緊急クエスト

 ミナト達はギルドに到着すると、レレーシャの元へ向かうが生憎、来客の応対の最中であったため先にダンジョンで集めた魔石の換金へ向かった。


 魔石の換金はギルドを入ると、左手にある格子状に囲まれたカウンターで行う。


 基本、カウンターの内部は見えず、換金にケチをつけ暴力に出る冒険者対策のため堅牢な格子で覆われている。


 カウンターの前には木箱が引き出しのように置いてあり、換金する魔石を入れて奥へ押し入れると換金を行い、魔石に似合った通貨ルタが支払われる。


 ミオも10層までに集めた魔石を木箱に入れて換金を行った。


「でどうだった?」


「に、2000ルタになったよ!!」


 両手いっぱいに金貨を持ち、後ろで控えていたミナトへ報告にきたミオの顔は、魔石の換金に対する不満などは毛頭になく、魔石がお金に変わった事に頬を緩ませていた。


 ミナトもここのギルドの換金に信頼を寄せているため、何も疑わずに喜ぶミオの顔を見て同じく頬を緩ませた。


「ミナトさん。どうぞ~」


 レレーシャからミナトの順番が来たことを告げられて、カウンターに向かい椅子に腰かける。


 今日のレレーシャの服装ははちきれんばかりの胸を強引に制服に押し込み、鮮やかな緑色の髪を三つ編みにまとめアップにして清楚な雰囲気を醸し出している。


 レレーシャ以外のカウンターにいる冒険者も、いつもと違うレレーシャの様相に『真面目なレレーシャさんも良い!!』などと心を奪われているが、レレーシャは全く気に留めていない。


「ミオさんのレベル更新ですね?」


「ああ、頼む」


 ミオは片手をカウンターの上に置くと、レレーシャは手を翳してレベルの更新を行った。白い光がミオの手を包み、木箱の中にある羊皮紙に書き込まれていく。


 レベルの更新が終わると、レレーシャが羊皮紙を取り確認すると、顔を曇らせてミナトを見た。


“ミオ”


Level20


・筋力ーー100

・体力ーー200

・俊敏性ーー400

・命中回避率ーー60%

・運ーー45

・身の守りーー80



「ミオさんのレベルが20に上がってますけど……ちなみにダンジョンはどこまで行かれました?」


「10層までだ」


「もちろんミナトさんも参加してですよね?」


「おれが手伝ったら意味がないだろ! 10層のボスモンスターまで討伐したのはミオだぞ?」


 心配していた事が的中した事にレレーシャは項垂れながらこめかみを押さえるとミナトへ怒気を込めて注意した。


「ミナトさん! 初心者のミオさんになんて危険な事をさせるんですか!! いいですか!! 10層は初心者が武器の扱いやモンスターとの戦闘方法など経験を積んで、たどり着く最終試験のような場所ですよ!! 大体が、初心者同士で4人程のパーティを組んで挑む場所なのに……それをたった2日で、しかも一人で戦わせて10層を踏破するような無茶をさせて……」


 レレーシャの言葉を聞いてミナトは苦笑いをしただけであまり悪いことをしたとは思っていないようだ。


 しかし、ミオは無茶をさせたミナトに怒りの色を見せることもなく微笑みを浮かべていた。


 各層でモンスターと一人で戦闘はしたものの、ミナトが戦闘前や戦闘中に助言をして武器の扱いや戦闘での動き方を教えてもらえたし、何よりミオが致命傷になる一撃を受けそうになると、ミナトが防いで助けていたから何も怖くはなかったのだ。


