素敵な旦那様にダージリンを
運んでるお盆に載せたダージリンの湯気がわたしの顔を撫でる……味付けにはベリーを選んだけど……上手く淹れられたかな。
お茶請けのお菓子はメイド長自慢のクッキーだけど、このダージリンだけは、わたしが淹れる事になって、今はこうしてお屋敷の廊下を歩いてる……緊張してお盆の上の食器が少し揺れちゃってるけど……程よく硬い音が心地いい。
このお屋敷に奉公しに来た最初の日は驚いたなぁ……とても立派なお屋敷で、廊下だけでも幾つもの絵画が飾られてて……今通り過ぎたのはひと際大きい……目が三つで六本ある脚は手のようにものを掴める毛むくじゃらの化物……地味な緑色の体毛を白くして薄いけどカラフルな色を散りばめるように塗られた色合いと体毛の質感のリアルさは素人のわたしでも、いい絵だってわかる……
旦那様の部屋へ続く廊下なだけあって、真っ赤で金色の刺繍が施された絨毯の模様も結構凄い……さっきまでは硬い廊下の上を歩いてたから、その柔らかさが足の裏から伝わって来る……蜀台に灯った炎が静かに揺れ動き、道をぼんやりと照らしてる……もう少し、早く歩いた方がいいかな……
それから更に歩いて、立派な木製の扉をいくつか通り過ぎ……その中でも色が濃く、一つ目で牙の鋭い額から一本の角が生えた巨人の顔を模したドアの取っ手は純金で出来てる……と思ったら強度の都合でメッキなんだっけ。
このドアの向こうには旦那様がいる……早くお菓子と、わたしの淹れたダージリンをお届けしないと……そう思いながら、わたしは片手でお盆を支えながら、もう片方の手で扉を開ける。
「旦那様。お茶をお持ち致しました」
そのまま少し重たい扉を閉めてたら、旦那様がわたしに気付く……わたしはそのまま部屋の机にお盆の上のお菓子のお皿とダージリンを音を立てないように置いて……旦那様のお姿をほんの少しだけ眺める……いつ見ても、素敵なお方……旦那様はピンク色を基調とした赤いリボンの付いたドレスをお召しになられてて淡い黄緑色のフリル部分がいたるところにあり、下に着ている来ているドレスの色は純白で……今はその服に似合う帽子を選んでる真っ最中で、海を淡くしたような水色のつば広帽子には黄色のリボンが巻かれ、それを外して緑色のカチューシャに手を伸ばされてました。
腰まで届く濃い紫色の髪が今日も宝石のように輝き、まだ大人に程遠いわたしと変わらぬ外見とお肌ですのに、本当はわたしより年齢を重ねた御子息がいてもおかしくない年齢……お屋敷の中で誰が一番美しい女性か聞いて回れば、誰もが旦那様とお答えするでしょう。
女性であるわたし以上に、旦那様の女装姿は素敵で眩しくて……まだまだ帽子選びに時間が掛かるご様子ですが……
いつかわたしも、こんな可愛いドレスを着れたらいいなぁ。
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