カレンちゃん★リローデット

トカゲ

カレンちゃん★リローデット


 魔法が存在する世界……その世界の中心には大きな魔法の国があった。

 その国では犯罪者がはびこり、禁忌魔法を用いた犯罪が横行している。

 国の裏で蠢いている闇は驚くほどに深い――――


・・・


 カツカツと靴音を立てながら一人の少女が裏路地を歩いている。

 腰まで伸びた赤髪を風に靡かせながら歩く姿は美しく、洗練された少女の肉体には誰もが魅了される事だろう。

 皮の鎧の上から黒のジャケットを身に纏っている事を考えると冒険者なのかもしれない。


 魔法都市ニナオウコンラでは冒険者も珍しくないが、少女は何処か他の冒険者達とは違った雰囲気を出しているように見える。


 少女の名前はカレン・アハーン。

 かの大魔導士ノイ・クラベンの師であり、690年前に死んだはずの英雄である。


・・・


 崩壊龍との戦いの時に禁呪を使った反動でカレンの体は魔素へと変化して星に溶けたはずだ。これは輪廻の環を外れて星と1つになる事を意味している。

 だからもう2度と蘇る事も、生まれ変わる事も出来ないはずだった。

 

 「一体どういう事かしら?」


 それなのにカレンは気付いたら見知らぬ町の中にいた。

 調べて分かった事だが、ここはカレンが死んでから690年先の未来なんだそうだ。ノイが大魔法使いとして崇められ、カレンの事は英雄として教科書にまで載っているらしい。


 これは本人からしてみれば笑い話でしかない。

 魔導士の質も落ちているようだ。今では魔導士の下級職である魔法使いしかいないらしい。探せば魔導士もいるかもしれないが、それも都市伝説みたいに扱われてる。


 「神様は私に何をさせたいのかしらね?」


 カレンは裏路地で拾った木の枝を片手に溜息を吐いた。

 しばらく進んでいくと数人の男たちが道を塞いでいる。


 「おいおい、何処に行くんだよ嬢ちゃん? 俺達と遊ぼうぜ?」


 どれだけ年月が経ったとしてもチンピラはいるようだ。

 カレンは残念そうな顔で男たちを睨むとゲリッツの魔法を唱える。


 ゲリッツは相手の腸を刺激して排便を促す魔法だ。

 ゲリッツを掛けられたチンピラ達はもれなくズボンを茶色く汚す事になった。


 「ウンコ野郎に付き合ってるほど暇じゃないの」


 カレンがそう言って鼻で笑うとチンピラ達は怒りで顔を歪ませた。

 その間も彼らのズボンは膨らんでいくのでどんなに顔を歪ませても失笑しか起きないのだが。


 「舐めやがって! 後悔させてやるぜ」


 そういったチンピラの1人がポケットから錠剤を取り出すとそれを一気に飲んだ。その途端、チンピラの体は黒く変色を始め、次第に人の形を保てなくなっていく。


 「な、なんだこれ?」

 「おい、いっちゃんが化け物になってくぞ?」

 「話しが違うじゃないか!」


 どうやらこれはチンピラ達にも想定外の事だったらしい。

 いっちゃんと呼ばれたチンピラの体はその間も変化を続け、人の形から逸脱していく。その姿はカレンが倒した崩壊龍そのものだった。


 「冗談きついわね」

 「あハァ……いい気分ダ」


 大きさこそ人間と変わらないが、その姿は間違いなく崩壊龍だ。

 いっちゃんは周囲のチンピラ達に近づくと無造作に彼らを喰らっていく。

 もう、彼の人間だった頃の意識は残っていないのだろう。


 「良く分からないけど、なんで私が蘇ったのかは分かった気がするわ」

 「お前ノ ニクも美味そうだァ……」


 カレンは襲い掛かってくる崩壊龍擬きの頭を掴むと


 「フィジカルブースト」


 身体強化の魔法を自分に掛けてそのまま握りつぶした。

 紫色の血が飛び散って周囲を鮮やかに染め上げる。

 

 「対人最強魔導士カレンちゃんを舐めるんじゃないわよ」


 チンピラ達が着ていた服は確かこの町にある魔法学園の制服だったはずだ。

 これは調べてみる価値があるかもしれない。


 「久しぶりに学校に通うってのも良いかもしれないわね」


 カレンはそう呟いて暗闇に消えていった。

 彼女の戦いがまた始まろうとしている――――

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