隣にいるべき人
次の日ーー
ミナトは朝早くからミオを連れ出した。
花を買い向かった先は__
「ここって墓地だよね」
「あぁ」
ルピス・マリエラの街並みから外れた場所にある墓地にミナトとミオは来ていた。ミナトは迷う事なく墓地の中を歩いて行く。意味が分からず後をついていくとミナトが歩みを止めた先には一つの墓石。
「ここに眠るのはラニア。レレーシャの妹だ。そして……おれが殺した」
「えっ……えっ……」
ミオは動揺して上手く聞き取れない。
ミナトはミオに順序を追って説明した。
「もともとラニアはここのギルドで働いていたんだ。そして、レレーシャは冒険者でおれと時々組んで、ルミナリエやダンジョン調査なんかしてたんだよ。だからおれの事に詳しいだ。特殊剣技の事も全部、知ってるからな」
ミナトがミオに語りかけているがラニアの話になると一段声のトーンが落ちる。
「あの日も今回みたいに希少種が発生したんだ。その討伐に加わったのが、オレとレレーシャ達冒険者。そして……ラニア達ギルドだった。ラニアがどうしてもついて行きたいって駄々を捏ねるもんだからオレが守ると約束してレレーシャの許可を得たんだ。でも……守り切れなかった。その後、レレーシャは冒険者を辞めてラニアの代わりにギルド員になったんだ」
ミナトは振り返りミオへ頭を下げた。
「ミオをラニアのように死なせる所だった。すまん。」
ミオは下げているミナトの頭を優しく触り起こすとにこやかに笑った。
「うん、いいよ。ミナト……ほら……私、生きてるよ」
何をミナトに言うでもなくただ全てを許す。そう答えたミオの一言にミナトは救われた。
「帰ったらレレーシャさんにも謝りに行かないとね」
「あぁ」
ミナトとミオはラニアに手を合わせて墓地から帰って行った。
その足でレレーシャの元へ向かい謝ると母親と一緒に謝りに来た子供のようなミナトを見てため息をついて笑った。
「ミナト、あんた私を信じていないの!? あんなに一緒にたたかったのに?? 私は信頼出来ないのですか?? そもそもミオが私に教えてくれなかったらミナト! あなたは死んでいたかも知れないんですよ!!」
カウンターの席に座らされ、一時間中説教されてレレーシャは許した。項垂れて反省するミナトをミオとレレーシャは笑って見ていた。ミオとレレーシャは希少種の一件から仲が良くなっていた。
フラフラになりながら説教終わったミナトはギルドから出ると、向かいの武器屋に向かった。
「ミナト。何か買うの?」
「いや、おれのじゃないんだ」
武器屋に入ると威勢のいい声と共に職人らしき人が現れた。
「やっ、頼んだやつ出来てるかい?」
「おぉ〜、ミナトさんか!! 頼まれた鞘は出来てるよ!」
奥に商品を取りに行った職人が再度、ミナトの前に現れると手には銀色の鞘を持っていた。
「いい出来だな! サンキュ!! ほら、ミオ」
「私に??」
ミオは銀色の鞘を受け取り眺める。銀色の鞘には豪華ではないが、しっかり装飾が施されている。ミオはレイピアを銀色の鞘に納刀すると綺麗に納まり、鞘とレイピアの装飾の線が重なると最初からレイピアの鞘であったかのように馴染んでいた。
「それはミオのだ。その……お詫びとダンジョンも随分進めるようになったからな!!そろそろ見た目にも気をつけないとな!」
ミオはレイピアを武器屋で急遽買った鞘で代用していた。
注文通りの鞘が出来上がり満足気なミナトを余所にミオは銀色の鞘に納まったレイピアを色んな角度から眺める。
「ありがとう、ミナト。嬉しい!!」
一通りレイピアを眺め終わるとよほど嬉しかったのか恍惚の笑顔を見せた。
「よし、じゃあダンジョンに行って見るか!!」
「そうね!ついて行ってあげる!!」
上機嫌にミナトの前を歩き、腰にレイピアを下げるとミナトとミオはルミナリエへ向けて歩いて行った。
ルミナリエに着くといつもの景色とは別に冒険者の目線が一斉にミオへ注がれた。
「おい……あれは昨日希少種を討伐したミオじゃないのか!?」
「ホント……ミオさんって私とそんなにレベルが変わらないのに希少種に立ち向かうなんてカッコイイわぁ〜」
希少種に立ち向かう可憐な女性。
討伐の主力として加わり希少種を討伐した強き女性。
そんな英雄が生まれた出来事をルピス・マリエラの人々が黙っておく筈がなく、すぐに街中に広がっていた。
