ロイヤルベル

グレイスガーデン

 幻想的な景色が広がるーー。


 山から浸み出した湧水に何万年という歳月をかけ侵食されてできた巨大な洞窟。


 洞窟の下には湧水が溜まると湖となり、中心にある都市に向けて1本の道が侵食から逃れ残っている。


 ーー鉱山都市“ロイヤルベル”


 鉱山都市という名からは想像できない程、整地されたレンガ造りの街並み。


 魔石を散りばめた器の中へ火を灯し街灯から吊るすと、オレンジ色の光が乱反射して耿々こうこうと光を散りばめる。


「「「「ミナトさんに〜〜かんぱ〜い!!」」」」


 オレンジ色の光に照らされる街並みが幻想的に写るロイヤルベルの酒場で、木樽が重なる音が響く。


「いや〜助かりました、ミナトさん。あのまま助けてもらえなかった危なかったですよ」


 木樽に注がれたビエールを一気に飲み干し、ミナトに感謝するのはこの4人パーティ“群雄割拠ナンバー・オブ・パワフル”リーダー・ロイス。


 彼らはここロイヤルベルが所有するダンジョン“グレイスガーデン”全120層の45層でモンスターに囲まれていた。


「すいません……。スイスイ進める事に強くなったと過信してしまいました……」


「あのフロアのモンスター《エル・クレイ》は粘土状の人型奴隷を作り出す。レベル50もあればスイスイ倒せるから調子にのって倒していくとそのままエル・クレイの巣に誘導されて最後は……」


