アルタ群島(25)「メムネア・Ⅱ」
~これまでのおはなし~
異世界に転生したら、すごくかわいい女の子(メム)に「変態」と罵られたけど、家にお呼ばれしたので行ったら、クッソボロ家で、ついでにその子は呪われた子だったのでその影響で死にかけちゃって、なんとか生き延びたけど多額の借金ができちゃって、返すために冒険者で一攫千金を夢見てるけど、どうなることやらっすわ。
朝飯を食べることになった。
椅子に座って待つ俺の為に、メムが用意してくれるらしい。
お皿を並べるメムさんの表情は、さっきからキラキラくるくるニコニコぴょんぴょんしていて、おっさんは、なんとも面映ゆうございますよ。
愛くるしいね。
ほんといい子。
こうも天真爛漫を地でいかれると、我が子を見守るパパモードにならざるを得ないな。生来の節操無き煩悩妄想力が入り込む隙がなかなか無いよ。メムのような美少女を見ると脳内ではなくその手前、脊髄反射でエロ妄想を働かせてしまう俺だというのに、少しスカートたくし上げてすべすべ太股をもっとよく見せて欲しいなくらいしか思わないもの。あ、もうちょっと上かな。うん。もうちょい上。あー。見たいなー。褐色ロリータヒップが見たい。そしたら現在朝立ち中の異世界転生チンポも、「本当の俺は封印されていた?」「俺は実は別の目的の為に生まれてきたのに、排尿をするだけの存在だと<機関>に洗脳されていた?」とかPKディックの小説みたいなこと言い出した挙句、「本当の俺を取り戻す!」と、力強くいきり立つかもしれないよ。ちくしょー陰茎腐り落ちるまでヴェポ穴使ってみてーよォー。
「はい。これ、ショウくんのごはんね」
皿の上に料理が置かれる。
切り分けられた肉だった。
ベーコンのように、外側と内側の色が随分異なっている。
燻製っぽいね。
でも、何の燻製だろう?
「これ何の肉?」
「ショウくんと、はじめて会った時に、しんだブタさん」
「Oh……」
さ、山菜カレー殿! 山菜カレー殿ではござらんか!
かような旨き姿になってしまわれて……もちゅもちゅ。
メムに向かって
「ばかうま」
「それは、よーございましたー」
山菜燻製殿……。
マジでおいしゅうござるぞ……。
「メムは食わないのか?」
「メムは、あきた」
「……」
「メムのあさのごはんはこれでいい」
自分は洋梨のような果物をしゃくしゃく囓っている。
「ぶた野郎、まだいっぱいあって困ってる。はやくたべちゃわないとダメになるから、たんとおあがり」
「お、おう……」
空腹は何よりのスパイス。
それ故に、今はもりもり食えている。
が、味つけ自体は、良く言えば、素材の味を引き出すべく調味料を最小限に絞った素朴な味わい。
悪く言えば、薄味淡泊。
正直、日本の料理に慣れてしまっている身には、パンチが弱いかなー、と思わなくもない。
俺も早々に飽きる予感。
……なのだが、メムが、俺が食う様を何故か異様に注視してくる。
なんか美味しく頂き続ける姿を期待されているようで、食べるの止めにくい……。
「スープもどーぞ」
「や、これはかたじけない」
オニオンスープに似た味の代物が出てきたので、いっそこれでぐいぐい流し込んでしまえと考えていると、「そういえば」、とメムが言った。
「せんせから、ショウくんにってことづてがあった」
「言伝?」
「うん。あのね、えーと、うー……」
思い返すように、少し考え込んだ後。
「……じぶんでよんで。その方がはやい」
あっさり投げたか。
朝から熱心に読んでいたノートのようなものを広げて、見せてくる。
ネアがメムに対して残すという、メッセージだろうな、これ。
「他のとこは、ダメ。ここんとこだけ、よむ」
「どれどれ……」
ふむ……なになに?
