広がる大地

「な、なんで?ダンジョンの中なのに……」


 ロイスが呆気にとられた顔で51層を見渡す。


 天井は輝く光が差し込み高さを測れず、洞窟の迫る壁は無く、踝程の草木が水平線の彼方まで広がり遥か彼方には山々が隆起している。


「すげ〜!!」


「素敵〜!!」


 ロイス達“群雄割拠ナンバー・オブ・パワフル”は初到達51層の景色を眺めてニヤけている。


「ロイヤルベルが所有する“グレイスガーデン”は51層からが極端に景色が変わる。まるで違う大地にいるみたいだろ」


「はい……こんな事になってるなんて知りませんでした……」


「広すぎるだろ……」


「久しぶりの明るい光になんか気分が上がりますねぇ〜」


「だね〜、昼寝でもしよっか〜」


 51層の雄大な景色に和みながら足を進める。


 足を進める。


 足を進める。


 ……??


「ミナトさん? ここって次の52層へはどうやっていくのですか?」


「心配するな、ちゃんと階段がある。このどこかにな」


「はは……」


 ロイスは苦笑いを浮かべるしかなかった。目の前にはダンジョンとは思えないほど遠くまで景色が広がり52層への階段なんてものは見る影もないのだ。


「ミナトさん、階段ってどこにあるんですか?」


「知ってるが教えないぞ。お前達が探さないと意味がないだろ??」


 この冒険はお前達の冒険だーそう話すとロイスもすぐに納得して4人で51層を歩き52層への階段を探す。


 51層ももちろんモンスターは出現したがミナトは手出しはしない。


 50層で教えた事の繰り返し。そんな言葉を言ったりはしないがロイス達はミナトの思いを汲み取りひたすらモンスターを狩っていく。


 途中、木の下にあからさまに置いてある宝箱に「ラッキー」なんて浮かれた言葉を発しながらノーヴが開けようとしたため、ミナトがノーヴの首根っこを捕まえて後ろに投げ飛ばすと形を変えた宝箱がノーヴが居た場所を飲み込んだりしたハプニングがあった。


 冷や汗を流して笑うノーヴに怒りを灯した目をした3人が座らせて説教した姿をみたミナトは腹を抱えて笑っていた。


 そして、天井の明るさが徐々に落ち始め夕方を思わせる景色が辺りを包み込む。


「よ〜し、今日はこれくらいだな!どうする?帰るか?」


「何を言いますか!! ミナトさん!! ここまで来たら夜営でしょ!? キャンプでしょ!? なぁ、みんな!!」


「「「え〜っ」」」


 テンションがやたら高いロイスとは対称的に、ノーヴ・オクトーバ・リリアンはロイヤルベルに帰りたそうな声を出して反抗したが、ロイスが気づく筈もなくキャンプに突入した。


 夕食は干し肉に、野菜スープだ。リリアンがダンジョンに来る前に作って来たお手製の料理らしく、干し肉もしっかり味が染み込んで野菜スープも疲れた体の事を考えて野菜多め、塩分控えめにしていた。


「「「うまっ!!!」」」


 冒険者よりもロイヤルベルで料理屋開いた方がいいんじゃない。リリアンって。


「ミナトさんはなぜ冒険者に?」


 夕食も済み一息ついていると、ロイスから質問を投げかけられた。ロイスはよくミナトの事を気に掛けてよく話しかけてくる。意地悪な質問とかは無く、ただ純粋に聞きたい事を聞いているだけだ。


「オレは元は小さな村出身だ。小さいながらも何も困る事なく過ごしていたんだが……。突如、近くにダンジョンが出来てな。何の知識もないオレ達は、何も起きないから放っておいたんだよ。だが、それからすぐモンスターに襲われてな……村が壊滅してしまったんだ。んで、たまたま拾われた人が冒険者だったってだけで冒険者になったんだよ」


