ルピス・マリエラ
金髪碧眼《ミオ》
人口100万人の大規模な都市にして様々な業種が店を出し生活拠点としている。
昼間は耳を塞ぎたくなるほど屋台の売り込みが騒がしいが、夕方から夜になると耳がなくなったのではないかと疑うほど静寂につつまれる。
街並みも列を揃えて並んでいるが石造りや漆喰、ブロック積みなど様々な家が肩を寄せ合うように大小建ち並び、地面の石畳と合わさった景色を石畳の脇に座り眺めながらビエールと肴をツマミに一杯ひっかける人達もいる。
ーー大都市ルピス・マリエラ
「はっ……はっ……はっ……」
そんなルピス・マリエラの路地裏を茶色の頭巾を頭から被り、頭を低く保ち、息を荒らげながら細々とした路地を縫うように駆けていく。
「待て!! ちっ……すばしっこい奴だ」
茶色頭巾を追いかける3人組の男達は後を追い路地裏に入るが、迷宮のように入り組んだ路地を上手く進めず、追いついては引き離されを繰り返し追い詰める事が出来ないでいた。
“あそこを通り抜ければ逃げ切れる”
路地裏から家と家の隙間を疾走して大通りを抜け、行方を眩まそうとした茶色頭巾は振り返る。
「よし、うしろは撒いたわね」
後ろから追っ手が来ない事を確認して、大通りへ抜ける事が分かると、茶色頭巾から覗く口元が緩む。
「今日も無事に生きていられましたよっと」
茶色頭巾は強弱の無い言葉を呟き、今日一日の無事を安堵すると家の角から突如人影が現れ、茶色頭巾は足を前に突き出し急停止をかけた。
「そっちから来てくれるなんて嬉しいじゃないか」
「なっ、嘘っ!?」
七三分けで目の下にクマがある小太りの男は気持ち悪い笑みを浮かべて、茶色頭巾を眺める。
気持ち悪い笑みに身の危険を感じ、後ずさりして路地裏に消えようと走るが、路地裏からも先程の3人組の男が現れて挟み撃ちにされた。
「しまった!!」
ここを通り、大通りへ出る場所を読まれていた事に不愉快な顔をして小太りの男を睨む。
横壁を蹴って上空から大通りへ出るーー“いや、男に手を伸ばされて捕まる”
スライディングで男の股を抜けるーー“この距離だと必要なスピードが足りない”
「どうする……どうする……」
逃げるため経路を模索するがどれもまともな計画ではなくジリジリと距離を詰められる。
「さっさと盗んだ金返せばよかったんだよ。可哀想だが……盗んだ人が悪かったな」
小太りの周りにいた子分らしき男達が腕を伸ばして準備運動をしながらゆっくり近づいていく。
茶色頭巾は最後まで逃げ道を探すが未だ活路は見出せない。
茶色頭巾の目の前にあるのは『死』ーー
「誰かぁ!!助けてぇ!!」
大通りに向けて悲痛な声をあげるが、大通りの賑わいに掻き消されて誰も見向きもしない。
「そんな声をあげても無駄だって。へへっ、まずはその頭巾の下の顔を拝ませてもらおうか」
周囲を男達が囲み1人の男が茶色の頭巾に手をかけて剥がそうする。
『バシッ』
「あだっ」
頭巾に手をかけた男の頭部で何か打撃音がすると、白目を向いて前のめりに倒れていった。
倒れた男の後ろには代わりに1人の男が黒い棒を持ち仁王立ちしていた。
黒髪の頭に茶色の瞳、白い服に黒いズボンのミナトが現れると建物の2階を指差した。
「お前ら、ここがどこだかわかってるのか?宿屋だよ、や・ど・や!!人がゆっくりくつろいでるのに、下でキャアキャアとうるさいんだよ!!」
宿屋のベットで夢見心地でつろいでいると、下で下手くそな捕物をしている声が耳に入ってきた。
無視を決め込み耳を塞いだが業を煮やしてミナトは降りてきたようだ。
「どうしたらここは静かになるんだ?」
怒りを纏わせたミナトは全員に問いただすと、周りは凍りついた雰囲気を漂わせて誰も口を開こうとない。
しかし、活路を見出した茶色頭巾は小太りの男を指差した。
「あの男を懲らしめるのが一番早いです」
「なっ……こいつ……」
誰よりも早く答えた茶色頭巾の言葉に答えるように、小太りの男へゆっくり首を回す。
若干たじろいで後ずさりするが、すぐに周りの男達にミナトへ攻撃するようにけしかけた。
「邪魔すんなよ!死んどけ!!」
悪態をつき、短剣を懐から取り出して構えるとミナトの頭や胸めがけて突き刺していく。
ミナトは鞘に納まったままの刀を腰に当てて、間合いに入るのを待つ。
一瞬の出来事だったーー
