第3話「歴戦の勇者」

 僕は内心わくわくしていたんだと思う。その突拍子もないスミのいつもの調子に。これから起こることは楽しいことだと、夢中になれるものだと期待をしてしまっていたのだ。


「クリスマスを滅ぼすって、どういうこと?」

「だってさぁむかつくじゃん? いい子にしてればプレゼントもらえるなんて。なら貰えない俺たちは悪い子ってことだろ? そっちがそのつもりならこっちにも考えがある!」


「また随分乱暴な」

「うっさいなぁアキだってむかつくだろ?」


 むかつくかどうかなんて考えたこともなった。スミはいつも乱暴で表裏のない結論を出す変わった子だ。初めて顔を合わせた時もそうだった。


 この公園で開口一番「お前親父もお袋もいないんだって?」と切りこんできたのだ。その瞬間、僕のまわりにいたクラスメイトたちが固まったのを覚えている。


 別に物心ついた頃からそうだったのだから、僕はそれについて何も思うところはなかった。そりゃ寂しい時やちょっとした嫉妬を抱く時も、もちろんあったけれど。それはそれ。


 「僕の母さん女なんだ」みたいな、当たり前のことのつもりだったから。一度何かのおりに触れてしまってからの、周囲の触らないようにという態度の方が僕にとっては不快だったのかもしれない。だから僕も、平然とスミに「そうだよ」と返したのだ。


 それから、今みたいに真っ新で無邪気な笑顔で「じゃぁ仲間だな」と抱き着いて来たのが、僕とスミの始まりで。その出来事があってから、ずっと僕とスミの関係は続いている。


「むかつくかどうかはともかく。どうするつもり?」

「ふふん。俺たち二人で奪ってやるんだ」

「プレゼント奪うの?」

「バカだなアキ、そんなことしたら貰えない子が可哀想だろ。飾りつけとかそういうのだよ。俺たちはあくまで、クリスマスと戦うんだ。今度の敵はでっかいぞ」


 興奮気味にその場で回ってみせるスミに、僕はひとまずその案に乗ってみることにした。こんなに楽しそうなんだから、きっと良い思い付きなのだ。


「スミがそう言うならやってみようかな」

「お、いいねいいね。流石アキ。んじゃ早速行こうぜ」


 彼女はランドセルを置いたまま歩き出す。意気揚々と歩を進めるその背中、羽織った上着の真ん中あたりに、ちょっとした穴が開いていた。焦げた小さな穴が二つ。それがまるで、前に少しだけ観た戦争映画の傷痕のようで、僕は彼女の背中が歴戦の勇者のように感じられた。


 前を歩く彼女の背中は何時だって自信満々で力強いのだから。

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