同道堂

鯉々

第壱話:ドードーです。

 初めまして、ドードーです。

 ドードーはこの街に住んでいます。

 この街は普通の人は入れません。

 神様や妖怪が集まります。

 ドードーはこの店で一番偉いです。

 ここの商品はドードー自慢の品です。

 あっ、お客様が来ました。毛むくじゃらのお客様です。

「こんにちは」

 挨拶をされました。だからドードーも挨拶します。

「こんにちは」

「ちょっと見ていってもいいかな?」

 お客様はキョロキョロしています。欲しい物はどれでしょうか? ドードーもキョロキョロします。

 お客様が商品を手に取りました。ドードーは嬉しいです。

「あぁ! これこれ! 昔人の仔が使ってたんだよ!」

 あれはケータイと言います。肩から箱をぶら下げて、遠くの人とお話出来ます。

「これ、いくらかな?」

 ドードーは覚えています。何故ならドードーはこのお店で一番偉いからです。

「4千円です」

「よし! じゃあこれ買うよ」

 ドードーはお金を受け取ります。今日初めての儲けです。ドードーは凄く嬉しいです。

「はい。確かに受け取りました」

「ありがとう。また来るよ!」

 お客様はそう言うと、去っていきました。ドードーは少し寂しいです。

 お店の中から外を見ます。

 今日も通りは賑わっています。ここでは皆、優劣等無いのです。だってここは素敵な所なのですから。


 ドードーはしばらく外を眺めていました。

 おや、新しいお客さんが来ました。

「ドードーちゃん、やってる?」

 あの人は愛教千代子あいきょうちよこさん。元々人間です。産まれた時から、縁結びの力を持っていた不思議な人のようです。

 ドードーも元々普通の鳥です。

「こんにちは」

 ドードーは挨拶をします。愛教さんが笑顔を返してくれました。でもドードーは笑えません。

 愛教さんが商品を見ています。ドードーは愛教さんを見ています。

「ねえ、機織機はたおりきってここに置いてる?」

 ドードーは思考を巡らせます。機織機。確か倉庫に入れてました。

「あります。倉庫です。ドードーは取りに行きます」

「あっ! いいよいいよ。私が取ってくるよ」

 愛教さんは倉庫に行ってしまいました。ドードーは考えます。どうして愛教さんはドードーに優しくしてくれるのでしょうか? ……分かりました。きっと他の方と同じで、優しいからです。


 愛教さんが戻ってきました。ドードーは値段を思い出します。

「12万円です」

「12万かぁ……うん。ちょっと奮発しちゃおっかな?」

 愛教さんはドードーにお金を払いました。ドードーは凄く嬉しいです。

「ありがとうございます。確かに受け取りました」

 ドードーは出来る範囲で頭を下げます。

 愛教さんは少し申し訳無さそうな顔をしています。

「あの、さ……」

「何でしょうか?」

「ドードーちゃんはさ、あの、ドードーなんだよね?」

 あのドードー。ドードーはドードーです。

「ドードーはモーリシャス島のドードーです」

「そっか……あのさ、ドードーちゃんは人間の事恨んでる?」

「いいえ。ドードーは恨みません」

「でも、ドードーちゃん達が絶滅しちゃったのは……」

 愛教さんが悲しそうな顔をします。ドードーも悲しいです。

「ドードーがここに来たのは、忘れられないためです」

「……そうだね。私がここに居るのも、忘れられたくなかったからだよ」

「ドードーは忘れられたくありません。そしてドードーは皆の事を忘れません」

 ドードーはここの住人です。そして、あの世界で生きていた住人です。

「ごめん。ありがとう。答えてくれて」

 愛教さんは優しく笑い、ドードーの頭を撫でました。とても気持ちがいいです。

「それじゃあ、後でこの機織機、店のが取りに来るから!」

 愛教さんはそう言うと、手を振りながら帰ってしまいました。ドードーはまた少し寂しくなりました。


 ドードーは人間に思いを馳せます。

 ドードーは地球から居なくなりました。ドードーは苦しかったです。毛皮が無くなりました。体を切られました。血が出ました。熱いです。何だかしょっぱいです。

 でも、ドードーは恨みません。ドードーは皆の事を愛してます。皆の事を覚えています。

 ドードーは笑えません。ドードーは泣けません。でも、ドードーは愛しています。

 明日もお客さんが来てくれると嬉しいです。

 ドードーは、この滅び行く世界を愛しています。

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同道堂 鯉々 @koikoinomanga

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