第2話
二
「それで湊はその後、卒業することなく、振られたと」
「…………」
「大人の階段上るどころか、転がり落ちたと」
「…………」
「ハッキリ言って君のナニは小学生レベルだからな」
「ちっくしょぉおおぉ」
オレは机につっぷした。泣いた。幸い放課後でクラスに誰もいないぶんマジ泣きした。
そんなオレの肩を太刀千寿はポンポンと叩いた。肩まで伸びた髪を黒いカチューシャでまとめ、眠そうな表情をしている彼女だが、根は体育会系である。怖い。
月並みな言葉を使わしてもらうのであればこいつとは、幼馴染で腐れ縁と言ったところか。(余談であるが『幼馴染ならモーニングコールして起こしてくれ』と冗談で言ったら真顔で殴られた)
「ドンマイ。でも、男の器はナニじゃないよ、度量だよ」
「うるせーよ! お前は女だから分かんねーんだよ、千寿」
「それならそもそも女のボクに相談するなよ」
「しょうがないだろ。オレの友達皆ダガーじゃなくてツヴァイハンダーなんだよ。消去法でいくとこんなこと相談できるのはお前しかいないんだよ」
千寿とは小学校まで一緒にお風呂入ってたわけで。
「確かにボクは女としてあまり認識されていないようだが、さすがにこれはセクハラにあたるだろう」
むくれる千寿。それから千寿は一回わざとらしくため息をつく。
「いい加減元気だしなよ。今回は相手の先輩が悪かったんだ。君の本当の良いところを見ていないダメな女だったんだよ」
「ううぅ……ユーコ先輩……」
はぁ、と千寿はため息をついた。
「でも、湊モテるんだよね」
「ん? なんか言った、千寿」
「いいや、何にも言ってない……おっと、早速」
千寿がスマホの画面をこちらに向けてきた。
りんか部長〈なあ、太刀、ちょっと聞きたいんだが〉
りんか部長〈君の友達の久我湊君? だっけが別れたというのは本当なのか〉
りんか部長〈いや、別にその子に対して私は微塵も興味などないのだが、マユミがどうしても知りたいらしいのでな〉
りんか部長〈どうなのだ、詳しく教えてくれ〉
ラインだ。多分、この人は剣道部部長の陣内凛華先輩だろう。錦川高校の誇る剣道部常勝無敗の女エース。
「って、もうこんな噂が流れてるのか。……あれ、もしかしてオレが粗チンだって校内中に知れ渡ってんの。オレ死ぬ」
「早まるな、湊。君とその元カノは違う高校なんだから。そこまでは出回ってないって」
「本当かよ、それ。お前を信じて良いのか千寿」
「もちろん。……あ、でもその元カノの学校では出回ってるかも分からないけど」
「やっぱ死ぬ」
「いい加減落ち着きたまえ。人の噂も七十五日と言う。案ずるな」
「七十五日間も久我湊粗チン説が流れてたまるかよ。やっぱ逝く」
「どうどう」
窓からスカイダイビングしようとするオレを千寿が体を張って止める 。
「湊、君の事だ。すぐに良い人が見つかる。それで幸せになって、その元カノを見返してやれ」
「……そうだよな、千寿。いい加減、現実を見据えないとな」
「そうだよ、その意気だ、湊」
「増大サプリ買ってみようかな。一ヵ月で十センチは伸びるらしいぞ」
「何パアっと明るい顔とサムズアップで言ってるんだよ。怪しいでしょ、それ絶対」
割かし本気なんだが。
「……ありがとうな、千寿。元気出たよ」
「そりゃ良かった」
千寿はそう言ってから、こう付け加えた。
「そんじゃ、ボクから一つ余計なお世話をしてやろう」
千寿がしばらくスマホの画面をいじくる。
それからまた、オレにスマホの画面を差し出した。
太刀〈本人から聞いたらどうっすか〉
太刀〈今から道場に連れて行きます〉
「おい、千寿。何勝手に決めてんだよ」
「良いから来て。悪いようにはならない」
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