ミナトの間合いに入ると、一歩踏み出して下から弧を描くように刀を振り上げ、1人の短剣を弾き、そのまま刀を水平移動させ2人の短剣を弾き飛ばした。
そのまま上段に刀を構えると、ドラムを叩くようにテンポよく男達の頭に衝撃を与えると、豆食った鳩のような間抜けな声を出して男達は意識をもぎ取られた。
踏み出しの一歩から意識をもぎ取るまでの無駄のない刀の動きを見ていると、刀に施された赤い桜の葉が残像でユラユラ舞っているような感覚にとらわれて、茶色頭巾は惚れ惚れしていた。
「まだする??」
上段に刀を構えたまま、不気味な笑みを浮かべるミナトと目があった小太りの男は、負け台詞を吐く事なく踵を返して大通りに消えていった。
誰もいなくなった事を確認すると、ミナトは刀を腰に下げてまた宿屋に戻ろうとする。
「あっ、あの……ありがとぅ」
「あん?あ……あぁ」
茶色頭巾は遠慮がちに一礼してお礼をするが、ミナトは片手をダルそうに一瞬だけ上げると宿屋に帰って行った。
ミナトの姿が見えなくなると茶色頭巾は大通りに姿を消していった。
それから数日後……。
「んで……何でお前は懲りずに何回も同じような事をするんだ?? んん??」
次の日から茶色頭巾は、果物や肉などをを盗んでは必ず路地裏を出て、宿屋の前を通り逃げる事を繰り返していた。
毎日起こる出来事に最初は無視を決め込んでいたミナトだが、苛立ちを抑えきれずに宿屋の下を逃げる茶色頭巾を捕まえて理由を問いただしていた。
「あの、剣を教えてください!!」
「はぁ??」
茶色頭巾はミナトを向いて90度に頭を下げた。茶色頭巾は、名前も分からないミナトに会うため、宿屋にいるという事だけを頼りにずっとここを通っていたらしい。
「んで……理由は?? というかまずその頭巾を取れ!」
茶色頭巾は慌てて茶色の頭巾を頭から取りミナトを見た。
「私はミオと言います。このルピス・マリエラで拾われたんです」
金髪碧眼の女は“ミオ”と名乗る美女だった。
黄金色の髪が1つ1つ絹糸のように細く、肩まで落ちる髪を頭の後ろで括り、紺碧色の澄んだ瞳に見つめられていると吸い込まれそうになる。
ミオはマリエラの路地裏でライオという冒険者に拾われて育てられたらしい。
ライオは優しく稼ぎもそこそこあったため何不自由なく暮らしていたそうだ。
だが3年前、ライオはルピス・マリエラのダンジョンに入ったまま帰って来なかったと言う。
「それから私は今までの暮らしを失い、路地裏で暮らし、毎日毎日盗みをして生活を繋いでいました。でも、こんな生活は嫌なんです! このままじゃライオにも顔向けできないじゃないですか!! お願いします! 私に剣を教えて下さい!! 強くなりたいんです!」
ミナトは両手を頭の後ろに組んで悩んでいた。無慈悲に断る事は簡単だがミオの置かれている現状は昔のミナトと重なり簡単には断れなかった。
「はぁ〜っ、たくっ……」
「いいの? ありがとぅ……」
頭を掻き乱し渋々承諾するミナトに紺碧色の大きなを潤ませてミオは深く頭を下げた。
「んで? ミオのレベルはどのくらいだ?」
現状を把握するためにミオにレベルを尋ねたがミオは逆に頭を傾げて尋ね返す。
「ミオ……まさかレベルって知ってるか??」
首を豪快に横に振りレベルの存在を完全否定した。ミナトは初歩の初歩からする羽目になるとは思わずに項垂れてしまった。
「いいか、この世界にはレベルが存在するのは今知ったな。レベルは1から999まであって上がれば上がるほど強くなっていくんだ」
全ての人にはレベルが存在してレベルが上がる毎にパラメータの体力・筋力・俊敏性・身の守り・運・命中回避率の6つが上昇していく。レベルが上がる際には、スキルポイントが付与されポイントとパラメータに合わせて取得できるスキルが違う。
「例えば商業として魚を釣って売る場合は、筋力と運を上げて釣りスキルを取得すれば魚を効率よく釣れる。それから魚を捌いて売るなら、短剣を使えるようになれば魚屋としてはバッチリなわけだ」
他にも肉屋や野菜、酪農など様々な職業についてのスキルをミオに教えたが、いきなりたくさんの情報を教わり処理仕切れずに、金髪の煙突からは白煙が上がっていた。
「とりあえず、レベルを見に行ってみるか」
ミナトとミオは、ルピス・マリエラにあるギルドへ向けて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます