第11話 地味子ちゃんの変身に仰天した!

お約束を確認してお付き合いがはじまったが、お約束どおり、プライベートは休日だけと割り切って仕事を進める。地味子ちゃんは前にも増して張り切って仕事をこなしてくれる。


金曜日の昼休みに地味子ちゃんから、メールが入る。「待ち合わせ場所はりんかい線国際展示場駅の改札口、時間は10時30分」。「了解」の返事を出す。


1時になって地味子ちゃんが何もなかったかのように席に着いた。


◆ ◆ ◆

土曜日、大井町線で大井町へ出て、りんかい線に乗り換えて、国際展示場で下車。意外と時間がかからなかった。早く着いたので駅前を見て回る。


すると向こうから可愛い女の子が手を振ってこちらへ向かってくる。どんどん近づいてくる。後ろに誰かいるのかと振り返る。すると目の前で女の子が立ち止まった。


「岸辺さん、いえ、潤さん」


「ええ・・・・」


「分かりませんか? 私です。横山美沙です」


「横山さん、いや、美沙ちゃん? ごめん、全然気が付かなかった」


「可愛い女の子が手を振って来るので、僕の後ろの誰かに手を振っているのかと思った。すごく可愛いね! 見違えた!」


実際、地味子ちゃんはとっても可愛く変身していた。黒縁のメガネはしていない。おそらくコンタクトに替えている。


髪はポニーテイルでなく、カールして横に垂らしている。イヤリングをしている。それに白い半そでのワンピースを着て白いサンダルを履いている。


あの太い革の腕時計の代わりにピンクのサポーターをしている。腕には薄いピンクのバッグ。


全くの別人になっている。それが凄く可愛い。これがあの地味子ちゃんかと信じられない。とおり過ぎる人も可愛いい地味子ちゃんを見ていく。


「ありがとうございます。意外と早くついたので、駅の回りを見ていました。そしたら、岸辺さん、いえ、潤さんを見つけて」


「僕も早くついたので、駅の回りを見ていたところだった」


「じゃあ、行きましょう」


美沙ちゃんが自然に手を繋いでくるので、手を繋いで歩きだす。横を歩いている美沙ちゃんをじっと見ていると、こちらを向いてニコッと笑う。可愛い!


「カッコいい潤さんとお付き合いできることがきまったので嬉しくて、あれから毎日、会社の帰りに、お付き合いしていただくのにふさわしい服や靴を探したりしました。金曜日はヘアサロンに行きました。可愛いと言ってもらえて、その甲斐がありました」


確かにお約束は正解だった。プライベートになり、名前を呼び合うとすぐに恋人モードになれる。繋いだ手はいつのまにか恋人つなぎになっている。


10分ほど歩いていくと、会場に到着した。入場券売場には列ができている。美沙ちゃんの後ろに僕が並んでそれぞれ入場券を買う。


会場は思っていたよりも広くて出店で一杯。すべての店を見て歩くとどれくらい時間がかかるか想像できない。


案内図を見ると、日本のアンティークと西洋のアンティークに分かれていた。美沙ちゃんは西洋アンティークに興味があるらしく、二人で手をつないで一軒一軒ゆっくり見て行く。


人形、食器、花瓶、ランプ、アクセサリーなど、なんでもある。美沙ちゃんは気に入ったものがあるとお店の人に断ってスマホで写真を撮っている。


「アンティークが好きなんだ。買わないの?」


「古いものを見るのが好きなだけです。買うと高いですし、置き場所もありませんから。気に入ったものがあると写真に撮らせてもらいます。写真に撮っておくといつでも見られて楽しめますし、ブログでも紹介できますから」


「確かにいい方法だね」


西洋アンティークの店をすべて見て回るのに2時間ほどかかった。その間に僕は日時計のついた古い方位磁針を見つけた。店主に聞くと英国製で値段は3千円。チョット考えたけど記念に買った。


