第10話 地味子ちゃんとお付き合いするときのお約束をした!
朝8時、いつものとおりに席についた。昨日の日曜日は一日中、地味子ちゃんに交際を申し込んだことを考えていた。
やはりすべきでなかったか? いや、付き合ってみたい、これが自然な気持ちだと思った。あとは、地味子ちゃん次第。断られたら、なかったことにしてもらうだけ。それで良い。
8時半過ぎに地味子ちゃんが出社した。いつもと変りない様子だ。
「おはようございます」
「おはよう。土曜日はご馳走になってありがとう」
小声でお礼を言う。もう室内は人が多くなっている。
「今日、お仕事が終わってから、お時間をいただけますか?」
「いいけど、その・・・例のこと?」
地味子ちゃんは首を小さく縦に振った。
「じゃあ、二子玉川の改札口で6時半に待ち合わせをしようか」
「分かりました」
月曜日は午後から会議を設定していた。1時間程度で終わり、地味子ちゃんは会議録をいつものように淡々と作っている。僕は金曜の会議の事前調整に回る。
4時に席に戻ると会議録ができているので目を通す。少し修正箇所を指摘して、直してもらう。
5時に室長が席に戻ってきたので、会議録で経過を説明、今後の進め方を相談した。5時半に地味子ちゃんが退社。その10分後に後を追うように退社した。
6時半少し前に二子玉川に到着。この時間は大勢の人でごった返している。地味子ちゃんは改札口で待っていてくれた。
「前に行ったことのある居酒屋へ行こうと思う。ボックス席があるし、食事もできるから」
「いいですね」
僕が先に歩いて、地味子ちゃんが早足でついて来る。
「月曜からお酒は控えめにしたいけど、ビール」
「私はハイサワーで」
あと、酒のつまみになるものを3品ほど頼んだ。その後、夕食になるものを注文することにした。
「返事を聞かせてくれる?」
「はい、昨日一日考えました。正直、嬉しいんです。お受けしたいんです。考えたうえですが、いくつかお約束しませんか?」
「お約束?」
「お付き合いするときのお約束です。お互いのためになると思います」
「分かった。聞かせて」
「お約束1:お仕事とプライベートをはっきり分ける。お付き合いは休日のみ、仕事帰りにお付き合いはしない。
お約束2:お付き合いにかかる費用は割勘にする。
お約束3:交際していることは秘密にして決して口外しない、もし別れても
「良い考えだと思う。僕は横山さんと上下の関係なく、対等にお付き合いしたいと思っているから」
「私も気兼ねなく振舞いたいので」
「分かった、じゃあ、お約束の乾杯」
「嬉しいです。お付き合いなんてあきらめていましたから」
「僕も同じようなものだ。また付き合ってみたい人ができるなんて思ってもみなかった」
「気楽にお願いします。楽しければいいと思っていますから」
「そうだね。ところで、今日はプライベート?」
「ボーダーライン上ですね。お勘定は勿論割り勘でお願いします」
「始めのプライベートだけど、今度の土曜日にデートしないか?」
「早速ですね。どこにしますか?」
「始めは横山さんの行きたいところでいいよ。次は僕の行きたいところにする」
「うーん、お約束の追加、いいですか?」
「いいよ」
「プライベートの時は横山さんはやめていただけませんか?」
「なんと呼べばいいの?」
「美沙でお願します」
「美沙と呼び捨てにするのもなんだから、美沙ちゃんで」
「岸辺さんは、潤さんでいいですか?」
「確かにその方が付き合っている感じがしていいね。そうしよう。それでどこへ行く?」
「週末からお台場の国際会議場で骨董市があるんですけど行ってみたいです」
「骨董に興味があるの?」
「古いものが好きなので、一度行ってみたくて」
「じゃあ、そうしよう。待ち合わせは?」
「場所と時間は私が調べて携帯にメールします」
「了解した。楽しみだ」
それから、いろいろ話をして、夕食を頼んで、2:1の割り勘で支払いを済ませて、居酒屋を出た。地味子ちゃんは機嫌がよくてニコニコしている。ここで恋人どうしなら手でもつなぐところだが、遠慮した。
お約束1:プライベートは休日だけ!
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