第6話「宝の山」

 星を手に入れたあとも、僕らは商店街のあちこちで飾りや小物を集めていった。途中何度か追い回されることもあったけれど、何とかうまく逃げ切って、僕らは公園へと帰ってきていた。


 走り疲れた僕たちの前には、大小さまざまな星々や縞々の杖、丸いサンタのお人形。トナカイの角っぽい小さな置物。キラキラ光る帯みたいな長い奴。籠に入っていた、緑の輪っかに鈴がついたよくわからない絵が入ったカード。

 そうした、商店街のクリスマスを“滅ぼした”結果が、段ボール箱いっぱいに詰め込まれていた。宝の山だ。


「それで、どうするの!?」


 僕は興奮を抑えきれずに聞いていた。あれだけの大冒険をしたのは久しぶりだったから。特に最初に手に入れた大きな星は特別だ。段ボール箱の中で、他の小物たちに埋もれることなく堂々としていて、見ているだけで誇らしい気持ちになってくる。


「そうだな。本当は燃やしてやろうかと思ってたんだけど。なぁアキ、俺たちだけでクリスマスってやつ、やってみないか? あいつらがやれない中、悪い子の俺たちがやってやるんだ。爽快だろ?」


 楽しそうに、にっこりと。大きな花を咲かせるスミに、僕は思わず綻んでしまう。本当は、商店街の人たちもこのくらいじゃクリスマスを止めたりはしないだろうとか、見つかったらどうしようだとか、考えてしまうこともあったけれど。


続くスミの、

「アキ、お前となら。楽しそうな気がしたんだ。……ダメかな?」

 という、珍しくしおらしい弱気な態度に、負けてしまっていた。


 それから、僕たちは狭いスペースをこれでもかと飾り付けていった。公園の脇、風よけにしていた竹林に、キラキラとしたふわふわの長い飾りを結びつけ、ランドセルをたてたところを含めて、四角く囲うように、そこだけをクリスマス色に染めて行った。


 僕とスミは数十分ほどかけて、段ボール箱にあった宝物たちを全て使い切っていた。その区画に入れば、周囲はどこを見ても赤と緑の綺麗な飾りばかりで。

 色んな“クリスマス”が集まり、ここはひとつの世界となっていた。誰がどう見ても、もうここはただの空き地や公園じゃない。クリスマスの公園だ。


「アキ、お前の名前なんだっけ」

「え、どうしたの急に。明彦だよ」

「アキヒコね。おっけー。ほいこれ」


 そう言って、スミは小さなカードを差し出してきた。緑の変な丸に鈴がついた、よくわからない絵が描いてあるカードだ。


「ここにめっせーじ書いて交換しようぜ!」

「いいねそれ。それが僕らのプレゼントだ!」

「おう。いいだろ」

「うん。じゃぁスミもちゃんと名前教えてよ」

「え、嫌だよ」


 げっそりとした顔でスミはカードをひっこめた。会った時からスミはスミだったけれど、そういえばどういう名前からのあだ名なのかは聞いたことがなかった。


「えぇ、なんでさ。こっちは教えたのに、不公平だよ」

「あんま名前で呼ばれたくねぇの俺は」

「メッセージカードに書く時困るじゃん」


 なんだか隠されると余計気になってくる。僕らはよく遊んだし話もしたけれど、そういえばスミの方から自分のことを話すことは少なかったように思う。

 僕はちょっと意地になってスミのひっこめていた手を掴み取り、じっとスミを見続けた。言うまで離さないぞ、という気持ちを込めて。


「……ちぇー、しょうがねぇな。アスカだよ」

「え、スミって名前じゃなかったの!?」

「そうだようるせぇな」

「でもアスカ、か。うん、すごいスミらしくてかわいい名前だね」

「うるせぇうるせぇ。いいか、俺のことはこれまで通りスミって呼べよな?」


 スミは乱暴にこちらへカードを押し付け、顔を背けてしまった。

 アスカ。良い名前だと思った。少なくとも僕には、いくつもの明日を見せてくれたから、ぴったりの名前だと思う。でも、スミってどこから来たんだろう。


「まぁいいや。アキ、一旦帰って飯くったらまた来ようぜ。ライトもってくるから」

「え、夜抜け出すの?」

「せっかくのクリスマスなんだぜ。そのくらいやってやろうじゃん? サンタ来んの夜なんだろ? ここには悪い子しかいねぇけど、俺たちのプレゼント交換を見せつけてやろう。カードはそん時までに書いてこいよ!」


 言うなり、スミは走って行ってしまった。

 夜、うまく抜け出すことはできるだろうか。

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