第4話
「悠...斗...」
いつもの悠斗だ。会いたかった。なのに言葉が出てこない。
「ごめんね、ここでも遅刻しちゃった」
そう言って困ったように笑う。私はその笑顔を見て、胸が締めつけられるようだった。
「灯...?」
「なんでもない。私に言いたいことがあるからここに来たんでしょ」
やっと会えた嬉しさと安心よりも、悠斗の本心を知ることへの不安の方が大きくなっていた。
「そうだったね...。今日の誕生日に遅刻してごめん!結局プレゼントも渡せなかったから」
「......は?」
私はぎゅっと閉じていた目を開いた。目の前の悠斗は平謝り状態だ。
「せっかく買ったのになぁ。そういえば、もう今日じゃないんだね。僕の時間が止まっているだけ...」
「そうじゃないでしょ!」
私は叫んだ。その声に悠斗が驚く。
「だって私のせいで事故に遭ったんだよ。私が急かさなかったら、今も生きてたかもしれない。私が怒ってなかったら...」
「...灯のせいじゃないよ。僕が遅れたのが悪かったんだ」
優しい声で言い切る。
「なんで...いつもそうなの。なんで怒らないの、なんで優しいの、なんで...なんで!」
気づくと私の目からは涙が溢れていた。もう考えるよりも前に言葉が出てきていた。
「私はひどい彼女だった。いつも怒って、八つ当たりして、素直にならないでムキになってた。辛い時側に居てくれたのに、慰めてくれたのに、私ありがとうも言ってなかった。それなのに...」
言葉に詰まる。悠斗は驚いた表情のまま聞いていたが、ゆっくりと私を抱きしめた。
「そうだね。いっぱい振り回されたかもね。でも嫌いになったことはなかったよ。当然今もね」
「僕は、灯の前向きな所に惹かれたんだ。高校一年生の時の文化祭のこと覚えてる?」
私はよく覚えていた。確か出し物の本番間近に、何かトラブルがあったはずだ。
「あの時、周りが諦める中とっさに仕切ったのが灯だった。隣のクラスの僕たちは余裕があったから手伝っていたんだよ。灯は覚えてないかもしれないけどね」
結局出し物は急に中身を変えたせいであまりいいものにはならなかった。だけど何もやらないで終わらずには済んだ。
「灯は何か壁にぶつかった時に、ムキになってその感情で乗り越えようとするんだって、付き合ってから思ったんだ。僕はそのためなら、ある程度の理不尽は受けとめようって決めてたんだ」
私の知らない私を、悠斗はよく知っていた。
「それに付き合う前から怒りっぽいのは分かってたしね」
そう言って笑う。
「...うるさい」
私は力なく言い返すも、変わらず笑ったままだった。
「でも、もうその役目を果たすことはできないんだ。それを分かってくれる人は、あまり多くないと思う。僕は灯にはいつも前向きでいて欲しいんだ。これからもずっと。それを伝えたかった」
私は悠斗から離れてしっかりと顔を見る。
「うん、約束する。ちゃんと自分に向き合って...前向きに。今までごめん、そして...ありがとう」
悠斗は私の言葉に頷いて、いつものように優しそうに笑った。私は伝えられていなかった言葉を伝えた。
「悠斗...大好きだよ」
悠斗の目からは涙が零れる。
「よかった、不安だったんだよ。灯が僕のこと好きでいてくれてるのか。本当に、素直じゃないなぁ。あぁ...やっぱり、もっと一緒に居たかったよ」
私と悠斗はお互いに手を伸ばすが、幽霊のようにすり抜けてしまった。
「悠斗!」
「灯!いつも見守ってるからね」
「待って!」
悠斗は涙を流しながら笑っていた。
気がつくと私はベッドに横になっていた。時刻は午前1時になるところだった。どうやら眠ってしまっていたようだ。
(夢...だったのかな)
起き上がろうとした時、左手首に何かついているのを感じた。枕元の電気をつける。それは腕時計だった。薄いピンクを基調にしたもので、付ける人を選びそうなデザインだ。
(これって...)
悠斗と買い物に出かけた時に、彼が気に入っていた時計だ。私によく似合いそうだと言っていた気がする。
「...ばか。センス悪いよ」
そう呟くと、また自然と涙が出てくるのだった。
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