第11話

              十一


「いい加減に久我先輩にまとわりつかないで下さいッ。先輩も迷惑してるんです!」

「だから、何度言ったら分かるんだ君。ボクは別に湊なんかにつきまとってはいない」

「その『湊』って呼び方やめてくれます? ハッキリ言って不愉快です、恋人でもないクセに」

「別にボクが湊のことをどう呼ぼうがボクの勝手だろう。君にとやかく言われるようなことじゃあ無い」

 高坂さんと千寿の声が廊下にも伝わってきていた。

 オレのクラスには男子女子問わず野次馬が群がって見物していた。

 オレは人の波をかき分け教室内に入っていく。

「ああ、湊来たのか。この子がさっきからボクの話を聞いてくれんのだ」

 千寿は普段は無表情な顔つきを珍しくしかめていた。

「先輩に話しかけるな! この泥棒猫ッ」

 千寿は観念したように両手をあげた。

「チッ。何、その余裕な態度。私とは戦うまでもないってこと? マジでむかつく」

 そう言うと高坂さんは彫刻刀をプリーツスカートのポケットから取り出す。

 ひえっ、と野次馬どもが一歩引いた。

「おい! ちょっと待って高坂さん。落ち着いて」

「先輩は何もしなくて良いんです。私がこの女と決着をつけるんです」

 そして悲鳴にも似た、甲高い叫び声とともに高坂さんは彫刻刀を構え、千寿の方に突進していった。

「やめろッ!!」

 オレが千寿を庇うように出した手に何か異物が入る感覚。

 生肉の塊に包丁を突き刺したような生々しい音。一瞬の金属が身体に入る冷たさと、それから熱さ、痛みがミックスした感覚。

 教室中に悲鳴が響いた。


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