ルミナリエ
ギルドはルピス・マリエラ中央にある噴水から西へ歩くとすぐにある。
目印はこれといって無いごく普通の建物だが、レベルの更新やスキルの取得をするために、朝からたくさんの人だかりが出来ているためミオでもすぐにわかった。
ミナト達もギルドの中に入ると、沢山の書類を抱えた幼い雰囲気の獣人族・マイラがミナトを見つけて話しかけてきた。
「ミナトじゃニャいか〜。昨日来たばっかりなのにもう更新かニャ?」
端々に特徴のある言葉をつけながらマイラはミナトに絡むが、気にする事もなく連れのレベルの更新とだけ話した。
「レレーシャいるか?」
「レレーシャニャ?カウンターにいるはずだニャ。」
マイラはカウンターを顎で差して出勤している事を教えてくれた。
マイラに軽く手を上げて中央にあるカウンターに向かうと、ちょうどレレーシャの受付が空いた所だった。
「ミナトさんじゃないですか?またレベルの更新ですか??それともスキルの取得?」
緑色の長い鮮やかな髪を中腹で括り、栗色の瞳でミナトを見つめて、体中からいい匂いを醸し出す妖艶なハーフエルフの女性・レレーシャはミナトの要件を推測したがどれも外れていた。
「いや、今日はおれじゃなくてコイツのレベルの更新なんだ」
ミオの肩を掴んでカウンターの椅子に座らせると、ミナトが女性を連れて来た事に興味を持ったレレーシャは、ミオに手を出すように指示した。
レレーシャが手をかざすとミオの手が白く輝く。どうやらレレーシャがレベルの更新をしているようだ。輝きが収まるとレレーシャの横にある木箱の中の羊皮紙に文字が印字されていく。印字が終わると木箱から取り出してレレーシャが確認した。
「レベルは10みたいねぇ。今まで更新してなかったみたいだからまぁこんなものかなぁ」
羊皮紙を見ながら話すレレーシャは少し興味が去ったらしくミナトへ羊皮紙を渡した。
・筋力ーー50
・体力ーー100
・俊敏性ーー200
・命中回避率ーー55%
・運ーー40
・身の守りーー60
「ふむ、筋力と体力はまぁ普通か。俊敏性と命中回避率がレベルにしては高いなぁ。運と守りはレベル通りっと」
「なぁ、ミオ。レベル10もあればマリエラで商売できるスキルはつけられるがどうする?」
「いや、です!」
一応ミオに違う道も提案してみたがやはり意志は固く提案は拒否された。
取り敢えずダンジョンへ向かうにはまず武器の選定をしなくてはならないためレレーシャとミオの武器の選定をした。
「ん〜今だと俊敏性や命中回避率を活かして短剣か弓ってところかなぁ〜」
「そうだな、オレも賛成だ!ミオはどうする?」
「え〜っと短剣ならちょっと使った事があるから短剣がいいです」
ミオにどちらか選ばせると悩んだ末に短剣を使う事にした。武器は後で購入するとして残るはスキルの取得だ。
「レベル10で短剣を使うなら『インパクト・エッジ』くらいは取得できるだろ?それにしてくれ。」
レレーシャは羊皮紙を見て『インパクト・エッジ』が“取得可能”と表示されている事を確認してミオの手にかざしてスキルの付与を行った。
ミオの手にレレーシャが手をかざすと翡翠色の光に輝き出す。徐々に翡翠色の光がミオの手の中に消えていくとレレーシャは終わりを告げた。
「はいっ!これでミオさんは短剣の『インパクト・エッジ』のスキルを取得し使えるようになりました。スキルの発動方法と使い方や能力はミナトさんから聞いてくださいね」
説明の一切を全てミナトに任せたレレーシャは営業スマイルを浮かべてミナトを見た。
ミナトは用事を終えてレレーシャの元から去るとミオも椅子から立ちあがりレレーシャにお礼をしてそそくさとミナトの後を追った。
「大丈夫かしら〜ミナトさん。ちゃんと教える事が出来るからしら??」
ミナトの指導方法に不安を感じながらもレレーシャはギルドから出て行くミナト達を見送った。
その後、向かいの武器屋で手頃な短剣を購入してルピス・マリエラ北の外周にあるダンジョン“ルミナリエ”に向かった。
ミオは大鯰が口を開けたような洞窟の入り口をジッと眺めているがその間も次々と冒険者が洞窟内へ出発したり帰還したり出入りが激しい。
「まぁ今日は触り程度に10層まで行ってみるか」
「は、はい!!」
ミオは緊張をして顔が強張っていたがダンジョンへ進むにつれて嬉しさが優っていき高揚した笑顔を浮かべていった。
第1層ーー枯茶色に染まったゴツゴツした岩場が壁や天井を囲み一定の間隔で松明に火が灯されて明るく歩きやすかった。
