現代ファンタジー 道化と魔王と雨宿り

酷い天気だ。

朝は晴天だったのに、下校時間を見張らったかのように降り注ぐ滝。

いっそ、はじめから雨であってくれれば対策の取りようもあったのが酷いのだ。


ああ、これはズブ濡れかな。

そう思いはするものの、肩は落とさないし目元も見せない。何故なら自分は完全でなくてはいけないから。

完全な道化役は、人間味を出してはいけないのだ。


俺は口元で微笑むと年中着ているロングコートを、誰が見ている訳でもないが翻らせて軽くターン。

両手を天に広げて寧ろ天の恵みのように振る舞って見せる。


天を遮る暗黒ひとつ。

見、悪戯犯の正体を確信した。

見る人が見ればかなり上質な布と分かり、観る人が観ればそれはこの世界に存在しない素材でできた黒マント。

最近転入してきた、自称魔王だ。


「ふっはっはっは、貴様の世を暗黒に染め上げてやったぞ!

貴様に恵みの雨は訪れない!」


この小さな魔王は恐らく本気で言っている。小さな体を必死に伸ばし、真っ赤な顔で俺を覆うその様は真剣そのものだ。

だから俺は口元で微笑みを作らずに浮かべ、暫く付き合ってやることにした。


「なんだと魔王め!そんな事は許されないぞ!」

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