『……それから、この後に書くことは、サトウに伝えて欲しいことじゃ。そのまま読み聞かせてやってくれ。具体的には、あやつの借金返済へのヒントになるかもしれない情報になる』
なんですと?
『実は結構前になるのじゃが、ワシも研究資金を得るために、楽に大金を稼げる方法がないかと考えたことがあるのじゃ』
ええっ。ネアも?
ていうか、ネアはカリオテと一緒になって「一攫千金とか甘いこと考えてんじゃネーヨ」「このグロッチ野郎」「ノージョブノーマネーでフィニッシュ」「グロッチ」「粗チン」「ポランジ」って俺のことなじりまくらなかったっけ?
自分のこと棚上げしてたの?
『その時、ワシが考えたのはマナストーンの鉱脈を探せないか、ということじゃった。マナストーンと言うのはその名の通り、高濃度のマナを大量に貯め込んでおる石のことで、「魔石」とか「魔力石」とも呼ばれるものじゃ。大きさや種類に応じて等級は変動するが、いずれにせよ宝石のように高い価格で取引される鉱物となる』
よくわからんけど、MPを凄く沢山含んだ石……ってとこだろうか?
天然の電池、みたいな?
『細かく説明すると長くなるんで端折るが、世界にはマナタイドと呼ばれる、マナの大動脈のようなものがある。その上にある地域は、マナが濃くなるんじゃ。で、それらの場所にはマナストーンの鉱脈が見つかることが多い』
マナタイド……。
日本だと、風水とか占いに龍脈とか地脈なんてのが出てくるが、そういう奴か?
それとも、空気中にマナの濃い霧みたいなのが広がってるとか?
むう……。これまたよくわからんね。
『アルタ群島においては、西に位置するツェツェーリ島と、その南にあるフォポ島の二箇所がマナタイド上に位置しておる。実際、以前その近辺を調査した時には、マナタイドの上にあるにしても、ちょっと異常なほど濃いマナに覆われた地域であることを確認した。相当のマナストーンが掘れる可能性大じゃ』
ほう。絶妙にトレジャーハンター心くすぐられる話だね。
まさか幼少期、「羽鹿口幼稚園花壇のミスタードリラー」と呼ばれ恐れられた(主に保母さんから)この俺に、穴掘り案件を持って来ちゃうとはね。
尚、中学時代には学園祭中、誤ってロケット花火を花壇に撃ち込んでしまい、「羽鹿口第二中学花壇のクリーパー@マイクラ」と呼ばれ恐れられたこともある模様。恥ずかしい過去。
『で、結論じゃ。リムに頼んで、魔力探知の道具を借りてくるのじゃ。そして、ツェツェーリ島南部の洞窟地帯を徹底的に調べるのじゃ。ダンジョンめいた空間を、足を使って調査する地道な作業になるゆえ、ワシは途中で「いー!」ってなって投げ出したが、そなたは選り好みできる立場ではないじゃろ? 運が良ければ、マナストーンの鉱脈を見つけて一躍大金持ちじゃ。そなたは借金を返し、わしはどこかに良い屋敷を買い、晴れて呪いの研究に没頭できる環境を手に――……』
ぱたん。
後には、取らぬ狸の皮算用がひたすら続くようだったので、俺はそこで切り上げた。
つか、俺より取り分多いじゃん、ネアさんよう。ピンハネしすぎ。
とはいえ、選り好みできる立場じゃないというのは事実である。覚えておいて損は無さそうだ。
◇
朝食を終えると、俺は出かける準備に入った。
せっかく居候をはじめたメムの家。
井戸を直したり、庭の手入れをしたり、あれこれやってみたいことはあった。
メムとも一緒に過ごしてもっと仲良くなりたい。
だが、今日に限ってはウスカさんに会う約束がある。
マリーにちびリュック借りたままってわけにもいかないし、カリオテの人探しがその後どうなったかも少し気になる。
とりあえず、カリピュアに行かなければならないだろう。
でも、また徒歩で行くのは面倒だな。
<強走>スキルがあると言っても毎度毎度の往復は辛い距離だよ。
……いや、待てよ。
そんなの島に住んでる他の住人にとっても同じことだよな?
