第7話

             七


 ミーンミーンミンミンミーン。

 うだるような暑さ。体感温度四十度越え楽勝。こんな時に体育館でバレーボールやろうなんて正気の沙汰じゃない。

「いやいやあんな告白を受けてしまう君もなかなかどうして狂気の沙汰だと思うよ、ボクは」

「ん、あれ、千寿なんで教室に?」

 オレは教室に忘れた水筒を取りに教室に戻ってきていた。千寿は教室で一人、ペーパーブックを読んでいた。

「確か今日この時間は女子は水泳だよな……あ、そういうことか」

「気持ちの悪い気を回すな、湊。しかも的外れだ」

 千寿は今まで読んでいたらしい、ペーパーブックをパタンとたたむ。

「ん? あれ、ちょっと待って。今告白とか言わなかった?」

「うん」

「うん、じゃねーよ。なんでもう知ってるの」

 いくら親しいとは言え、こいつに話した覚えはない。

「噂になってるよ。こんな田舎町、しかも錦川駅の近くで、さらに大声で『結婚しよう』と叫んだ君が噂にならない方がおかしいでしょ」

 そりゃ、まあ、そうか。

「……………………」

 マジかよ。公開処刑だ。

「うわぁ……」

 オレはそのまま千寿の隣の椅子に座りこみ机につっぷした。

「『死ぬぞ』って脅されたんだって? それで告白してしまうなんてお人好しを通り越してアホだね」

「じゃあ、お前ならどうすんだよ」

「私なら迷わず速攻帰る」

 お前の性格ならそうだな。清々しくて羨ましい。

「でも良かったんじゃない。君念願の彼女作れたじゃないか」

「良いわけあるか。コクられた後にどういう結婚式をあげるか延々としゃべらされたんだぞ、六時間かけて」

「わお」

「家に帰れたのは夜の十時で、その後に寝ようと思ったらメールの波状攻撃だよ。三十秒に一回の割合でくるんだぞ。もう、バイブ音がトラウマになったよ」

「お熱いね、ヒューヒュー」

「しばくぞ、コラ」

「やってみれば?」

「……………………」

 オレは黙って両手をあげた。

「もう粗チンどうこうの問題じゃねえよ」

「問題がやまずみだね。どうすんの。その女、山に埋める?」

「さらりと怖いこと言ってんじゃねーよ!」

「海に沈める派か」

「派とかねーよ。なんで殺る気満々?」

 オレはもう何度めか分からないため息をはいた。

「殺る気満々と言えば陣内先輩をボクは思い出すな」

「…………誰を?」

「だから陣内先輩」

「そうじゃなくて、誰を、殺る気?」

「君以外に誰を殺るんだい?」

「……怒ってる?」

「そりゃもう。最近剣道部の入り口にポスターくらいの大きさの写真が敷かれてるんだ」

「敷かれてる?」

「そう。君のアップの顔写真がね。入室退室の時、皆で踏みまくってるよ」

「どんだけ恨んでんだ先輩」

 そして剣道部一緒に踏んでないで、誰か部長の暴走を止めろ。

「ちなみにその写真を提供したのは不肖このボクだ」

 胸を(あまり豊かではない)張って言う千寿。

「何やってんのお前!」

「これ以外に先輩を慰める方法を思いつかなくて」

「もっと色々方法あるよ! 考えろよ。オレの気持ち考えろ」

「興奮しちゃう?」

「誰がするかッ!」

 千寿が口元をワイシャツの袖で覆って小さく笑う。あれ? こんな暑い日なのになんで長袖のワイシャツ着てるんだ、こいつ。今までたいして気にしていなかったが(別に千寿が普段、何着てるかなんてオレに関係ねぇし)良く考えてみると変だ。

 極度の寒がりか、さもなくば重度のドM? 

 ……口には出さないでおこう、死に急ぐこともあるまい。

「君は女の子を傷つけたんだ。それくらいの事を受けて然るべきだろう」

 真顔に戻って千寿はそう断言。

「本当に先輩にすまなかったと思っているよ。マジごめんなさい」

「私に謝ってどうするんだよ」

「先輩に伝えといてくれないか?」

「やだね。君自身で伝えなよ」

 こういうところは厳しんだよなぁ、千寿は。

「会わす顔がないんだよ」

「別に私の知ったことじゃない」

 むぅ。

 千寿はペーパーブックを再び手に取って開いた。

「それより、こんなところで話し込んでて良いのかい? 体育の授業中でしょ、今は」

「あっ、やべ」

 焦って階段を駆け下がるも時、既に遅し。体育の遠藤教師に校庭十周を言い渡された。

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