現代ファンタジー 甘やかし

甘やかし

 

 どたばたと、メイドが屋敷で生き急いでいた。

 それを見る髭面の主は、絨毯の上でごろつきながら、たゆたう顔で言う。

 

「雪ぃ~。そんな急ぐほどの事は特にないだろうに」

「そうなんですけどシェンフォニー様。

やっぱ癖みたいなものでして。常に仕事をしていないとどうも落ち着かないのです」

「あっはっは、たまにはゴロゴロしても良いんだよ?ほら、なんなら抱いてあげようか?」

「んなっ!?け、けけけけ結構です!!」

 

 コロコロと柔和に笑うシェンフォニーを見て、メイドの雪は歯をガタつかせながら、分かり易く動揺するがわざとでは無い。だから直ぐに、仕事に戻ろうとする。

 その時に、突然に、包み込まれた。

 シェンフォニーが後ろから、雪をキュウと抱きしめて頬を寄せたのだ。髭面だが、密着しても不快でないのは何らかの補正だろうか。フェチなのだろうか。

 あ、ちょっと香水の臭いする。その臭いは雪が好きだと何気なしに言った花の香りだった。

 

「今日の仕事は、俺と一緒にゴロゴロする事!」

 

 耳までトマトのように真っ赤にした雪はつい抱きしめてきた腕を軽く抱く。そして密着していなければ小さな声で言う。

 

「……少しだけですよ」

 

 シェンフォニーはカラカラ笑っていた。

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