「なあ、メム。ティムルクとカリピュアの間って、なんか、乗合馬車みたいなものは出てたりしないのか?」
「あったとおもう。たぶん、あさとゆうがたの二回」
ビンゴである。
まだ間に合う時間なのか分からないが、とりあえず行ってみよう。
「ショウくん、でかけるの?」
俺の行動を察したメムが、すぐ傍に近寄ってくる。
なんか既に、寂しそうな、行かないでオーラが出ていた。
「あ、ああ。カリピュアまで行って用事を済ませてくるよ」
「……」
うわあ。すげえじっと見てる。
そんな悲しい目で見られると、切なくなっちゃうよ。
「家にいてほしい……」
「うっ……ごめん。今日町で人に会う約束があるんだ」
「じゃあ、メムもいっしょに行きたい……」
ですよね。
でも、一緒にか……。
「メムさん、脱・引きこもり!」という意味ではいいことなんだよな。
(本当に二人で出かけたら、どうなるだろう……?)
乗合馬車で乗車を拒否されて、徒歩行になるくらいなら別に気にしない。
けど、町にはディーディーみたいな連中も多い。
やっぱ面倒事が起こるだろうなあ。
いや、違うな。
荒くれ者連中が問題なんじゃない。
むしろ一般人相手がまずいんだ。
町で出会う人達皆に避けられ、マリーみたいな普通の人に「店から出ていって下さい」って冷たくされることになりそう。
挙句、待っているのは、通報されてのごたごた騒ぎが関の山だろう。
……やっぱダメだな。メムが辛い思いするだけだ。
リムさんみたいな人ばかりなら、そんなに心配ないんだけど、世の中そんなに甘くないからな。
(でも、ネアは問題無く受け入れてもらえてる)
というか、彼女はむしろ島民から信頼を勝ち得てる。
ネアも外見を幻術で偽っているだけで、体の呪いが消えてるわけじゃないのにだ。
それはつまり、ヴェポだろうと普通にしているならば、早々誰かを傷つけるものではないということではないだろうか。
ネアは彼女の呪いで誰かを死なせてしまったりなんてしていないのだ。
ぽっくり逝くのは、俺のようなドスケベ無知野郎か、選ばれしおしっこがぶがぶの民くらい。
(なら、俺が傍についてサポートできるなら、なんか、やりようがある気がするな)
少し、思うところがあった。
「今日一日だけ家で待っててくれ」
「うー……」
「町に行くついでに、今後、メムが俺と一緒に色んな場所に行けるように準備をしてくるから」
「ほんと?」
「ああ。だから、うまくいけば明日以降は出かけるとしても一緒だ」
「……はっし!」
おかしなかけ声と共に、俺の腕にすがりついていた。
「ぜったい」
犬のクロが足に抱きついてくるかのように、ぎゅーぎゅーしてくる。
「ぜったいだかんね」
「わかったわかった」
「うー……」
「ほら、もう離れろよ」
「うー……なでなですりすり」
何故か逆にくっついてきた。
頭を擦りつけるようにごろごろしている。
やだ、かわいい……。
「……」
「あれ? にんにんかちこち……?」
「なってない! なってない!」
「すりすりすりすり」
「おやめっ! 気持ち良くなっても知らないよ!」
また死ぬぞ!
俺が!
◇
森の傍に広がる村、ティムルク。
農業が生活の中心にある、見るからに穏やかな集落である。
朝から働いている村人に尋ねて回ったところ、乗合馬車自体には間に合った。
が、それは俺の思うようなものではなかった。
ティムルクに住んでいるオーソンさん、という人が、毎日カリピュアに行くのに使っている個人所有の馬車に、無理矢理他のティムルクの人が同乗させてもらってるという凄い代物だった。
その為、運行は朝、ティムルクからカリピュア、夕方、カリピュアからティムルクへの一方通行が一度きり。
オーソンさんがカリピュアに行かない日は運行も無くなるらしい。
その代わり運賃は安く、片道大銅貨一枚。
つまりたったの五十円。
日本だと、考えられない安さじゃね?