 ミナトは木樽に注がれたビエールを飲み干すと首に親指を当てて横に振るった。


「うぇっ、あぶねぇ。死ななくてよかったぁ〜」


「いや、元はと言えばノーヴが調子に乗るからだろ!!」


 お互いを指差して笑い合うのはハーフエルフのノーヴとドワーフのオクトーバ。


「ミ、ミナトさんはあんなにいたエル・クレイを一瞬で倒すなんて……強いんですね」


 ビエールでなく酒をライムで割った飲み物をチビチビ飲み、遠慮ガチに話しかけるのはこのパーティの紅一点・リリアン。


 ミナトはこのパーティが100体以上のエル・クレイに囲まれている現場を発見し、特殊剣技リミット・オブ・ミニッツを解凍して1分の間に殲滅させ救出したのだ。


 ロイス達は目の前で100体以上ものエル・クレイと戦い、見た事のない武器を振り回し、赤い残像を残しながら殲滅していくミナトの姿に見惚れていた。


 殲滅終了後、ロイス達にロイヤルベルに帰るように指示すると、お礼を兼ねて飲みに行こうと誘われ、今に至る。


「すいま、せ〜ん。ビエール3つ!!」


『はぁ〜い』


 ノーヴがビキニ姿の獣人族の店員に追加を頼むと、ミナトは45層にいた理由を聞いた。


「もちろん、グレイスガーデンの攻略に決まってるじゃないですか!!」


「ですが……私たちはまだレベル50程とまだ弱いのですが地道にレベルを上げていつかは120層まで到達したいのです!!」


「んで? それからどうするんだ?」


 ミナトの言葉に耳を赤くしてモジモジし始めたロイスを隣で見ていたノーヴが代わりに答えた。


兵団レギオンを作ってぇ〜世界一の兵団にしたいのさぁ〜!!」


「うわぁぁ〜、やめろ、ノーヴ。恥ずかいだろ」


「いいじゃん、いいじゃん、ロイス!! 夢はでっかくだよ〜」


『はぁ〜い、ビエール3つおまち〜』


「いぇ〜い……んぐんぐんぐ……プハァ〜!!」


 2杯目のビエールにかぶりつくノーヴと顔を赤くするロイス。


「いいじゃないか……世界一の兵団レギオンになるんだろ?夢はでっかくだよ……」


「「な〜」」


 ノーヴとミナトは息を合わせて答えると再度乾杯してビエールを飲み干した。


 そして楽しい時間も過ぎミナトが帰ろうと席を立つ。


「じゃあな、今日は楽しかった!」


「……ミナトさん、無礼とは思いますがお願いがあります。私たちのパーティに加わってもらえませんか?」


 ロイスがパーティへの参加交渉を始めるとさっきまで酔っていたノーヴやオクトーバ、リリアンもミナトを羨望の眼差しで見つめる。


「おれは文句も言うし、危なくなった時しか攻撃に参加しないぞ?それでもいいのか?」


「はい!! よろしくお願いします!!」


 性格や性別も全く似ていないがロイスの眼を見て、出会った時のミオの眼と重なり無下に断る事をやめ、ミナトはパーティに加わる事にした。


「「「「よろしくお願いしま〜〜す!!」」」」


 酒場での深いお辞儀と大声はやめてほしい。


 他の人達にジロジロ見られてドキドキする。


 そう願うミナトだった。


 次の日、ミナトを含めたパーティ“群雄割拠ナンバー・オブ・パワフル”でダンジョン“グレイスガーデン”へ向かった。


「まずはどんな戦い方をするか見せてくれ」


 ロイス達は頷くと昨日と同じ45層へ向かい、昨日の宿敵、エル・クレイに対峙する。


「いいな! 昨日の過ちを活かせ!」


「「「おぉ!!」」」


 ロイス達は配置に着いた。


 大楯・ランサー持ちのロイスは最前線で薙ぎ払いや突き攻撃を繰り出す。


 オクトーバはバックラーを片腕にはめ、背丈もあるハンマーを持ち振り上げると、ロイスが横ステップで避けたところに渾身の一撃を振り下ろしている。


「リリアン!? リリアンは後衛で支援……じゃないんだな。その武器だと……」


 リリアンは背丈以上もある大剣を肩に担いで攻撃に備えている。


「はい!! この大剣でモンスターを吹き飛ばす快感が辞められなくて……あっ、元は弓使い《アーチャー》ですよ」


 頰を緩ませてミナトに向けて笑うとロイスから合図が届く。


 笑顔から一転、緊張した顔を浮かべ宙に浮くように地面を蹴り、エル・クレイに向けて肩に担いだ大剣を背負い投げの要領で撃ち下ろした。


『ドガァァン!!』


 当然エル・クレイは縦に真っ二つになり地面には耳を塞ぎたくなる爆音を残し亀裂を入れて突き刺さった。


 ロイス・オクトーバ・リリアンの攻撃が決まりエル・クレイが魔石を残して霧散するとミナトの後ろから拍手をしながらノーヴが歩いて来た。


「いや〜リリアンの大剣の一撃はすごいねぇ〜」


 残るノーヴは背中に弓入れや弓を担いでいる所をから後衛で支援するのだろう。


「ノーヴ……お前も支援とは言え参加しろよ……。まぁいい、このパーティは……」


『なんだかチグハグな部分が感じられるし荒削りだ』


 そう感想を伝えようとしたミナトは戦闘を讃え合うロイス達を見て、些細な事を気にしている気分になり口を閉ざした。


「いいパーティだな!」


 ただ一言だけ感想として伝えると、ロイス達もお互いを見て笑い合い戦闘終了した。


 次からはミナトも戦闘に参加したがミナトは、各武器での戦い方や連携方法をレクチャーした。


「違う!! リリアン!! ロイスが受けてオクトーバが下から撃ち上げる! そしてリリアンは剣技を撃ち下ろせ!!」


「はいっ!!」


 第50層のボスモンスター。


 角が特徴的な牛《トリリアン・ブル》を練習台に連携特訓をする。


『ガキィィィ!!』


「よし、タイミングばっちり!!」


 ロイスは槍防御技“モーメンタリー・ガード”を発動してトリリアン・ブルの突進攻撃が当たる瞬間に防御して突進攻撃を無効化させる。


「フンッ!!」


 直後、オクトーバが槌技“ノック・アップ”を発動して、下からオレンジ色に発光した槌を顎目掛けて撃ち上げて宙に浮かせる。


「いっけぇぇぇぇーー!!」


 最後に、大剣を担いだままのリリアンが力を溜める大剣技“シンク・シンク”を発動させ、黄色に発光した大剣をトリリアン・ブルの眉間に撃ち下ろし、縦に真っ二つに割れて地面に落ちる前に霧散して消えた。


「良し!! 今のがそれぞれのスキルを使って行う連携の1つだな! 重要なのはそれぞれのタイミングだ!!」


「それと剣技は威力の高い技を使うと次の剣技が使えるまでのインターバルも長いし、剣技が終わってからの硬直時間も長いから気をつけて使うようにな!!」


「……」


 ーー聞いていない。


 ミナトが50層に辿り着くまでにわかった事。それはスキルを習得しても使い方が間違っていた事だ。


 “モーメンタリー・ガード”は攻撃を受ける瞬間に防御する必要がある。

 そのため、モンスターの攻撃パターンを把握していないと合わせづらく、攻撃を食らうか普通の防御になってしまう。ロイスはそんな上級者向けスキルを取得していた。


 オクトーバは“ノック・アップ”を発動出来るものの俊敏性の低さから当てる前に逃げられていた。


 リリアンの大剣溜め技“シンク・シンク”も溜めの長さと大剣の重さで、オクトーバと同様に俊敏性が低く、当たる事があまりなかった。


 ミナトがお互いの技を組み合わせて使う事でデメリットを埋め合う事を知り、行動に移して見事、50層ボスモンスターを討伐した訳だ。


「すごい!! こんな連携技が出来たのか!! ありがとうございます! ミナトさん!!」


 ロイスは自分の手を見ながら自分達が繰り出した連携技に驚愕していた。


 周りにいるオクトーバとリリアンは槌と大剣を見て、気持ちの悪い笑みを浮かべている。思いのほか連携技が気に入ったようだ。


「よし、50層突破できたな! あ お前ら、次の51層からのグレイスガーデンにビビるなよ〜」


 50層の出口に向かいながら話すミナトは、ロイス達の引いた顔を見て満足そうにニヤける。


「な、何があるんですか……」


 若干、引き気味のロイス達を無視して51層に向かう。


「うっ、眩しい!! えっ!? 眩しい!?」


 51層に到達すると陽の光が差し込み、風で草木が揺れる。


 暗い洞窟でありながら目の前には青々とした雄大な草原が広がった。

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