっとポーションが飲みやすくなればいいのに』なんて、話していたじゃないですか」

「言ってたな。そんなこと」


 ひたすら苦くて飲みにくいポーション達。

 やれ、ポーションを美味しくする技術があれば大儲けできそうだの、やれシュワシュワして甘いスタミナポーションが異国で開発されただの、あれこれ話していた。


「それで、私も考えたわけです。別に難しい合成で一から美味しいポーションを作らなくても、良い割り材が見つかれば同じ事なんじゃないか、って」

「つまり、ポーションと何か別のジュースを混ぜて飲む、と?」

「そういうことです」


 Oh……破壊的イノベーション。

 スマホがカーナビを駆逐してしまうように、単純、手軽なものが、より高度な技術に勝ってしまうことは、ままある。

 実際に美味しいポーションジュースなんてものができれば、売れる可能性は十分にあるだろう。

(でも、なんか、ポーションの回復効果落ちるんじゃないのそれ、とは思うけど)


「そしてですね、ちょうど今、ウスカさんに分けてもらったポーションが手元にあるじゃないですか?」

「ん? ああ……」


 エキストラさんと二人だけ、先に町に戻ったウスカさん。

 別れ際、こんなことを言っていた。


『今日はなんだか悪いこと続きだったが、ポーションの試し飲みについてだけは別だった。持って来た品、結構飲んでもらったが、ほとんど不良品が無かったからな』

『リムにいい知らせを持って帰れそうだ。協力してくれてありがとな』

『残りのポーションは、お前らで自由に分けてくれ。いやなに。今回の迷惑料だ』


「……って、まさか?」

「そのまさかです。今からスタミナポーションを色んなジュースで割って、おいしいドリンクを作ることに挑戦してみましょう。大丈夫です。カートの中に、私が好きなフルーツジュースを何種類か持って来ていますから、材料は揃っています」


 湯船に浸かったまま、えっへん、と、マリーが大きな胸を張ってみせた。

 正直、動作がいちいちエロい。


「私としては、スタミナポーションとフルーツジュースの合成飲料ということで、『スタミナフルーツ』と名付けたいです。そして、スタミナポーションを飲んだ時のように、元気がもりもり湧いてくるジュースとして名を上げて、お風呂上がりの定番ドリンクとしてアゼルガ全土で人気商品にしたいです」


 目の中に「$マーク」を浮かべ、うっとりしてみせるマリーちゃん。

 商人の夢が、先走りまくっとるよ。


「ですが、相手はあの『苦虫噛み潰し液』とまで呼ばれたスタミナポーションです。そう上手くはいかないのは分かりきっています。辛い試飲になると思います。ですから、サトウさんにはがんばってもらいたいんです」

「なるほど。話がやっと繋がった」


 つまり、さっきから言ってた「責任」っていうのは、この新ドリンク開発事業で人一倍体を張れと、そういうことだったのね。


「サトウさんには、私の裸を見た責任を取って、みんなの倍の量を担当してもらいます」

「……わかった。がんばるよ」


 確かにスタミナポーションの味はひどかった。

 青汁みたい、なんて揶揄したりもしてた。

 けど、あんな素晴らしいオカズを頂いてしまったんだ。潔く我慢しようと思う。


 つか、話の流れからすると、俺一人が飲むわけじゃないんでしょ?

 複数人で分担するんでしょ?


「あたしはヤだからね」

「え」


 冷たく響くハサーシャの呟き。


「サィトウが一人で飲めばいい」

「……マジ?」

「ショウくん……」


 メムが、心配そうに俺を見上げ、言った。


「ほねは、メムがひろうから」

「いや全然心配してないよ、この子は」


 一人でとか嘘だよね。


「メムは、協力してくれないのか?」

「んう……」


 何故か、両手で頭を抱えてみせた。(かわいい)


「一杯だけなら、きょうりょくしてもいい」

「そ、そか。ハサーシャは本当に……」


 改めて、ふわふわ髪少女に視線を向けると、あからさまに嫌そうな顔をする。


「だから、あたしはパスだってば。そもそもあたし、たまたまここに居合わせただけで、協力する筋合いなんて無いし」

「でも、それだとサトウさんだけ二十杯くらい飲まないといけなくなりますよ?」


 青汁カクテルを二十杯……?


