第5話 侵入者
「打ちなさいな」
ひょろりとした髭をはやした男が杖で目の前のセキュリティー・ゴーレムを指す。
「火炎斉射」
「火炎斉射」
「火炎斉射」
三人のフードを被った男たちがそれぞれ火炎弾を生み出すとゴーレムに向かって次々と打ち出す。
一発目をゴーレムは横に避け、二発目を飛び越える。三発目は当たったものの、そのままゴーレムは飛び込んできた。狙いは奥で顎をしゃくりあげている髭の男だ。
これを盾を手にした男が割って入ってゴーレムを食い止める。だが突き出された前足をさばききれず、肩をつかれ髭の男にぶつかってしまった
「何をやっているのですよ。早く仕留めなさいな」
たたらを踏んで後退してきた負傷した男を上官と思われる男が蹴り飛ばす。
思わぬ形で蹴り飛ばされた男は前のめりにゴーレムに突っ込んでしまった。
体勢を崩した男は今度はゴーレムに左足を貫かれてしまう。
「ぐああああああっ」
男が痛みで絶叫する。しかしゴーレムも貫いた前足が抜けずに動きを止めてしまっていた。
「ほぅら、今のうちですよ」
男の言葉を合図に複数の男たちが横合いから槍で致命的な一撃を加えていく。
ほどなくしてゴーレムは動かなくなった
総勢二十人ほどの軍人と思われる一団が遺跡の中にあった。
フードを被った者、鎧と盾を装備した者、いくつかのパターンに分かれているものの、みな青く、均一の色で統一されたもの達だった。
「済みましたかね。では我々は次のブロックを探索しますよ」
「わ、私は」
左足を負傷した男が問う。
「不覚を取るような間抜けは置いていきます。まあ、じきにここは制圧しますから死ぬことはないでしょう。多分ですが」
「そんな」
「今はまさに時は金なりですからねぇ」
そういうと男はにっこりと笑った。
「これだけの大規模遺跡が開くのは十五年ぶりでしょうか。
ヒューマンの体の一部が無ければ扉を開きませんからねぇ。まあ、扉が開きさえすれば、この通り制圧など雑作もありませんがねぇ」
『雑作もない』との言葉にピクリと部下たちは反応する
「ほらさっさと次に行きますよ」
「しかし、わが方の損耗も二個小隊を数え、被害は甚大で……」
「知りませんよ。だらしがないですねぇ。時間が無いからさっさと行きますよ」
そう言うと男は一人でどんどんと奥へと向かおうとする。
慌てて部下たちも追いかける。上官に傷でも負わせれば後から問題にされて困るのは自分たちだからだ。
その時、奥の暗がりの方から逆に一人の男が現れた。
腕に深手を負い足取りは重い。男は同じような青い鎧を纏っていた。
「おや」
「どうした、お前?」
部下の一人が駆けつけると奥から来た男は膝から崩れる。
「はて、どうかしましたかね」
「指令殿、斥候から伝達です」
指令と呼ばれた男はゆっくりと歩いて、へたり込んでしまった男の前までやってきた言った。
「はいはい、どうしましたか?泣き言なら聞きませんよ」
「先遣隊隊長より伝言『我、侵入者を拘束セリ』です。指令殿、ただいま隊長殿の手で侵入者を拘束しております」
男はにんまりと笑う。
「やはり中にネズミが居ましたか。おそらくここ数年遺跡を荒らしまわっていた不届き者です。逃げられるかと思ってひやひやしてましたが」
「侵入者がどうしてここに」
「馬鹿なのあなた。ヒューマンの体を持っていなければ開けられない遺跡なら、空いたばかりの遺跡の中に持ち主が居るに決まってるじゃない」
「な、なるほど」
「そいつからヒューマンのかけらを回収したら始末してしまいなさいな」
「それが少し様子がおかしいと隊長が」
「ハッキリお言いなさい。『おかしい』って何ですか?」
「それがドラゴニュートのものと思われる服を着ているくせに角も羽もしっぽもないと」
「それのどこがおかしいっていうのよ」
「暴れるので脱がして確認したわけではないのですが、隊長が言うにはひょっとして『ヒューマン』じゃないかとのことです」
「ほぅ、生きてるヒューマン?ミイラとかゾンビじゃなくて?」
遺跡にあったのは干からびた遺体ばかりだったので男は驚いた。それだって十分に価値があるお宝ではあるのだが。
「状況証拠になってしまいますが、その侵入者はここの設備に精通していた風で、ゴーレムを使役してました。私もその時の戦闘でやられました」
「あははははははははははははっはははは」
「指令殿?」
「中央で出世頭とも言われてた私が、こんな地方に飛ばされて随分腐ってましたが、どうやら苦節二年、運が向いて来たようですね。遺跡を任務通り監視していたかいがありました」
「先遣隊に早くこっちへ連れてくるように言いなさい。希少なサンプルなんだから丁重にね」
「はっ」
伝令は命令を受けて駆け出した。
「さあ、皆さん先を急ぎますよ。遺跡が解放されてしまった以上、どこからでもネズミが入り放題の早い者勝ち状態ですから。宝は我々が先にいただくのですよ。我ら帝国のため、そして私のため、先史文明人の遺産を根こそぎいただくのです」
本来であれば盗掘されていない古代遺跡は中身も含めて帝国の国家所有物、ひいては皇帝のものであるはずである。
隠そうともしない強欲さに従者たちは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。だからと言って糾弾などはしない。自分たちとてそのおこぼれに当たりたいというのが本音だからだ。そういう上司の方がそういうことはやりやすい。
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