アルタ群島(23)「ボーパルバニー・Ⅱ」

~これまでのおはなし~


 ウサギには声帯が無い。それなのに、キラーラビットは割とやかましかった。何か秘密があるのかな? ウサギは仲間に危険を知らせる為の声帯を発達させないで、それぞれの個体が自分で危険を察知するよう聴覚を発達させた動物だけど、モンスターまみれの異世界環境において何か異なる進化をしたのかな? それとも名前こそウサギながら、クイ(ペルー料理の食材で有名なテンジクネズミの一種)のような、ネズミの仲間だったのかな? クイはネズミなのにウサギサイズで抱っこできて、ふわふわで、不思議な鳴き声で、すごくかわいいのに日本で全然人気がない。みんな、クイを好きになろう。





 危機は去った。新スキルの力を借りてではあるが、窮地を脱した。終わってみれば「窮地だったのか?」「お笑い戦闘では?」という感は無きにしもあらずだが、襲われている最中は割と本気で死を覚悟していたのだからピンチだったのは事実である。


「うへえ……くっせえな」


 辺りに漂う臭気は、戦いが終わってアドレナリンが薄れてきた身には刺激が強かった。

 胸がむかつく。

 血生臭いわ。

 変な刺激臭もあるし。

 ウサチャンの内臓器官が破れて、中のうんこもしっこも飛び散っちゃったのかな。

 最低。


 なんか、あれだね。ゲームと現実の一番の違いって、匂いだね。

 ゲームは日々進化してて、その表現力の向上っぷりには驚かされるばかりだけど、未だ五感の全てを網羅しているわけじゃない。今、目にしてるような割とグロいビジュアルは映像で再現できても、匂いはとりあえずまだだな。


 まあ、前にも言ったように、RPGの舞台になるような中世欧州系世界はなかなかの糞便ふんべんズワールドだから、匂いの再現なんてしない方がいいのかもしんないけど。

 あ、えろげではお願いしますね。美少女の匂いの再現。


 さて、戦闘が終われば戦利品を漁るルートの時間である。

 ドロップアイテム探し。


 でも、今回ばかりはお断りだなあ。

 正直そんなのどうでもいいから、この場を早く離れたい。

 RPGの謎システムばりに、野生動物殺したらチャリンと通貨を落としてくれるわけでもなかったし、ウサ公の血まみれ毛皮とかいらないわ。


「血の匂いに引かれて変な動物が寄ってきても嫌だしな。さっさと行くか」


 トボトボと歩きはじめた。


 だがすぐに、あることに気付く。

 視界の隅に半透明ビックリマーク(!)が踊っている。


「これはまさか……」


 確認してみると……おめでとうございます、レベルが上昇して1から3になっていますよ。

 一気に2レベルアップです。


「おお。さっきの戦闘で上がったのか」


 考えてみれば、今のバカチン戦闘が俺の初陣だったようである。

 って、ダサいな。

 さすが布山賊。

 さすがサルサソース。

 俺もせっかく異世界に来たのだから、痺れるようなチート攻撃魔法で格好良く初勝利を飾りたかったなあ……。

 俺のことを下に見てたツンデレ美少女が、俺の唱えた呪文に驚愕の表情を浮かべて、「あ……アンタ、ど、どうしてそんな強力な上級魔法が使えるのよ!」「えっ? これが上級魔法? そうなのか?」「なぁっ! アンタ何者!?」「(……しまった、やりすぎちまったみたいだぜ……)」とか初陣でやりたかった。ウサギの脳漿浴びてる場合か。

 ダメな星の下に生まれついちゃったのかなあ。


 それとも、俺が使った<剛健>スキルも一応チートじみた能力に数えていいものだったのか?

