第6話 ヒューマンという鍵




「あちゃー、捕まっちゃったか」

「兄さんどうしたの」


「どうも、彼女、帝国の連中に捕まっちまったらしい」

俺は耳元をトントンとたたく。そこには音を出すイヤホンとかいう装置があった。手元の平べったい板には魔法の水晶球の様に映像が現れていた。水晶球のように球状に歪まないのはいいが、長時間の連続使用には向いていないのが残念だ。


パーティから先行して斥候を行いながら逃げ去った彼女を探していたところ、団体さんが何かと戦う音が聞こえてきた。俺はマイクロドローンというハエほどの大きさの機械を放って、自分はパーティのところまで戻ってきていた。マイクロドローンが音を転送してイヤホンに届けてくれる。

こうした便利なアイテムが先史文明人の遺跡から時折見つかることがある。

オーパーツと呼ばれる物だ。

俺たちはこれを求めて先史文明の遺跡に侵入する。


「さすがに帝国は感づくのが早いな」

「一応未開封の遺跡の監視をしてるもんね。実際はいつ開くかもわからないから警備はザルだけど」


普段は明けられない、入れない古代遺跡であっても中にお宝があるとなっては国が黙っていない。何らかの形で開くことができた場合、遺跡は解放状態になる。

その時オーパーツと呼ばれる先史文明のアイテムは早い者勝ちである。

その一番の収集家は軍であった。


「とすると俺たちが入ったのに勘づかれたということだな」

「そういうことだろうな、面目ない」

一応慎重を期して遺跡の侵入は入念に偽装して閉めてきたつもりだったが甘かったらしい

「俺たちに間違われて侵入者だと思われてるみたいだ」


「で、どうするの兄さん?」

「俺たちに間違われてとらわれたのに見捨てるのは寝覚めが悪い」

「兄貴ならそういうと思ったよ」

「僕も」

「まあ、仕方ないか」

「すまないな、みんな」

俺たちは一番にこの遺跡に入ったはずだ。しかし、帝国の奴らに見つかれば俺達はもう後は逃げの一手でアイテム探索を中断して遺跡から脱出するしかない。あいつらに美味しいところ全部持っていかれるのは癪だが仕方ない。


「顔ばれしないようにしないとな」

そう言って、みんなに目出し帽を配る。暑苦しく不愉快だが帝国の連中に顔がばれるよりはましだ。


この世界の古代遺跡は一部の例外を除き侵入にはヒューマンの生体の一部を必要とする。

しかし先史文明を作ったヒューマンはもういない。神話によっては去ったとも、争って滅んだとも、空の橋と呼ばれる古代遺跡のどこかで今も眠っているとも伝えられてきた


しかし、時に古代遺跡の扉は開かれる。

何故か?

無理やり壊して入るのかというとそうではない。

建物はどうなっているのか恐ろしくかたい石や金属でできており、地震で崩れた、ということでもなければ基本的に壊して入ることはできないからだ。

ではどうやって?


実はヒューマンは生まれてくる。

デミの中からとてもとても低い確率で。


神話によればデミヒューマンはヒューマンが自らの体の一部と二十四の神獣とを使って生み出したと伝えられている。


神代と呼ばれる少なくとも五千年以上前にデミヒューマンは誕生した。最初は氏族ごとに分かれていたものの、次第に交配は進み、今では一部氏族を除いて血は交じりあっている。親と子、兄弟姉妹で氏族が異なるということも珍しくない。

例えば、俺と鈴香と翔太は兄弟だが氏族は異なっている。

しかしそんな中、ごくごく僅か。数百万人に一人とかそんな割合で先祖返りとでもいうべきヒューマンが生まれてくるのだ。


氏族を作れるほど増えることもできないヒューマンは基本的に一代限り。むしろ権力者からすれば邪魔な存在でしかなかった。

加えてヒューマンはよく言えば平均的な力を持っているものの、悪く言えば器用貧乏で当人のパフォーマンスは必ずしも高いものではない。

神代には高い文明を持っていたヒューマンであったが、いつのまにか彼らは姿を消し、後にデミの中から生まれたヒューマンが必ずしも高い知能を持っているとは限らなかった。結局のところ技術は一人ではなく社会で培うものだったということだ。

それが露見すれば宗教的な力なども続かなかった。ヒューマンは権力者によって殺された。


それだけならヒューマンは権力を失ったというだけで済んだ話だが、ヒューマンに限って古代遺跡を開封できると発見されてしまったのが世界にとっての不幸の始まり。

それはその実、血の一滴、指の一本、目玉の一つ、でそれはできた。


百万に一人のヒューマンが死んだだけなら不幸な人がいたというだけだが、続いて起こったのは開封された古代兵器を使った戦争だった。

あまりにもかけ離れた文明の力による蹂躙だった。


幸いだったのはヒューマンの体が腐ったり干からびてミイラになってしまった場合は古代兵器は動かなくなった。

世界征服を文字通りやらかした権力者は兵器が動かなくなるやすぐさま反乱に会いつるされることになった

古代兵器は新たに勃興した国家により厳重に封印されたらしい。今となってはどこにあるのかもわからない神話の話だが。


加えてヒューマンは災いの芽を摘むとして生まれ次第即抹殺が国法として整備された。


それでもヒューマンは生まれてくる。


親が子を思い匿う


しかし人の欲望は尽きない。


ヒューマンの体が有れば古代遺跡を開く事ができる。そこからもたらされる富は莫大だ。ヒューマンが居ると知ればこれを狩る者達が現れる。そういうもの達にとって、ヒューマンはただのカギ。あるいは国を乱す原因となる異端。物言うカギになってしまっては五月蠅いのだ。異端を排除しなければ社会秩序が保てないのだ。

いずれにせよヒューマンには死が付きまとう。


そのヒューマンの生体が遺跡の侵入には欠かせない。

早い話、俺たちはそれを持っている。此処にいることがそれを物語っている。それが帝国にばれるだけでもヤバい話だった。

もし帝国に捕まった彼女がヒューマンだと知れれば、片っ端から遺跡の開放を行わされた挙句、処刑されるか、帝国に隷属するよう心を壊されるか、最悪体の一部をパーツごとに切り取られてダルマにされて、それでいて殺されもせず飼われるといったあたりだろう。


「おはようございます。死ね―――――じゃ酷いよなぁ」

リスクを考えれば見捨てるのが正しいのだろう。

でも、苦い経験が俺を彼女のもとへと足を運ばせていた。





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