第5話

              五


「何かあったかは敢えて聞かないよ、だいたい想像つくから」

「…………」

「でもね、剣道場に帰ってきた先輩の太刀筋めちゃくちゃだったんだよ」

「…………」

「どういう意味か分かるよね」

「うぅうう」

 翌日、朝のHR前。二日連続でオレは机につっぷしていた。

 先輩、昨日は本当にすいませんでした、マジ。しかしあの時の最善手とは一体なんだったんだ。それに先輩が初対面じゃないって言ってたけどどっかで会ったことあったっけな。

「うーん……うーん」

「どうしたんだい、便秘かい? だったら食物繊維を取ると良い。インゲン豆とか大豆に多い」

「おばあちゃんの知恵袋か、お前は」

「排便じゃなかったのか。じゃ、なんで唸っていたんだい?」

 本気で驚いた顔をしていた。

「………………」

 オレは千寿に「陣内先輩とどこかで会ったことがあるかもしれないんだけど、それがいつどこでかは分からない」という趣旨を伝える。

「ふーん」

「ふーん、じゃなくて分からない? 頭の良いお前なら覚えていない?」

「いくら君とボクが誠に不本意ながら幼馴染とはいえ、流石に君の記憶まで共有していないよ」

「そっか」

 まあ、本気で聞いたわけじゃない。

「ハァー、それにしても最近ついてねーことばっかりだ」

「ばっかり?」

 ドドドド、という足音が聞こえた。

「久我く~ん♡」「ちょっと今良いかな~」「五分だけで良いから」

 女子のイエローボイス。にプラス

「久我湊~爆ぜろ」「死ね~うどんで首くくって死ね~」「末永く爆散しろ」

 男子からの温かい声援。

 オレはため息をついた。

パトラッシュ、僕もう眠いよ。

「モテるねぇ、アホ面の分際で……」

 隣で千寿がぼんやりとした口調で辛辣なことを口にした。


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