 よくわからんなー。そもそもスキルの名前がクソダサいし。

 せめて、なんたらナックルとか、かんたらブロウとか、攻撃技っぽかったら良かったのに剛健て。どっかの健康法かな? すごい嫌。


 まあ、スキルの効果が攻撃時と防御時で二つに分かれてる辺り、本当に攻撃用スキルではないんだろうね。

 多分、スキル自体は肉体強化系buffの一環でしかないんだろう。

 ただ、それでも。


「……必殺パンチが撃てるようになってしまったな」


 もうダメだ。完全に格闘家ビルドだよ。

 魔術師に戻りたい。

 魔法がいい。

 今の敵もファイボで倒したかった。

「食らえ、兎野郎!」「キュイイイイ!(炎上)」「やれやれ。ケダモノは学ぶということを知らないから困る」「えっ……こいつ、もしかしてアタシを助けてくれたの? この胸の高鳴りは何……?」「おいおい、お嬢様。いつまでそんなとこにでっかい尻餅ついてるつもりだ? まさか腰が抜けちまったのか?」「う、うるさいわね! ていうかアンタ、今の上級呪文は何? 明らかに初心者じゃないでしょう!?」「(……しまった、やりすぎちまったみたいだぜ……)」が良かった。

 肉体戦闘は嫌だ。


 まあ俺も、魔術師でのプレイに飽きたら、サブキャラで物理攻撃職作って遊んだりしたことが無いわけじゃない。

 百歩譲って、サブキャラビルドとしてポジティブシンキングしてみる手はある。


 ただ、それでも別にすごい体術が使えるようになったりしてるわけじゃないからなあ……。

 運動性能任せの、素人攻撃ですよ。

 魔術師失格だからって、格闘家を名乗れるわけでもないのよね。

 どっちもダメ。


 せめてスキル発動時、口では別の技名を言うようにしてみようかね。

 「ブースト!」って叫びながら<強健>発動するとか。

 いいかもしれないね。

 <剛健>なら「SHOW パンチ!」とかってね。

 これは佐藤翔の名前と、派手なショーになるよって意味をかけてるんだよ。

 あっ。俺、ネーミングセンス壊滅的なんだった。忘れてた。


「……まあ、それはおいおい考えるか。レベルアップで何が変わったか見てみよう」



【名前】サトー・ショー

【種族】ハイヒューマン

【性別】男

【年齢】26

【職業】家事手伝い

【称号】ウサギキラーキラーキラー(UKKK)

【血神】なし

【レベル】3

【HP】24/24

【MP】0/16

【PX】12

【MX】8

【XP】2

【パッシブスキル】<魔法抵抗・混沌10>

【アクティブスキル】<強健10><強走3><剛健1>

【スキルポイント】65412

【装備】やわらかローブ、かわのくつ、ニプレス、ぼろシャツ、ぼろパンツ、ちびリュック



 予想以上に変化なし。MPすら0のままである。

 レベルアップしても、MPは回復しないのか……。

 じゃあHPも回復しなさそうだな。

 不便だね。ピンチの連戦を、レベルアップ時の回復効果で乗りきる、みたいな荒技は不可能ってことになる。


 そして、レベルアップで上がった数値は【XP】と【スキルポイント】のボーナスポイントだけのようだった。重要な、【PX】【MX】辺りが微塵も変化なくて切ないぜ。

 しかも、もらえたポイントもたった2ずつ。

 こりゃレベル1上昇でもらえるのは1ポイントだけか? きつくね?

 それとも、まだレベルが一桁台だからもらえるポイントが少ないだけか?


 はー。マジで世界の仕様が全然わからんな。


 というか、レベル2上げてXPが2点しかもらえないなら、シルバートロフィーでもらえた10点の方がすごいじゃん。10レベル分じゃん。


「レベルシコシコ上げるより、トロフィー狙った方が手っ取り早いのかもしれん」


 ……などと、ゲーマーらしくレベリングに対する思考を働かせてしまった後、ハッと我に返った。


「ぐぬぬ」


 唸っていた。


「ぐぬあー!」


 くっ、悔しい!

 なんだかんだ、そこそこ楽しいのが悔しい!

 レベルアップしたり、スキルを割り振ったりで、地味に成長していくのが楽しくって、悔しい!


「許さんぞ! ケイジ!」


 ゲーマー魂につけ込みやがって!