「素敵な磁石ですね」


「方位磁針しかも日時計が付いている。昔の人はこれで時間と方向を調べていたと思うとロマンを感じる。気に入ったので、今買わないときっと後で買っておけばよかったと後悔すると思ったから買った」


「決断力があるんですね」


「後悔したくないからかな。チャンスは一度しかないことが多いから。ここは面白いものがあるね。来てよかった」


「始めてきましたが、面白いですね」


お昼を過ぎて1時近くになっていたので、レストランに入る。僕はスパゲティ・ナポリタン、美沙ちゃんはオムライスを注文。


「ありきたりだけど、スパゲッティはナポリタンに限るよ。大好きなんだ」


「私はオムライスが大好きなんです。二人共ケチャップ風味のトマト味が好きなのが分かって嬉しいです」


「その服とイヤリングにサンダル、とても似合っていて可愛いよ。本当に見違えた」


「この服、着てみたかったのです。気に入ってもらえてよかった。ネットショッピングで買いました。それにイヤリングもサンダルも」


「買い物はネットでするの?」


「お休みの日は一日中ネットのショッピングサイトを見ていることが多いです。気に入ったものがあると、写真と情報を保存しておきます」


「買わないの?」


「買いません。だって、着る機会も見せる相手もいないのに無駄ですから。それにそのたびに買っていたらクローゼットが一杯になります。お金もかかります。その代わりブログに載せています。この服とイヤリングとサンダルは今日のデートのお約束ができてから注文しました。早ければ次の日か2~3日で届きます。帰りに駅のコンビニで受け取れるようにしています」


「ブログをやっているの、どんなブログ?」


「これは潤さんでも教えられません。私の日記ですから、誰にも言っていません」


「でも公開しているんでしょ」


「ハンドルネームを使っていますから、私とは絶対に分かりません。恥ずかしいので絶対教えませんし、聞かないでください。検索したりもしないでください」


「分かった、分かった。でも見てくれる人はいるの?」


「3年前に始めたころはほんの数人でしたが、今は3千人くらいいるかも知れません」


「3千人! すごいね」


「コメントがいただけるので、そのやり取りがとても楽しいです。だからスマホは手放せません」


「歩きスマホは危ないよ!」


「歩きスマホはしませんし、会社では見ないことにしています。潤さんとの連絡以外は」


「女の子はスマホが好きみたいだけど、僕はあまり好きじゃない。字が小さくて読みづらいし、扱いにくい。幸いネットの端子が部屋まで来ているから、家ではもっぱらパソコンを見ている」


「ところでこのあとどうする?」


「実は母が会いたいと言ってきましたので、4時に渋谷で会う約束をしました。だから3時くらいまでですが、申し訳ありません」


「気にしないで、僕は大井町の家電専門店に寄りたいと思っていたから、3時ごろに駅に向かおう」


「来週はどうする?」


「今度は潤さんの行きたいところがいいです」


「それならこどもの国はどうだろう。同期の家が近くにあって中を覗いたくらいなので一度行ってみたいと思っていた。本当はディズニーランドが良いのかもしれないけど、人の多いのは苦手なので、ゆっくり二人で話をしながら歩きたい」


「こどもの国は小さい時に家族で何度か行ったことがあります。最近はどうなっているか見てみたいです。お弁当を作って行きます」


「じゃあ、土曜日の10時にこどもの国の駅の改札口ということでどう?」


「分かりました」


「晴れるといいね」


「きっと晴れます」


それから、会場へもどり、今度は日本のアンティークを見て回り、3時ごろに電車に乗った。大井町で僕が下車して、美沙ちゃんはそのまま大崎経由で渋谷へ向かった。


楽しい半日だった。初めてのデートはこれくらいが丁度良い。でも地味子ちゃんの変身には驚いた。会社の誰が見ても気づかないと思う。しかもあんなに可愛い子だったとは想像できなかった。


それに話していると楽しいし、知らなかった一面も見えてくる。それになぜか癒される。不思議な子だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る