 ミナトの話に耳を傾けて聞いていたロイスたちは話を聞き終わると、申し訳なさそうな顔をして円を囲んだ真ん中にある焚き火を見つめる。


「まぁ、後悔はしてないんだ!! 色んな所に旅が出来たし強くなれたし! お前たちともこうやって冒険できるだろ?」


 暗く沈んだブラックコーヒーような雰囲気にミルクを落として薄めるように、ミナトは明るく話す。ロイス達も焚き火に沈んだ顔を上げて、ミナトを見ると微笑んだ。


 そして、夜中は見張りを交代しながら就寝する。


 一人は昔の思い出に浸りながら昔いた仲間を思う……。


 一人は今日練習した事を反復するように頭でイメージして明日に活かそうとする……。


 一人は自分がどこまで高みに行けるのか不安ながらも心躍らせている……。


 一人はもうすでにイビキをかいて寝ている……。


 そして天井に光が戻り始め朝を告げると、キャンプを畳み動き始めた。


 今日もただ次の層への階段を探す。森の中。山の上。川の中。全てを探すがどこにも見つからなかった。


「ミナトさ〜ん。どこに次の階段があるんですか〜?? 散々探しましたけどどこにもありませんよ〜」


 パーティの言葉を代弁するようにロイスがミナトへ萎えた声でヒントを求めた。


「ははっ!! わかった、わかった! じゃあヒントな。ヒントっていうか答えになるんだが……あれだ!」


 ミナトは51層へ上がってきた階段を指差した。


「あれは上がってきた階段ですよ?あれがヒントですか……」


「あっ!! ロイスわかった!!」


 ミナトのヒントに頭を傾げるロイスだったが横で見ていたリリアンがヒントを読み取り階段へ向かった。


「見て見て!! 後ろに上がる階段があるよ〜」


 ロイス達も呆れた顔をしてリリアンの元へ向かうと50層から上がってきた階段の真後ろに51層へ上る階段があった。


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 冒険者を嘲笑うかのような階段の配置にキレたロイスは51層の天井に向け、響き渡る雄叫びを上げて苛立ちを解放した。


 そして第52層。


 第51層と変わらず大自然が広がる地形を有する52層に入り、また辺りを調査しながら次への階段を探す。


「ミナトさん。階段は見つかりませんが今日はそろそろロイヤルベルに帰りませんか??もう魔石が一杯で」


「おぉ、そうか! じゃあ帰るか!! 急がなくてもグレイスガーデンは逃げないからな! また明日から頑張ろう!」


 ロイス達パーティは50層に降りて女神像に祈りを捧げてロイヤルベルに帰って行った。


 次の日、ロイス達はギルドへ行き、魔石の換金とレベルの更新を済ませて集合場所の中央噴水前に集まった。


「よっしゃ〜!! 今日もダンジョン頑張ろう〜」


「どうした?ノーヴがやけに張り切ってるぞ?」


「あ〜、レベル更新に行ったらやたらレベルが上がってて浮かれてるんですよ」


 上機嫌なノーヴの理由を聞いて呆れ顔をするミナトは、向日葵のように笑い合うパーティの中で一人苦い顔をするロイスが少しだけ気になった。


 ロイス達は52層へ向かい、次の階段を探しつつモンスターを狩っていった。自分のスキルの習熟を図る4人だったがロイスだけ精彩を欠いていた。


「くそっ!!」


「ロイス〜、防御が遅いぞ〜。昨日はしっかり防御出来ていたモンスターだろ。しっかりしろよ〜」


「くっ!! はいっ!!」


 気合を入れ直して戦うが調子は戻らずキュア・ボトルを大量消費する一日となった。


 次の日も次の日も52層でモンスターと戦う。オクトーバとリリアン、ノーヴはスキルの使い方が体に染み付き、以前よりもスムーズに武器を降っている。


 だが、一人だけ日を増す毎に動きが鈍くなりスキル《モーメンタリー・ガード》の発動率も下がっていった。


 その夜、ロイヤルベルに帰り着いたミナトは、宿屋でゆっくりベットに倒れ込み天井を見て、物思いに耽っていると扉を叩く音が聞こえた。


「はいよ〜、おぉ、ロイスどうした?」


「すいません、ミナトさん。ちょっと相談がありまして……」


 挫折感を漂わせるロイスが部屋の前に立ち、ミナトに助けを求めてきた。




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