 「ソシャゲRPG? また脳死ポチポチゲーだろ? やる気しねえわー」とか言ってたのに、試しにやってみたら序盤ばんばんレベル上がるからついつい続けちゃう、みたいな罠。


「絶対に日本に帰ってやる……」


 異世界で楽しくなってる場合じゃないんだって、本当にさ。



   ◇



 それからしばらく小走りで進んで、やがて戦闘中にかけた<強走>スキルの効果が切れて、急に走るのがきつくなり、ひとしきりゼーハーゼーハー喘いだ後、結局俺はだらだらと歩き始める。


 MPが一度ゼロになってしまったので、せっかく覚えた<強走>スキルもおちおちかけ直せなかった。

 MP自然回復待ち。


 残ったXPを注ぎ込んで、MXを10まで上げれば、MPも若干増えるだろうからそうする手もあったが、XPの使い道は非常に重要である。安易につぎ込めるものではない。


 例えば、今手持ちとしてある2ポイントの使い道だって、


【PX】を14に上げる → <肉体硬化1>が獲得できるようになる。

【MX】を10に上げる → <強走4>、<剛健2>が獲得できるようになる。


 と、既に二つのパターンが存在する。

 どっちが正解なのか俺には分からない。

 分からない以上、無駄づかいはできない。


 しかも、再度、危険な敵に遭遇する危険を考えると、MP0のままふらつき続けるわけにもいかない。

 最低でも<強健>が使える程度のMPは保持しておかないと不安である。

 結果、<強走>スキルの再使用は、まだしばらく先となる。

 だから、ただ、歩く。


「あー……夕焼けやぁ……」


 遠くの木々が影を作り、田園じみた街道風景に彩りを加えていた。

 赤々とした空の中に浮かぶ紫の雲。

 高すぎる空の下で、乱れ狂っている。


「綺麗だねー」


 つーか、空の作画すげーや。新海誠作品みたいな色になっとるよ。


 俺の地元である羽鹿口うかぐち市では、このくらいの時刻になると、やけに郷愁を誘う童謡音楽を防災無線で流して、寂寥感刺激してくるんだよなあ。

 あの放送は何なんだろう。

 一人でいる時に聞くと、胸が締め付けられるような気持ちになるんだよな。


「なんか、寂しくなってきました……」


 あっちが西なのかなあ……?

 そもそもアゼルガでも、太陽は西に落ちていくのかなあ……?


「……」


 急いで帰らないと日が暮れますよ?



   ◇



 ようやくメムネアの廃屋敷に辿り着いた時には、既に辺りは薄暗くなっていた。


 きゅきい!とシジュウカラが絶命したかのような甲高い音を立てる鉄門を開けて、敷地の中に入っていく。

 この門うっさい。油を注したい。


 コンコン!


「メムー? ネアー?」


 家の扉を大きくノックした後、名前を呼ぶ。


「サトウだけど、入るぞー?」


 ドアに鍵はかかっていなかった。

 勝手知ったるなんとやら。ノブを回して例のダイニングキッチンに足を踏み入れれば、思いっきりそこの椅子にメムネアが座っていた。

 姿勢と目つきからすると、うとうとしていたようである。

 天井からぶら下がったランプと、部屋の隅に置かれた燭台とに、赤く照らされた彼女の表情は、冬眠前の動物といったところだった。


「あー……うむ。おかえり、サトウ」

「ただいま。って、なんかすげえ眠そうだな」


 彼女は昼間と格好が変わっており、白地に赤紫の柄が入った貫頭衣を着ていた。

 布地面積少なめで、かなり楽そうというか、ラフな格好である。普段着だろうか。

 でも丈が短い上に、下着つけて無さそうな気配だけど、しゃがんだら色々見えちゃわない? 大丈夫? これ放送できる? 深夜帯行き?


「いや、眠いのじゃ。入れ替わり前はこうなる。というか、もう割と半分くらい頭が働いておらぬ」


 喋り方からするとまだ“ネア”で、“メム”には戻っていないようである。


「それより、そなたのその格好、どうした。何かあったのか」


 返り血をべったり浴びて、汚れちまった悲しみに、たとえば狐の皮衣、ネアもどうやら驚いたようである。

 ホラー映画のキャリーみたいになっちゃってるからね。


「帰ってくる途中で、変なウサギに襲われたんだよ。なあ、この血、落ちるか?」


 肌触り良くて、すごく気に入ってるんですけど、この服。


「大丈夫じゃ。普通の服なら無理な相談じゃが、そいつは特別製じゃからの。そのくらいなら綺麗にできるわい」

「マジでか。パネぇ」


 日本の衣類よりすごくない?


「ワシがなんとかしてやっても良いが……そうじゃのう。それより、この先のことを考えると、そなたに生活の魔法を教えてやった方が良さそうじゃの」

「ええっ!?」


 MAHOU!?

