とりあえず剣を持たせたら魔法バトルが始まった件

 雷鳴轟く暗い船上で……2人の男が剣戟を演じている。


 筋骨隆々の大男にして海賊船の長ジェイクは貨物船を襲撃したのだが、そこに

長髪で優男の好青年アンソニーが乗り合わせており葬られた乗組員と貨物船員たちの屍が散乱する中、海の天候が一気に荒ぶり始めてから幾らも経っていない。


「十年振りだなぁ……アンソニー!」


 豪快に喉を震わせながら、そう言い放つジェイク……その両手にはサーベルに

してはやけに大振りで分厚い刀身を握り締め、軽々と振り回していた。


「故郷に帰る途中で貴様に会うとはな……」


 冷たい空気を放つようにそう述べたアンソニーは細身だが身の丈を越える刀身

が真っ直ぐ伸びた剣で応戦している……刀身には何かの刻印が彫刻されており、

それが魔法の武具である事を示唆していた。


「その剣も相変わらずだなぁ……氷魔法は上達したか!」


 威勢のいい声でジェイクが言うとアンソニーは剣に魔力を注ぎ、剣の刻印部分

をなぞるように光が走り、やがて凍気を纏い始めた頃にアンソニーは呟いた。


「アイシクル……」


 そして刀身を包むように氷が形成されていき……アンソニーの口が開く。


「スピアァァ!」


 その叫びと共にアンソニーは氷柱を纏った剣を突き出しジェイクへ突撃し……

ジェイクはサーベルを上空に投げ手の平を突き出し呟いていた。


「アイスウォール」


 アンソニーの剣がジェイクの手の平に届く前に、ジェイクの目の前に氷の壁が

形成されアンソニーの突撃を防ぎ……剣を包んでいた氷柱に亀裂が走るや砕け散

り、再び刀身が剥きだしになった。ジェイクは手の平を掲げながら言った。


「魔力で補強出来るってのに脆過ぎだぜ……やっぱり昔と変わってねぇなぁ」


 既に氷の壁は消失している中、ジェイクの頭上には6つの魔法陣が浮かんでお

り、その中から氷柱と思える先端部分が出て来ようとしていた。


「手本を見せてやるぜ……アイシクルフォール!」


 ジェイクがそう叫ぶと、6つの魔法陣から中型犬のサイズにはなる氷柱が発射

されアンソニーを襲う……次の瞬間、アンソニーの周囲から熱気が発生し6本の

氷柱は瞬く間に蒸発し……アンソニーはドーム状の炎の障壁に包まれていた。


「炎魔法に関してはお手の物なのも相変わらずじゃねぇか……」


 ジェイクは魔法を放つ際にサーベルを上に投げていたが、またも手に戻って来

たサーベルを手にすると、更に一言だけ放った。


「よっ!」


 その言葉の勢いに乗せて、回転するサーベルをアンソニーへ投擲した。

 アンソニーは自慢の剣で弾くが……サーベルが意志を得たように動き始めた。


「風魔法で得物を操作……昔よりも魔法の才に磨きが掛かっているな」


 魔法の武具の助けを借りないと炎以外の魔力を増幅させる事が出来ないアンソ

ニーに取ってジェイクの存在は許し難いものだが、そこには嫉妬の念もあるのか

もしれない。


「最近は闇魔法にも励んでるぜ……どれ、ちょっくら……」


 ジェイクはそう言いながらサーベルを手元に戻すと両手のサーベルを船に突き

刺し、両手を天に掲げると、その間に黒い球体が形成されて行き……


「ぶちかますかぁ!」


 黒い球体は膨張と共に上昇して行く中、ジェイクが呟く……


「シャドウ……」


 真っ黒だった球体の周りに黒いオーラが電気のように発生し、一瞬だけ真っ赤

な光を放ち、増幅されたエネルギーが今にも解き放たれそうだった。

 そんな黒い球体が更に膨らんだ次の瞬間――


「ボルトォォオ!」


 ジェイクの叫び声と共に黒の球体の中から黒い稲妻が次々と放たれ、赤と黒が

入り乱れるエネルギーの束が船上にあるものを容赦なく破壊し始めた。

 アンソニーは手の平から火炎の渦を巻き起こし盾としているが……完全には防

ぎ切れていないようだ……そんな最中。


「ぐぉおおぉおっ!」


 闇の稲妻がジェイクに直撃し、その衝撃で巨体が吹き飛ばされると共に魔法が

鎮静化し消失……起き上がりながらジェイクは言った。


「やっぱ制御が難しいぜ……魔力もバカ食いするってのによぉ」

「そうだ、これを聞いておこう……」

「何だぁ?」


 突然喋り始めたアンソニーに困惑しつつも返答するジェイク。

 アンソニーはこう続けた。


「ミラベルを……十二年前、お前が殺した焦げ茶色の髪で三つ編みの女性を……

覚えているか」

「あぁ、あのオレンジ色の瞳で見た目抜群のいい女か?」

「何故、殺した……」

「あの頃は宝の地図が手に入ってたんだが、その入口の扉を開く条件がある程度

魔法の素質がある若い女性の魂でよぉ……」


 ジェイクがそこまで言うとアンソニーの顔が険しくなっていった。


「おいおい、そんな条件で扉を封印したヤツだって悪いだろ? おまけにそれを

知った当日にお前とあの女が街中で歩いてるのを見たんだぜ……それが悪いとは

言わねぇが……俺の運が良すぎたってわけだ」


 アンソニーの顔は見る見る内に怒りの感情に染まり……体が小刻みに震え始め

何かを言いたそうな表情でジェイクを鋭く睨み……遂に口を開いた、次の瞬間。


「貴様ぁぁあああ!」


 海の中で爆発が起きたかのように水柱が上がり、音も盛大だった……

 だが、その音に驚いたのはジェイクのみならずアンソニーも怒りに水を差され

た表情をしていた。


「な、なんだぁ?」


 ジェイクの間の抜けた声が響く中、巨大な水柱はが引いて行き……海の中から

浮上した大きな存在の姿が露わになっていった……

 真珠のような光沢を放つ体に十本の触手にある吸盤部分は薄い青紫色。

 巨大な2対の瞳は燃えるような朱色で、頭部には血のような発色の赤い文様が

大きくある。

 端的に言うと形状はイカと酷似しているが、その体躯が砦よりも大きいのは、

まさにモンスターとしての風格を備えていた。


「クラーケン……デッドパール!」


 数あるクラーケンの上位種の中でも上位に位置する海のモンスターの名を……

アンソニーが叫んだ。


「なぁアンソニー……昔話の続きは後にしねぇか? このデカイのをどうにかし

ねぇと戦いでボロボロになった船が沈んじまう」

「ふん……」


 アンソニー不本意な様子でそう呟くとデッドパールの方へ体を向け、剣に魔力

を注ぎ始めた……それを見たジェイクが言う。


「お、お前の炎魔法が更に増幅されるのか……そんじゃ、俺は光魔法をぶっ放す

かぁ!」


 アンソニーは剣を掲げ、刻印に注がれた魔力を吸収するように剣先に炎の魔力

が球状となり集まっていた。

 ジェイクは両手を突き出し、手の平に光の魔力を手中させて行き……その光球

は七色に輝き始めていた。

 デッドパールは何やら触手の1本を奇妙な色の霧で包み、打撃の準備をしてい

るようだが……その攻撃よりもアンソニーとジェイクの魔法の発動が先立った。


「ヴォルカニックブレイズ!」

「プリズムブラストォォオ!」


 この際に起きた衝撃は、遙か遠くの大陸まで届いたという……

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