第2話「冬に咲く大輪の花」
「ところでさ、クリスマスってなんだ?」
不思議そうに首を傾げて、何でもないことのように訊いて来た彼女に僕は言葉を詰まらせた。
公園脇の竹林の影で、ランドセルをお尻に敷いて僕らは話し込んでいた。だいたいは学校のこととか、たまに見られるテレビのこと。クラスで流行っている遊びのこととか。
他愛のないおしゃべりの中で、急に先ほどの質問が投げかけられたのだ。何かの冗談なのか、哲学的な問いなのか、こちらを試しているのか。いつも突飛な言動をするスミのことだから、どの線もあり得そうだと思って返答に困ってしまう。
「なんだよその顔。ほら、商店街とか、いっつも飾りつけしてんじゃん?」
「ごめん。質問の意味がわからなくて」
「んだよそれ。知らないからってバカにすんなよな。俺はアキと違って学校いってねぇんだからよ」
不貞腐れたように頬を膨らませたスミといくらかのやり取りを持って、どうやら本当にクリスマスというものを知らないのだとわかり、僕は衝撃を受けた。
クリスマスは宗教的なことだから祝う風習がない所もあるのかな、と。僕は普段引っ張られてばかりだったのもあって、ここぞとばかりに知っていることをスミに話していた。
「ふーん。そういうのもあるんだな」
「うん。僕のところも毎年サンタの格好をしたおじさんがやってくるよ」
「だから皆浮かれてんのか。アキもプレゼント欲しいわけ?」
「まぁ、もう高学年だし。いい加減お菓子も飽きたかな」
「なら良かった。欲しいならアキは敵だった」
「どういう意味?」
スミは立ち上がり、ぼさぼさの髪を撫でつけてから。屈託のない笑顔で晴々と笑って見せた。
まるで冬に咲く大輪の花のように、惜しげもなく、陰りもなく向けられるこの笑顔に、僕はいつも引っ張られるのだ。
「俺たちでそのクリスマス、滅ぼしてやろうぜ」
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