第29話 傷ついても
あれから何年か経って、妹が大学生になった。その隣に私はいない。どんなに年を重ねても老けない化け物の姉がいる、そんな理由でいじめられでもしたら大変だから。妹が高校生になった時に私は置手紙を残して家を出た。その次の年には父が日本勤務になって二人暮らしを始めた。最初は私のことを探していたけれど、警察にもう見つからないと言われてからは私のことを少しは気にせず生きていけるようになった。心配かけてごめんなさい。この時、全ての元凶の女神が私達に住宅街の中から1つの一軒家をくれた。とても広くて、かつての家にそっくりな家だった。
さらにそこから何年かたって妹に子供が生まれた。優しい旦那さんと幸せに生きている。最終的に2人の姉妹と私の妹と旦那さんの4人家族で幸せな一般的な家庭の形。でも、子供に私の名前から一文字ずつ取っている。もう、私のことは忘れてほしいのに。
それから、妹には孫が生まれた。すっかりしわくちゃになっちゃったなあ。孫のことは本当に愛でていた。うん、どんなに年を取ったって笑っているほうがいい。このころ私はずっと変身していないと体がもたなくなった。
それから妹は入院した。時々、娘家族がお見舞いに来る。その時をいつも心待ちにしている。きっと、妹はもうすぐ死ぬ。優香ちゃんに『最期に挨拶しておいたら?』と言われたので、病院に行くことにした。フードを被ってなるべく顔を隠して。声でバレてしまうから伝えたいことはすべて手紙に書いて。病室の扉を開ける。妹のベッドまで歩いて行って、妹の手に手紙を握らせて帰ろうとする。すると、妹はほとんど見えてないのに呂律の回らない声で言う。
「おねえちゃん?」私は泣きそうになる。妹に先立たれることに、まだ私を思っていてくれたことに。泣いたらだめだ。そう思えば思うほど涙があふれてくる。泣いたら声でバレちゃうから、だから泣いちゃダメなのに。走って病室を出る。そのまま廊下を走って病院を出る。途中、
「走らないでください!」と注意されたがお構いなしに走って病院を出る。どんなに悲しいことがあっても私は戦い続けなければならない。この夜、私はいつもどうり魔獣と戦った。妹はこの世を去った。
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