サーフ・ア・ゴールドウェーブ

仄ら

第1話

ライスフィールド

ミーポとCDJが死んだのは私がまだラズベリー・アシッドにいれあげてた頃で、その頃はスージーみたいに肩にハーケンクロイツのタトゥーを入れるのが夢だった。結局そのタトゥーは親に見つかって田という変な図形に変えさせられてしまったけど、日本人のキムに言わせるとそれはtaまたはDenといって、ricefieldという意味をもつ漢字らしい。けれど私にとってそれはもはやどっちでもよかった。私はライスフィールド、足元は泥沼で、それに19歳だった。

CDJは日本かぶれの忍者マニアで、いつも葦のストローを片手に水を溜めたバスタブに篭っていた。2時間34分が最近の彼のベストタイム。記録を更新するとものすごくハイになって、あちこちの壁を蹴ったり、ポントミアムの大瓶を粉々にしたりしたけど、誓って彼はバスタブで忍者修行以外のことをしたことはなかった。ニンジャたるもの不摂生は厳禁、そういってアメローラの一粒だって口にしようとはしなかったし、ミーポとだってマダガスカルや、黒ベンヤミンを使うような関係にもついぞならなかったことだろう。それはきっと彼等の最後の時まで。

ソナチネの娘のミーポはいつからかCDJの足元にいつも転がっているようになったピンク色のショートヘアをしたおかしな娘――そういえば性別を確かめたことはなかったが――で、まるで糸で操って生き物のように動いて見せるチープなおもちゃの大人向けラージサイズみたいだった。しかもそれは男性向けで、いつもマシュマロみたいなふわふわした下着をスカートから覗かせながら、CDJの部屋に転がっていた。

CDJは多分どちらかの足首につけた糸を見えないように巧みに動かしながら、ミーポという存在しない架空の生き物をさも実在するかのように動かしていたに違いない。今となってはそうであってほしい。私はあのあとからおかしな幻覚を見ることが多くなったし、ムラカミ・ハルキに犯される夢を週に三日は見る。一言で言えば最悪だ。ムラカミ・ハルキは「オンニョム、オンニョムだよ」。とか「ヤムニョン、ヤムニョンだよ」とか親切そうにいいながら、私に虫の湧いた緑の不気味な肉片のようなものを食べさせようとする。私が怖がってサイレント・バービーみたいに暴れたり泣いたり拘束を解こうと鎖に噛み付いたりすると、彼はいつもやれやれ、と言って、強引に下着を下ろさせてあとは乱暴に私を犯すのだ。そんな夢だ。

まがい物のミッケル・パックスの50枚綴り――きのうナイジェルが酔っ払って置いていったやつののこり――に火をつけて吸い込む。私の換気塔がデタラメになって、内蔵ポンプを焦げた毛むくじゃらのアルマジロみたいにする。なにしろ今や私にはそれしか仕事がないし――いや、本当はもう一つある。街へ出かけてギンギツネのクローネを見つけて、その折り返しについてるクーポンをくすねることだ。冷蔵庫に貼ってあるカードにあと三枚のクローネを貯めたら、ホローキー・メークス・マッシュのミリタリーバスケットクラスに応募できるようになる。当選したら私は早速その権利を売り払うだろう。それからスポルディングあたりにアパートを借りて、そこでやり直す。ばかげたラズベリー・アシッドはもうたくさん。何が「ミランダはザクロの花を拾った」だ、何が「イルキュロプトの恋人」だ。吐き気がする。けれど「ノックスヘッジの学芸会」と「スパイダー博士の楽園生活」、「ゴアマックス・マニュアル 愛蔵版」は今でも悪くない。のこりはみんなゴミで、それらはかえりみる価値もない。

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