貧乏な俺には助かる話である。
「オニイチャン、見ない顔ねぇ」
「いやあ、ははは。ネア先生に会いに来た者でして、昨日から厄介になっています」
「そうなの。どちらから?」
「割と遠くですねえ……。ニホン、ってご存知ですか?」
「あら知らないわ」
「まあ、小さな島ですからね。ところで――……」
はじめはじろじろ見られたものの、物怖じしないでいたら、隣に座った老婆が割といい人で、カリピュアに着く頃には他の人とも打ち解けていた。
到着時には、老婆から、メムが朝食べてた奴と思われる果物を一つもらってしまう始末。
異世界、あったかい。
そんなほっこりした気持ちで、一路『ワスプ婆さんの店』へと向かっていると、
(なんだ……アイツ)
店の裏手で変な奴を発見する。
ワスプ婆さんの店は、それなりに大きな建物である。
中世ファンタジー的な田舎町には珍しく、開いて使う板戸や格子窓なんかではなく、立派な大型ガラス窓が多数ついている。なんだか、一軒だけ「リフォーム仕立てです」といった趣で、周囲の景観から浮いて見えるほどである。
そのガラス窓の一つに取りつくようにして、妙な風体の男が中の様子を覗いていた。
「……」
体格は俺と似たようなものだが、頭巾を被っていて、微妙に泥棒チック。
焦げ茶色のマントといい、時折周囲を見回すこそこそ感といい、ものすげー怪しい。
「おい、あんた。何してんだ?」
「!!!」
俺が声をかけると、まるで漫画に出てくるびっくりした表現のように小さくジャンプして、こちらを振り返った。
ぎょろついた目に、口の周りをぐるっと覆うような髭。
これまた漫画並の泥棒面である。
異世界ねずみ小僧だ。
「あっ……!」
と、この男、俺に気付くや、一目散に逃げ出した。
後を振り返りもせず駆けていき、俺がどうしようかまごついている内に、路地の向こうへ消えてしまった。
しまった。
あそこまで怪しい奴、とりあえず追いかけるべきだったか。
スキル使えば追いつけただろうに。
咄嗟のことすぎて失敗したな。
「……マリーに、『変な奴が店の中を覗いてた』、って知らせておくか」
時刻は不明だったが、店は既に開店しているらしい。
表に回れば、戸は開かれていて、入り口の脇には昨日と同様、食品を並べるカゴが出ていた。
しかし、奇妙なことにその中身は空だった。
「??」
店に入ると、
客どころか、店員の姿も無い。
どうなってんだこの店。
いや、居た。
カウンター内で、椅子に座って本を読んでいる人がいる。
ちょこんと揃えた膝の上に書物を乗せて、随分熱心に読み耽っている。
(……って、誰?)
変わった女の子だった。
メムよりは大きいけど、だいぶ小柄な子である。
柔らかそうなふわふわの茶髪をしていたが、そこに片目が隠れてしまっている。
読書中だというのに、気にならないのだろうか。
しかし一番特徴的なのは、その服装だった。
一言で表すと、「ホスト」。
タンクトップの防御力無さそうな黒シャツ一枚の上、毛皮のコートを着ている。
だがそのコートが凄い。
ユキヒョウか、ホワイトタイガーかはわからないが、白い猫科の猛獣の皮が、頭から足先まで一揃い、まるっと使われている。
少女のふわふわ髪の上に、ヒョウ(?)の頭がそのまま乗っかっているのである。
耳や尻尾がついてて、若干かわいいと言えばかわいいが、腕も足もついてるし、それがだらっと垂れてて死体感あるし、まずリアルファーだろうし、よくもまあこんなデザインの服を仕立てたものである。
と、ようやく俺の存在に気付いたようで、ブラウンの瞳がゆっくりと本を離れた。
片目で、ぬぼーっとした視線を俺に向けてくる。
「……何? 誰?」
こっちの台詞だった。
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