第7話 囚われの
「じゃあ、打ち合わせ通りに」
「おう」
「兄さん、任せて」
「怪我しないようにね」
「ああ」
多勢に無勢。正面切って戦えるはずもない。
したがって俺達の作戦は単純明快に、
『不意打ちをして、かっさらって、とっとと逃げる』だ。
俺達が準備を整えている間に紫苑を捕まえた部隊は本体に合流してしまっていた。
正面入り口からさほど離れていない大広間。
其処につながる通路から双眼鏡で状況を確認した。
ざっと数えて今は総勢十八人ほど。けがをしている奴らも多いようだから戦力的にはざっと見、十二ほどと思う。
他六人組の二小隊が軍が拠点とした大広間を出入りして収穫物を集めていた。
部屋の中央付近に部隊長っぽいちょび髭のゴブリンシャーマンが居て、その前に手と足を縛られた紫苑が猿轡をさせられて転がされている。
周辺には三人ほど。
ゴブリンシャーマンに向かい合う形でリザードマンの恰幅のいい男。
リザードマンに付き従う形で狐人の女。
残りは整列してゴブリンシャーマンの後ろで整列している。
イヤホンからはマイクロドローンを通じて奴らの会話が聞こえてくる。
「他にはいなかったのですか?」
「はい、指令殿。こいつ一人でした」
「おかしいですねぇ。最近帝国の未開封遺跡を荒らしている犯人は複数犯と聞いているのですがねぇ。ひょっとして匿っているのですか?」
「ふごふごふご」
「これでは事情聴取もできませんね。猿轡を解いてやりなさい」
「よろしいので?この者はゴーレムを招き寄せる力があるようですが」
「かまいません。心配ならのど元にナイフでも当てておきなさい」
「んがうううううううううう」
狐耳の女がスッと動いて猿轡を解いた。
紫苑の顔が露わになる。
「コール『フ…』」
女がのど元にピタリとナイフを当てた。
「そのワードは禁止。口にしたら即座に刺します。話せなくなっても我々は構いません」
紫苑は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「ほう、これがヒューマンですか?顔がヒト型なのはよくある話ですが、確かに、羽もしっぽも角も牙も見当たりませんねぇ。ちょっと気持ち悪いです」
「どう見てもゴブリンみたいな長鼻したちょろ髭男に言われたくありません!」
「なんという言い草。ゴブリン王の血筋に連なるほぼ純潔に近い家系の私に向かってその言い草とは。この鼻の気高さが分からないなんて、一般常識に外れた娘ね」
指令と呼ばれたゴブリンはキッと紫苑をにらみながら、髭の先をつんと撮む。自慢の鼻と髭らしい。
よくわからないがゴブリン族的には美形なのだろうか。
あまりにもデミは個人の好みに差がありすぎて、この世界の美醜の感覚は本当に人それぞれだ。
しかしゴブリン族の誇りとやらを紫苑は傷つけてしまったようだ。
ゴブリンが紫苑の腹を蹴りつける。
ゴブリンシャーマンだけに大した蹴りでもなかったが紫苑は歯を食いしばり痛みに耐えている様だった。
「立場を知りなさい、ですねぇ。仲間はどこですか?」
「知らないし、もう居ないわ」
「今着ているその服はあなたのものではないでしょう。尻尾穴が開けられているのがその証拠です。持ち主はどこへ行ったんですか」
「知らないわよ」
「強情ですね」
「どうしますか?」
「拷問して吐かせるにしても、今は時間がありません。此処が開いたのを冒険者どもが直ぐにも嗅ぎつけるでしょうからね。まったく、情報の出所が間違いなく軍内部というのは嘆かわしい限りですが。さっさと出発しますよ。積み込みは順調ですか」
「指令殿、ヒューマンの死体の積み込み終わりました」
「どんな具合ですか?」
部下が袋を開けてみせると、其処にはミイラ化した遺体が無造作に放り込まれていた。
「―――――――――」
紫苑の表情が怒りに包まれる。
「ああ、駄目よ。動いちゃ」
ナイフにかまわず動こうとした紫苑を女が首に手をまわして組み伏せた。幸いナイフは刺さらなかったようだ。
「あらら、見事に干からびてしまってますね。ちょっと生体を取り出すのは難しそうですね」
「どうなさるのですか指令殿?ヒューマンと言っても干からびた遺体ではカギにはなりませんが」
「研究所のネクロマンサーに腕のいいのが居てね。ゾンビ化して情報を引き出す研究をしているのが居るの」
「ろくな死に方しなそうですね。そいつ」
「『死人に口なしはもう古い』ってのが口癖で、結構気のいいやつなのよこれが。元は科捜研で」
「気のいいネクロマンサーって突っ込みどころ満載ですね。旦那」
リザードマンは苦笑いを浮かべる。
「指令と呼びなさい。ギヤマン」
「これは失礼しました。アーネスト指令」
「ではそれをもって、そろそろ次に向かいますよ」
「手籠めにでも何でもすればいいわ。私たちの仲間をよくも」
――――――――――――ドスッ
ゴブリンシャーマンが再び紫苑の腹を蹴りつける。
「あまり怒らせないでほしいですねぇ。人をどんな下衆といっしょにしているのでしょう。」
「もう黙れ。それくらいにしておかないと命が無いぞ」
「ふざっ、もごごごもご」
女が猿轡を咥えさせて無理やり紫苑を黙らせた。
「こいつも運ばなきゃね」
「暴れると面倒そうだ」
「袋を一つ頂戴」
女が要求すると兵士の一人が袋を渡した。女は紫苑を袋から首だけ出して上からロープで縛り簀巻きにしてしまった
さらに懐からスカーフを取り出すと目も覆ってしまった。
「誰かお願い」
「では私が」
先ほど袋を持ってきた兵士が紫苑を担ぎ上げた。
――――――――――――今だ。
俺は翔太に合図を送ると同時に駆け出した。
「風の精霊 シルフィードに願う。対なる振動、半波長の波を揺らせ」
『ノイズキャンセル』
魔法が発動する。
同時に俺は走りながら大広間に入るタイミングでマイクロドローンに運ばせていた照明弾を遠隔で炸裂させた。
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