第7話「お願い」

 心配していたほど抜け出すのは難しくなかった。部屋の皆に1枚ずつ野球カードをとられるのは痛かったけれど、それだけで済むんだから安いものだ。

 街灯を頼りに、それでも見つかったら何を言われるかわからなかったから、気持ちこそこそと速足で歩いていく。


 吐く息は白く、しんと静まり返った空気は痛いくらい冷たかったけれど、これから僕らだけのクリスマスをやるのだと思うとわくわくした。飾りつけも全部自分たちで獲ってきたものだし、ひとつひとつに思い入れもあって、それをどう配置するのかも僕たちの手腕だったから。


 でも、そんな僕の気持ちはふっと掻き消える。


 商店街の近くを通った時に、警察の人が何人か集まって、サンタの格好をしたお兄さんから話を聞いていたからだ。僕は咄嗟に道を変え、目に留まらないよう裏道を通ることにした。


 まずいかもしれない。そう思うけれど、それでも。スミと楽しくクリスマスを過ごし終えたかった。全部終わってから、それからならどんなに怒られても良い。けれど、それまではどうか、見つからないで欲しかった。


 神様どうか。僕は普段祈ったこともないのにそう願わずにはいられなかった。だって今日は神様の誕生日なんでしょう? そんな日に悲しいことは起きて欲しくないはずだ。そうであって欲しい。


 ――でも、やっぱり僕らは悪い子だったのだろう。神様がお願いを聞いてくれるのは、いつだって良い子からのものだけなんだということを、僕はすっかり忘れていたのだ。

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