 前言撤回。

 結構な苦行になりそうな気配。


「ま、見るもの見て楽しんだのはサィトウなんだから、そこはしょうがないでしょ」


 ハサーシャが髪をかき上げながら、ニヤリと笑った。


「腹くくりなよ」


 まるで、ボッタクリ風俗のやり手ババアのようである。


「そもそも、アルタのお色気ハプニング担当こと、マリーだからそれくらいで済んでるようなもの。本来、嫁入り前の女の子の裸は、そんなに安くない」

「あの、ハサーシャ? さっきから私の扱いがひどくないですか?」

「無視。例えば、オリシュタイン騎士大公国の女の子とかだと、こんなものじゃ済まされない。あそこは、脳筋ウォーモンガー生産国みたいに思われてる武の国だけど、同時に、世界一女子の貞操観念が強い国。男子と女子とで、全く正反対に育てられる。女の子はみんな貞淑な箱入り娘だから、結婚前に裸なんて見たら、それこそ並大抵のことじゃ許されない」


 どうやら、割とその辺、厳しい国があるらしい。


「その点、マリーは処女だけど、おっぱいに処女性を吸い取られてるから、裸と言ってもそんなに価値はない。ドリンク試飲アルバイトで十分、お釣りがくる」

「なっ……ななっ……何をいきなり言ってるんですか! は、ハサーシャだって未経験じゃないですか! ていうか、私より一つ年上なんですから、処女としても先輩じゃないですか!」

「あっ!? バカ! いらんことゆーな!」


 足を引っ張り合い、またしてもばちゃばちゃと見苦しく争う美少女二人。

 微笑ましい光景だが、会話の中に見過ごせない衝撃情報が紛れていたことに、俺は驚く。


 マジか……。

 本当にマリーちゃん処女だったのか……。

 ていうか、ハサーシャも処女だったのか……。

 棚ボタで凄いこと聞いてしまった……。

 なんか、また興奮してきた……。

 ああ……。

 メムも、マリーも、ハサーシャも、三人順番に、俺の女にしてあげたい……。

 ハーレム4Pで、夢のような時間を過ごしたい……。


(ん……?)


 悶々としていると、視界の隅に、動く人影がある。

 ぎゃーぎゃーやり合っている面々をよそに、コソコソと湯船に入って来ようとしていた。


「って、オイ」

「ひゃっ!」


 俺が声をかけると、その人影……カリオテは、びくりと大きく体を震わせた。


「なんで俺の長衣ローブを着てるんだよ……」


 現れたカリオテは、裸の上、何故かメムに貰った俺の魔法の長衣を羽織っていた。

 岸縁に荷物と一緒に置いておいた筈なのに、一体、いつパクったのか。


「こ、これはあれです。湯間着ゆまきです。寝る時に着る服のことを寝間着と言いますね。お風呂に入る時に着る服という奴です」

「聞いたことねえよ……」

「そうですか。私の国では普通の習慣なのですが」


 絶対嘘だ……。


「いいから、人の服着たまま風呂に入るなよ。脱いで入れよ」

「だっ、駄目です! たとえ遠い異国にあっても、習慣は大切です!」

「じゃ、自分の服を着ろよ。俺の一張羅を勝手に湯に浸けるな」

「それだと、私は着て帰る服が無くなってしまうではないですか」

「俺はいいの……?」

「サトウさんは下にもう一枚着ていた服がありますよね? でしたら、びちょびちょローブの一枚や二枚、気にする必要は無いかと。ほら、私とサトウさんの仲ですし」

「なんでそんな平然と言えるんだよ……」

「とっ、とにかく、私はこのまま失礼します」

「あっ! こいつ!」


 入ってしまえばこっちのもの、と思ったのか、焦った様子で駆けだしたカリオテは、


「きゃっ!」


 足を滑らせると、やけに可愛らしい声を上げて、


 どしんっ!


 尻餅をついた。

 俺のすぐ目の前で。


「……っ!?」


 我が鼻先にて、大股開きとなるカリオテの股間。


 ……ばっ!


 俺は慌てて首を真横に向けた。

 隣のメムと、目が合った。


「……」

「……」


「あいたたたたた……ハッ!?」


 慌てた様子で、ガバッと足を閉じるカリオテ。


「あの……サトウさん」

「み、見てない」

「ええと……」

「本当に、見てない」

「そ、そうですか。それなら……良かったです」


 長衣の帯を締め直すと、いそいそと温泉に入ってくる。


「……」


 なんか、猛烈に嫌な汗をかいていた。

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