目を丸くして愕然とするミオを他所に隣ではミナトが今にも吹き出しそうな顔を我慢している。
「ミナト!!知ってたのなら教えてよ。恥ずかしいじゃない……」
「教えたら面白くないだろ……それに見た目にも気をつけろって言っただろ」
「面白くなくていいの!!ミナトのバカ!!」
目尻に涙を溜めて睨むミオの顔を見て、堪えていた笑い声がルミナリエの前で響き渡り、近くを通る冒険者たちが振り返り2人のジャレ合いを見物していた。
ミナト達はルミナリエに入り第57層まで到達した。
ミオはレイピアも使い方にも慣れ、巧みに操り出現するモンスターを霧散させていく。
後ろでミナトがサポートをし前衛でミオが討伐を行うスタイルで進んでいる。
“ミオ”
Level98
・筋力ーー286
・体力ーー465
・俊敏性ーー498
・命中回避率ーー75%
・運ーー55
・身の守りーー153
希少種との戦闘やレイピアを得てレベルの上昇と共に、ミオへ戦闘での自信がつきモンスターの攻撃パターンや行動派生をしっかり読んで対応できている。
“そろそろか……”
ミオの成長を喜びながらもどこか寂し気な顔を浮かべ、第60層のボスモンスターに霧と共にお帰り頂くとミナト達も転移してルミナリエを後にした。
その日の夜、宿屋の部屋でミナトは旅立つ事を告げた。
もちろん……1人でだ。
「私も着いて行く」
「ダメだ」
「なんで!! もう足手纏いにはならないよ!!」
ルミナリエ前での暖かい雰囲気に包まれた睨まれ方ではなく、呪われそうな顔凍りついた顔でミオから睨まれた。
「ミオ、お前はこれからもずっとオレに着いて回るつもりなのか?」
「そう! 悪い!?」
「あぁ、悪い!! おれは弱い奴は嫌いだ!! 一番嫌いだ!!」
心が痛い。
言い慣れない言葉を一番言いたくない人に向けて言う言葉ほど嫌な言葉はない。
ミナトは自分の気持ちを閉ざしてミオへ淡々と話す。
「まずは大規模でもいい。ルミナリエの最下層まで到達するんだ。そして徐々にパーティの人数を減らして最後には1人で到達できるようになるんだ。そして
「そして、様々な人と旅をして強くなれ! おれの横にいて欲しいのはそんな……ミオだ!!」
一番最後にして心の声が漏れてしまったと後悔したミナトであったがミオは下を向いたまま動こうとしない。
「私は……嫌……」
突如ミオは走り出し部屋から出て行ってしまった。
その日からミオは部屋には帰って来なかった……
そして2日後、ミナトは宿屋を出ると噴水前の女神像に向かう。
そこにはミオの姿があった。
「よ、よぉ……」
「久しぶり……」
ぎこちない挨拶をするミナトと2日合わなかっただけで『久しぶり』という単語を使うミオとの間に漂う空気は重たい。
「私、レレーシャの家でお世話になる事にしたから……だからミナトにはついて行かない」
「あぁ」
安堵した表情とは別に心臓の鼓動は跳ね上がる。冷たい言葉を告げられ見送られるとミナトは覚悟していた。
「ルミナリエを1人で到達してレギオンでも何でも世界を回って強くなればまたミナトと入れるのね?」
「あぁ……ん?」
「私、ミナトに甘えてた……私、強くなる!! ミナトの隣にいていいのは私だけだから!!」
ミオが顔を上げ、ミナトを見る決意した眼差しは眩しくそして見惚れるほど美しかった。
「あぁ、待ってる。じゃあな……」
感情を押し殺し、ミオへ片手を軽く上げ別れの挨拶をすると、女神像に向かい祈りを捧げる。
ミナトの体が白い光に包まれると徐々に消えていき、ミナトはどこかへ旅立っていった。
ミオの目の前にはミナトが祈りを捧げた女神像と近くに噴水があるだけ。噴水から落ちる水の音と鳥の囀りがミオの耳を賑わせる。
「よしっ!!」
ミオはルミナリエに向かった。
辺りを見回して冒険者を探すと10人程のパーティを見つけ声を掛ける。
「おはようございます!私はミオと言います。一緒にルミナリエに入ってもらえるパーティを探しています」
朝早くにも関わらず、10人のパーティからは歓喜の声がルミナリエ入り口に響き渡った。
ミオの加入はすぐに了承されルミナリエに入って行く。
「待っててね……ミナト……私、強くなるから!!」
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