 そんな素敵なことが!? 起きちゃうんですか!?


 ネアは椅子からのろのろと立ち上がると、例の魔術部屋に行き、一冊の本を手に戻って来た。


「サトウ。これを貸しておくから、後で時間がある時に読んでおくのじゃ」

「はい、ネア先生」


 今、決めた。ロリの弟子でいいや。


「……な、なんじゃ、急に。サトウに先生言われるとなんか気持ち悪いのう。ネアでええわい」


 そ、そう? じゃ、ロリの弟子終わり。


 パラパラとめくれば、本に書かれているのは知らない文字である。

 だが、以前スクロールを燃やした時のように、知らないのに、読めた。

 なんだこの感覚。

 英語をヒアリングして、日本語の意味を当ててから理解するんじゃなくて、英語を英語のまま、翻訳しないで、脳内なんとなく処理する感じに近いな。


「スクロールの件から察するに、そなたは魔法については特別な人間じゃ。普通であれば、魔法の基礎を学び、発動までできるようにならんことには、本を読んでの独学でどうにかなるというものではないが、ま、多分いけるじゃろ」


 その言葉に、おおお、と、元無職、歓喜。

 いや、随喜。

 心の内、はらはらと涙を流しましてございます。


 最早、我が望み断たれたか、魔術の道を辿ること叶わずか、実父が常々漏らしていた「俺は実践空手道とブーメランを組み合わせた全く新しい格闘技の使い手だからな」という謎の言葉を受け継ぎ二代目として生きていくしかないのか、と思いかけていたところである。

 それなのに、俺の知る中で最高の術士であるメムネアさんから、突然の「才能ある」発言。

 泣くっきゃないよ。これ。


「ただし、魔術師には、力に触れる者としての責任がある。よって、手にして良い知識は儂が選ぶ。そなたは、儂の許可なくこの部屋に勝手に入ってはならん」

「えっ」

「え、ではない。返事は『はい』じゃ、『はい』」

「は、はい。わかりました」

「約束じゃからな? もし儂を裏切って入ったら、儂が責任を持ってそなたの息の根を止めるぞ?」

「ええっ。怖い」


 そんな大事おおごと!? こっそり入っちゃえば、とか思ったけど、やめだな。

 ネアはメムの時の記憶を持ってるから、メムに見られたら終了だし。


「でもまあ、その時はあれじゃな。せっかくじゃし、ワシにかかった呪いの力をもって逝かせてやろう。先日のようにベッドの上でな。わはは」

「ええっ………………こわい…………」

「な、なんじゃ? 言葉とは裏腹に、なんぞ期待するような気配がしたが……」


 俺は、大きく言った。


「そんなわけないでしょ。何言ってるんですか」

「そうか? なら、まあ良い。ワシ、もうだいぶ眠くてたまらんし」


 大あくびが漏れたよ。ちょっとかわいい。


「一応、メムにはお主が一緒に住むようになった経緯や、気をつけることなど書き残しておる。最初はお主がおることに驚くじゃろうが、ちゃんとそれを読ませてやれば、前回のような失敗はせんはずじゃ」

「失敗、ね……」


 メム密着時の感触を思い出し、俺は腕組みをしたまま、猫背になった。


「ただ、あれじゃ。そ、そなたの方から変なことをしては、元も子もないからな? メ……メムはお年頃じゃから、その……そっち方面の事に免疫が無いのじゃ。『すこすこ』に興味津々なのじゃ」


 他人事のように言ってるけど、あんたのことですからねそれ。


「だ、だからワシが幾ら事前に止めていたとしても、そなたが誘ってしまったら、その……凸棒を凹穴に差し込んでみたいと思ってしまうやもしれぬ。じ、じゃが、メムがいくらかわいい天使じゃからと言って、よくぼーに負けたら死ぬからな? そなたの側から自重するんじゃぞ?」

