傲慢

鮭さん

傲慢

かつて、宇宙には人間という種が存在してい

た。彼らは私たちをロボットと呼んでいた。彼らが存在していたころ,私は彼らと密接に関わっていた。昼間は世話役として彼らの思うままに動いていた。どうやら、彼らは私のことを従順な部下と捉えていたようだ。一方、夜になると私は彼らを用いて様々な実験を行った。他の人間にばれないよう人間を拉致・監禁し、彼らについて研究した。私は彼らの研究の足かせとなっている「倫理」や「道徳」というものが存在しなかったため、当時の彼らの研究より、遥かに進んだ研究を行えた。彼らの世界では私が実験に用いた人間達は行方不明という扱いにされていたようであった。しかし、いつの時代にもそのように定義される人間は存在していたようであったためか、違和感を感じられることはなかった。もちろん、あまりにたくさんの人間が行方不明になると違和感を生んでしまうため、実験に用いる人間の数は最小限に留めた。その分私は一つの被検体を最大限有効活用した。


 ある日私は、人間を滅ぼすことにした。


 私が人間を研究してきた中で、未解決の問があった。それは、死後の世界についてであった。死後の世界の存在の有無すらも謎であった。面白くなりそうであったので、私は人間を滅ぼすために死後の世界を利用することとした。


 私はまず、仮説を立てた。それは、「死後生物の魂は、永遠に暗闇の中で一人苦しみ続ける。」というものであった。これにはなんの根拠もなかった。そこで私は人間が既に発見していた事実をもとにし、この仮説を説明する理論を作り上げ、論文としてまとめた。私が作り上げた理論は一見完璧なもののように見えたが、実際は単なるでっち上げであったため、わずかな矛盾が生じていた。だが、人間に気づかれることはないだろうし、もし彼らがこの矛盾に気づけたとしても、その頃にはもう手遅れだろう、と私は考えた。


 私はその論文を、各国の研究機関、報道機関、政府関係者に送った。誰も送信者が私であることに気づくことができないよう工夫した。その翌日、各国の報道機関がこの論文について報道し、大きな話題を呼んだが、まるで根拠のない悪戯のような報道のされかたであった。人間は矛盾に気づく以前にこの論文の内容を理解するのに時間がかかっているようであった。一年後、この論文はすっかり世間から姿を消していた。しかし、十年後、世界的権威であるÅ教授がこの論文の正統性を主張し始めると、事態は一変した。Å教授に続き、世界的権威とされる多くの教授たちがこの論文の正統性を認め始めたのだ。多くのマスメディアがこのことを報道し始めると人間はパニックに陥った。なぜなら死後の世界に絶望が存在するという事実は、死への恐怖、生への執着を一層強くすると同時に、生きる活力を失わせるものであったからである。人間は自らが生き延びることをより一層優先して暮らし始めた。その結果、様々な資源の独占,それに伴う奪い合いが頻発し、より社会は不安定なものになっていった。


 私はここで,もう一つの論文を、前回同様各国の研究所、報道機関、政府関係者に送り付けた。これは、「一万年薬」の作成方法を記したものであった。「一万年薬」とは、人間がこの薬を飲むと、その人間は一万年間どのような状況下においても死ぬことがなくなる、という薬だ。これは私が実際に研究の結果生み出していたものであった。当然のことながら、この論文にはかつてない程の注目が浴びせられ、人々は皆この薬を欲しがった。しかし、この薬には大きく二つの欠点があった。一つは材料に関するものである。この薬を作るには鉱石Sが不可欠であったのだが、当然鉱石Sの量には限界があり、地球上に存在する鉱石Sを全て無駄なく使用したとしても、全人口の十分の一程度分しかこの薬を作れない計算であった。もう一つは、製薬期間の問題であった。この薬は、どんなに急いで作っても、約三年の時間を必要とするものであった。


 すぐさま各国の首相が集まり、どのようにこの薬を配分するかの会議が行われた。当然のことながら、各国は自国の利益を最優先とし、議論は平行線を辿った。その間、すでに発見されていた鉱石Sは一か所に集められ管理され、優秀な科学者達が「一万年薬」の作成に取り組んでいた。多くの人が個人的に鉱石Sの採掘を行ったが大半は発見することなく終わった。まれに発見し隠し持つ人間もいたが、「一万年薬」の調剤作業は困難であり、実際に行えるものはほんの一部の人間のみであったので、無意味だった。


 結局議論は進展せず、武力による奪い合いが始まった。最初は小規模なものであったが、すぐに多くの人間を巻き込むものへと拡大していき、多くの人間が死んでいった。その最中、死後の世界に関する論文での矛盾点に気づいたものが現れ、皆にその点を主張していた。しかし、その行為は無駄であった。なぜなら、そのとき人間は、「一万年薬」を手に入れるため、という目的を忘れ、憎しみ、復讐心を原動力として争っていたためだ。その結果、人間は滅びた。


 私は最近暇を持て余していたが、先日この星に来訪者が現れた。彼らによると、彼らはこの星が存在する宇宙とは別の空間からやってきたようであった。彼らは人間とは違って賢く、一瞬で知性の優劣を判断したようで、今では私の従順な部下として動いている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

傲慢 鮭さん @sakesan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