 ミナトを叱っているレレーシャは、微笑みを浮かべミナトを見るミオの姿に気が付くと、怒っている自分が情けなくなり大きなため息をついて話の続きを始めた。


「まぁいいです。次回からは気を付けてくださいね。それでは、ミオさんのスキルはどうしますか?短剣のスキルであれば『追加攻撃系』などもいいと思いますけど?」


 ミナトは腕を組んで考え込む。

 短剣の素早い攻撃回数に追加攻撃で麻痺や毒が加わればこれからの戦闘に役立つ。


 ミオの顔を覗き込み意見を聞くが、ミオは顔を真っ赤にして逸らし全く意見が聞けなかった。


「これからずっと短剣を装備していくか分からないから、今回は短剣と片手剣の共通剣技の『スプリント・ソード』にするわ!!」


「わかりました。では剣技『スプリント・ソード』を取得します。残りのスキルポイントはまたスキルや剣技取得の際に使用してください」


 レレーシャは再度ミオの手に翳すと、琥珀色の光が手を包み込み、輝きがミオの手の中に収まると、レレーシャは剣技取得が終わった事を告げた。


「はい、剣技取得終わりました。これで『スプリント・ソード』を使用できますよ。ダンジョンで試してみてくださいね。それとミナトさん……ギルドからクエスト依頼があります」


 クエストという単語に反応してレレーシャへ振り向き再度椅子に座り直した。


 ミナトは先ほどのヘラヘラした様相は無く、レレーシャの話すクエスト内容を一言も漏らさずに聞き入っていた。


「ルピス・マリエラから北に1キロ、かなり近い場所にダンジョンが発生しました。今のところ3層しかないとのことですがミナトさんお願いできますか?」


「ああ」


 不安を帯びたレレーシャの声は、ミナトの快諾する返事を聞くと、穏やかな声に変わり深い内容をつめていった。


「仮にもあなたは元レベル999の冒険者。もし危なくなったら特殊剣技でも使ってチョチョイって倒してくださいね♪」


「あのな……簡単に言うなよ……」


 クエストを受諾すると、レレーシャは礼を言いミナトは席を立つと、そのままギルドを後にして向かいにある武器屋、道具屋を回りクエストの準備を始めた。


 太陽が陰り夕日がミナト達に差し掛かる頃には、準備を終えたミナトはミオと晩御飯を買い込み宿屋へ戻った。


「ねぇ、ミナト。『クエスト』って何? ダンジョンってルミナリエだけじゃないの??」


 細長いパンを深く切り込みソーセージを挟んで食べるミオは矢継ぎ早に質問した。ミナトも同じものを頬張りながらミオに説明するための文句を考えている。


「ダンジョンはもともとそこにあるものじゃなくて、突如現れるものでルピス・マリエラにあるルミナリエも、元は突如現れたダンジョンなんだよ。ダンジョンには『塔』と『地下洞窟』の2種類あって、年数経過と共に層を増やして成長するんだ。ルミナリエは年数が経ち、層が増えてくると次々に冒険者が集まるようになり、やがて休憩地のための村ができ、街になり、今のような大規模都市になったんだ。だから他の大きな都市なんかにはほとんどダンジョンがあって、たくさんの冒険者が集まってるわけ」


 ミナトの説明を食べながら聞いているが、未だに全て納得していない様子のミオに続けてクエストの内容を話し始める。


「ダンジョンってのはそのまま放置していると、ダンジョン内が飽和してモンスターが溢れ出てきてしまうんだよ。よく考えてみろ、ミオ。出てきたモンスターがかなりやばいモンスターだったらどうする? 近くにある街なんかは壊滅するぞ。そうならないために今回はおれが調査に行ってどのくらい危険なのか調べるって事だ」


 ミオが噛んだソーセージの弾ける音が部屋に響く程静まり返ると、進んでいた口が止まった。


 街がモンスターに壊滅させられていく様子を想像し恐怖を感じたミオは、狼狽したが続けざま言ったミナトの言葉に安心してまたリズムよくソーセージを噛んだ。


「私も行っていい?」


 この言葉が出てくることはだいたい予想出来ていたが、ミナトはまだ決断していない。


 単に拒否しても成長しようとするミオの意識低下にもなるし、ダンジョンの危険性が未知数であるため、ミオを巻き込むわけにもいかない。


 晩御飯の味が辛かったのか、甘かったのか、全然気に留めずにただ胃の中に詰め込んでいるだけだった。


「まぁ、いっか。危なくなったら“あれ”使ってダンジョンからでればいいか。いいよ、ミオ。明日ダンジョンに一緒に行こう。危なくなったらオレが守ってやるから」


 ダンジョンへ同行の許可が下りると、暗い顔をしていたミオの顔に光が差し込み、安堵した顔を浮かべ晩御飯を終えた二人は早めに床についた。









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