5-5
あの光景だけが、頭の中で繰り返される。
手に感じるのは、冷たく硬い感触と、暗い重さ。
そして、人差し指が動いた直後、息が詰まるような反動が体を抜けてゆく。
目の前に倒れているのは、彼。
なぜそんなことをさせられたのか、それはわからない。
しかし、彼を殺した感覚ははっきりと体に伝わってきていた。
それはまるで、癒えぬ傷痕。
痛いと思えばいつの間にか治っていた体の傷と違って、それはいつまでたっても体の中にわだかまり、癒えてくれない。消えてくれない。
――彼が死んだ。
それを認識した時、全てが閉ざされるような感覚に陥った。現実味のない闇が思考を支配するのを感じた。
そして同時に気がついた。
自分の中にいる『彼女』の存在――彼女の遺志に。
彼女は、泣かせてしまった彼に、もう一度笑ってほしかったのだ。
なのに――。
殺した。
彼は血を流した。
彼は呻いた。
それはとても、苦しそうで、とても悲しかった。一緒に居たいという願も、もう届かない。
彼女でない自分も惹かれていた彼は、もういない。
魔法使いとなった彼女を殺した彼も、こんな気持ちだったのだろうか。
だが自分はそれに耐えられず――だから、闇に任せて全てを閉ざした。
それからすぐに、声は聞こえた。
それは、頭の中に直接囁くような声。
それは、自分でない何か。
それは、自分でない誰か。
そしてそれは、がらんどうになった自分の体に、ひどく容易く馴染んでいった。
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