第3話
三
「サァアア――――メェええええ――――ん」
「ドオォオオオオオ――――」
汗臭い道場に響き渡る裂帛の声。竹刀どうしが交差する時の乾いた音、床を震わす踏こみ。
思わず背筋が伸びるような空気だった。
「おい! 今日の雑巾当番、野村と加藤だろ」
「ス、すいません先輩」「今やります」
後輩と思われる男子生徒二人が慌てて廊下の水道に駆けて行った。
「まったく、たるみおって。活をいれてやらんと」
「どーも、陣内先輩」
先輩がこちらを向いた。ポニーテールが揺れる。
綺麗な人だ。白い道着と紺色の袴が良く似合っている。なんというか凛とした顔立ち。抽象表現で申し訳ないが、それよりふさわしい言葉が見つからない。
いや、もっとも彼女を正確に表す言葉はこの世界中のどこかに存在するんだろうが、あいにくボキャ貧の自分では見つけ出せない。
ああ……なんて言うんだろうな……高嶺の花? 違うな。親しみやすいようなオーラを放っている。うーん……。
「おう。来たのか、太刀。……それに、久我君か。あれ、私汗臭くないよな。待て今、消臭する……じゃなかったウン、あんまり綺麗なところではないがようこそ剣道部へ」
陣内先輩は何故かオレと視線が合うと顔を赤くしてふっと視線をそらしてしまった。
もしかしてオレこの人に嫌われてるんだろうか?
「湊、鈍感。つーかもはや愚鈍」
「え? グドン?」
あれか、帰ってきたウルトラマンに出てくるツインテールを捕食する怪獣。
「……ハァ」
なんでだろうか。千寿にため息をつかれた。
「んじゃ、先輩。ボクはお膳立てしましたんで、後は二人で話してください」
「! 別に連れてこいなどと私は一言も言っていないからな! 太刀が勝手に連れてきて……」
先輩が何やら取り乱すも、太刀はさっさと去っていってしまう。
「まったく太刀の奴、先輩に舐めたマネをしおって……」
先輩がブツブツ何かつぶやいている。
初対面の人と二人だけになってなんか気まずい。そういえばなんでオレは剣道場になんて着ていたのだっけか。
「あの、えと……」
「ィヤァアアア、コイヤ――――」
「ヤァアア――――コテっ、メエン――――」
「……ここはうるさいな。ちょっと場所を変えようか、久我君」
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