入り口から近い事もありモンスターは出現せずにただひたすら歩くだけでミオはつまらない顔をした。
階段を降りて第2層の道を歩いていると初めてモンスターが現れた。
「おっ、チマ・ラビッツじゃないか。初めての討伐はこれにするか」
ミナトの目の前に現れたのは赤い目をした2足歩行のウサギ《チマ・ラビッツ》だった。
前足からは鋭い爪が肉球から見え隠れしている。引っ掻き攻撃が主な攻撃のようだ。
「こいつはな意外にすばしっこいんだよ。ミオのレベルだと捕まえられないんじゃないか?今回はオレもいるから簡単な倒し方を教えるよ」
「はい!」
“ミナトは最初の一撃をチマ・ラビッツが躱せるように手を抜いて攻撃したあと避けたチマ・ラビッツをミオが攻撃する”
という至ってシンプルなものだった。
「ついでにスキルを使ってみるといい。『インパクト・エッジ』は発動時に俊敏性を向上させるスキルでスキルの発動は声に出していいし心の中で念じてもいい。オレは念じる派だな。」
「わかった。……インパクト・エッジ」
ミオの言葉に反応するように短剣の刃が鮮やかな翡翠色に発光した。
スキルが発動した短剣を色んな角度から見つめるとミオは再びチマ・ラビッツに体を向けた。
「よし、じゃあいくぞ、ミオ!しっかり攻撃しろよ!」
「わかった!!」
ミオは短剣を構えて左右どちらへ避けても反応できるように準備をした。
ミナトは納刀したままの刀を腰に当て、一歩踏み出しながら上半弧を描くように納刀した鞘を振った。
チマ・ラビッツに刀が振り下ろされ回避すると思われた瞬間……鞘はそのまま頭部に直撃してチマ・ラビッツは瞬時、黒い霧となりミナトに経験値が与えられた。
霧散した場所には小指程の小さな魔石が地面に転がり落ちた。
「ごめん、力加減間違えた!!」
ミオの初めての戦闘はミナトがラビッツを粉砕するという形で終わった。
両手で短剣を握ったまま目を丸くして驚いていたミオだったが時間が経つにつれて頰を膨らませて怒った。
「次はちゃんとするから、ミオ!! なっ、なっ??」
第2層を歩きながら両手を合わせて謝るミナトに頰を膨らませてちょっとだけ怒っているミオはチマ・ラビッツを探していた。
「あっ、いた!!」
ミオが指差した先には先程と同じ体格のチマ・ラビッツが頭を振り回し辺りを警戒していた。
「次は任せろ!!」
ミナトは信頼回復のためにしっかり囮役に徹する。ミナトがまた上半弧を描くように納刀した鞘を振るとチマ・ラビッツは左へ回避して刀を避けた。
ミオは左へ回避するチマ・ラビッツへ翡翠色に発光する短剣をそのまま喉元に突き刺した。
翡翠色に発光する短剣はチマ・ラビッツの急所に突き刺さり鮮血を垂らすと、チマ・ラビッツは黒くなり、弾けて霧散した。
ミオには経験値が与えられ短剣の先には小指よりも小さな魔石が地面に転がった。
「やったな、初めての討伐だな」
ミナトはミオの頭に優しく2回手をのせて労った。ミオは初めての討伐に下を向いて頭を撫でられながら顔を赤らめている。
「ほら、これ忘れんな」
両手をだしたミオにミナトは報酬の小さな魔石を渡した。
紫に光る魔石を見て満面の笑みを浮かべたミオは天使のように可愛かったーーーと心の中でミナトは考えていた。
「よし、じゃあ〜今日は帰るか!!10層まで行ってもいいが区切りがいいし、今日終わり!!」
ミオは少し残念そうな顔を見せたが初めてのダンジョンに満足したようですぐに元の笑顔に戻った。
第2層までしか入っていないためミナト達はすぐにルミナリエから帰還した。
「よし、じゃあ今日は家に帰ってゆっくり休めよ、じゃあな」
片手を上げて別れの挨拶をするとミナトは宿屋に向けて歩きだす。だが、服の裾を後ろから誰に掴まれて前に進めない。
ーーミオだ。
「なんだ、ミオ?帰らないのか?」
「帰る場所ないから••••••泊めて?」
捨てられるような子犬の目をした紺碧色の瞳を見てしまい、ミナトにもはや返す言葉は何もなかった。
腕に抱きつきふわりと柔らかい感触がする箇所に全神経を傾けるミナトはミオと宿屋に帰っていった。
「何もしないでねっ」
「お、お前な……」
宿屋へ向かいながら冗談を話すミオとミナトは今日顔を合わせたばかりの2人とは思えないほど打ち解けあっていた。
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