第2話

ミリタリーバスケットクラス

 太陽がむかつくチョボを投げかけて、シリンダーマウスが22-5を指すようなひどい暑さのその日、驚くべきことに私がキツネ狩りのために通りに出ると探しものはすぐさま見つかった。全身にカキ殻でもまとったみたいなその人物は、たまたま私の目の前でリル・ニンの黄色い蓋を開けようとして盛大にぶちまけたところだった。幾つかの錠剤は側溝に落ちてネズミたちの餌になってしまったが――この街のネズミたちがその後大繁殖するようなことがあったとしたら、それはきっとこれに起因することだろう――幾つかは路上のアスファルトに落ちた。カキ殻は大慌てで路上にしゃがみ込み、ピンク色の錠剤をせっせと拾った。私は目の前にいたが、手を貸したりはしなかった。リル・ニンは安くない錠剤だし、万一拾うふりをしてくすねたなんて言いがかりをかけられたらたまったものじゃない。それになによりも、リル・ニンのお世話になっているということは、あまり他人に知られたくない種類のことだろうと思ったからだ。だから私は通りの何処かから流れてくるミートイン・コンボマーチの「活気が湧いてくる、元気がいっぱいだ」の部分のメロディーを口ずさみながら路上でせっせと動くカキ殻を眺めていた――とりわけ何の感慨もなく。ところがすぐに、私の目は驚きで大きく見開かれることになった。カキ殻は私が一番望むものーーギンギツネのクローネを持っていた。しかもちょうど3つ。私は冷蔵庫に貼ってあるカードを思い浮かべる。これは運命的な出会いと言っていい。

「なにかこぼしたのね。手伝うわ」私は腰をかがめて、カキ殻にしっかり見えるようにしながらピンクの錠剤を拾うのを手伝った。「よしてくれ。」彼は言った「どうせあんたも気づいてるだろうから言うが、おれがぶちまけたのはスタマスの錠剤さ」「スタマス?リル・ニンじゃなくて?」私は驚いて聞き返した。わたしの極めて迂闊なこの行動のために最初の作戦は失敗に終わった。「リル・ニン?リル・ニンだって?おれが、リル・ニンのお世話になってるようにみえるのか。」彼は興奮して立ち上がった。怒れるミミズみたいな血管を幾筋も浮かべて。スタマスかリル・ニンか、さしたる違いはないように思えたがそれはともかく、彼のプライドを悪い方に刺激してしまったらしいのは確かだ。私はヘマをやって、作戦は修正を余儀なくされた。私は私の代打に――こんなときミーポだったらどうやるだろう――ミーポになりきることにした。「あの、別に恥ずかしいことじゃないと思うわ。リル・ニンでもスタマスでも完全永年初期不良(コンガマチック・ブラック)でも。私はただ、あなたがちょっと気に入っただけ」相手の目を見て、そう言ってやる。それはいかにもミーポがいいそうなセリフで、しかも効果は面白いほど覿面だった。夕方ひととおりの手筈を終えて部屋に戻った私の手には3つのクローネと、ついでによく冷えたジャイロ33の半ダースがあった。冷蔵庫に貼られたものと合わせて縦横5×6、合計30個のマスがピッタリ埋められた。30個集めるとA賞に応募できる。いうまでもなく、それはミリタリーバスケットクラスだ。

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