5-6
「……拒否反応なし、か」
ある装置の中で浮かぶ彼女の様子を見上げて、レーツェルはそう呟いた。
今彼は、例の広大な部屋で一人作業を行っており、周囲は蛍光電気灯の光で満ちている。
部屋の様相はさながら工場だった。壁には大量の配管がびっしりと並び、ごうごうと音を響かせている。セメントコンクリートで固められた床には大小さまざまなケーブルが横たわっており、そのケーブルが接続されている機材は、あるものは青白い光を放ち、あるものは計器をしきりに動かして必要な情報を吐き出していた。
ここは地下ホロ・ファクト。その中枢である。
ただこの部屋の壁――ちょうどレーツェルの背後にある箇所――には、大人一人が余裕をもって出入りできるような大穴が開いていた。それは隣の部屋と繋がっていて、特に修理もされないまま放置されている。
(目覚めるまでしばらく時間はかかるか)
いつもの作業着と白衣を纏った彼は、自身の周囲にかためて配置された機材たちの中から、部屋の中心に据えられた装置と少女を今一度眺める。
その装置の外見を端的に表すならば、巨大な卵だった。
透明なガラスで成形された五メートルほどもある楕円形の物体が、床から数センチ浮き上がる形で、上部にある円筒形の装置に機械的に接続されている。そして真下の床からは、無数のコードが伸びてその卵に吸着していた。
卵の内部にあるのはオレンジ色の溶液と、一糸纏わぬ姿で目を閉じる一人の少女。
彼女の口元には、装置の上部から伸びる黒いマスクが張り付いており、まるで拘束具のように彼女をその場に固定していた。
(理論上は、これでいいはずだ)
満足げに、レーツェルは彼女を見上げる。
この少女は当然生きている。だが精神的には、彼女は死んだも同然の状態だった。
事実を遠ざけるために縮小した自己意識は、外的な作用への反応を鈍らせる。つまり今の彼女は、精神的には非常に脆く、無防備といえる状態だった。
あとは彼との融合が果たされれば、彼女はそれとして起動するだろう。
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