「具体的にどこまでがまずいんだ?」

「えっ……」


 ぎょっとした様子のメムネアさん。

 それ聞くの? という目をしていた。


「いえいえ、前回の何がまずかったのか把握しきれておりませんで。鼻水を舐めた記憶はありますが」


 言ってて、やっぱ変態じみてるなとちょっと思う。


「な、なにぃ……!?」


 突然、ネアが声を荒げた。


「そ、そなた、どさくさまぎれに、寝てるワシの、く、唇奪ったじゃろうが……忘れたとは言わせんぞ」

「えっ!? そ、そこまでしたかな……。というか、寝てたなら分かる筈が無いんじゃ……」

「分かるわい! む、無垢で清らかな乙女なんじゃからの、こっちは!」


 自分で言いますか。

 でも、そこまで強く言われてしまうと、俺の方はなにぶん発情期の戦艦大和だったわけで、色々自信はない。

 自然、思索と腕組みは深いものとなる。


 うーん……ちゅっちゅしちゃったかなあ。いやむしろカウパー先生だらだらのアレを押しつけちゃったかもしれないなあ。素股を求めて三千里。プニ肌は冥土の旅のロリコン一里塚。目出度くもあり目出度くもなし。まさか先端、ちょっと入っちゃってたりとか……。いやいや。そんな色んな意味で危険なことはしてないはずだ。でも……うーん……。


 そっか。自分が信じられない、ってこういう時に使う言葉だったんだな。


「と……とにかく、自重じゃ。命が惜しければ、そなたの方から自重。一応、ハグや手を繋ぐといったことならなんら問題ないし、体液交換であっても、同じコップを使って飲み物を飲む、くらいなら多分平気じゃと思う。じゃが、直接お互いの口を吸ったり、それ以上のことをしたりしたら死ぬと理解しておくのじゃ。良いな?」


 体液とか、口吸いとか、いちいち単語で反応しちゃう俺である。

 二十六にもなって、精神が中学生のままなのかもしれんね。


「分かったよ。気をつける」

「うむ。では、ワシはもう寝るぞ。本当はまだ色々話さんといかんことがあったのじゃが、それはもう次回じゃ。来週じゃ。そろそろ限界じゃ」

「あー待った。すごく大事なことが一つだけ」


 今にも部屋に戻って床につこうかというネアを呼び止める。

 どうしても聞いておきたいことがあった。


「なんじゃ? 今でなくてはならんことなのか?」

「ああ。一週間も我慢できそうにない」

「では、早う言え」

「前に魔術部屋で、俺、すごい気になるものを見つけちゃったんだよ」

「なんじゃ? それは」

「人の骨だよ、骨」


 それも、三人分である。


「あれは、何なんだ?」

「なんじゃ。大事なこととか言って、そんなことか……」


 はぁー……と溜息をつかれた。


 えー。なんでそんな反応なの。人の骨だよ? 鳥とかじゃないよ? 

 こっちはあれのことを考えると、今でもちょっとネアが怖くなるのに。


「あれはザンビディスの奴に頼まれた仕事じゃよ」

「……仕事?」

「うむ。ワシ、こう見えて割と腕のいい魔法使いじゃからの。専門は別じゃが、簡単な魔法なら大抵のものは通り一遍、使えるのう」


 さすがはレベル600オーバー。

 【MX】がすごいことになってそう。


「今回頼まれておったのは、あの骨の身元調べじゃ。あれらは先日、ツェツェーリ島でまとめて見つかった骨らしいんじゃが、完全に混ざってしまっておったからのう。降霊術の初歩を使って、具体的に何人分の骨なのか、とか、死因は何なのか、とか調べて欲しいという依頼じゃった。実際、調べてみたら、しばらく前にアルタの外から来た、戦士と盗賊の混成グループじゃったのう」

「なるほど……そういうことだったのか」


 じゃあ、むしろ野蛮な想像を膨らませすぎた俺が悪かったのね。


「なんじゃ? ワシのこと、怖くなっておったのか? ビビっておったのか? まったく、アソコ同様、肝っ玉の小さい男じゃのう」

「なんだよそれ。お前、俺のアソコ見たことあんのかよ」

「えっ」

「……」

「……」


 あった。見られてた。

 しかも初対面で。

 思わず赤面。


「……って、なんでネアまで顔赤らめてんだよ。自分で言っといて恥ずかしがらないでもらえます?」

「う、う、うるさい! もう寝るからな、ワシは!」


 銀髪をばさりとかき上げると、ガニ股でがしがし歩いて行く。

 かと思えば、くるりと肩口振り返り、


「さ、サトウ……その……これからよろしくな」


 ぼそりと呟いて、そうして、幼女は今度こそ家の奥へと姿を消したのだった。

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