普通の男子高校生が異世界に飛ばされた結果
白餡
転移
日曜日の朝。
俺、山本秀太は、友人である山田高貴と一緒に、電車で近くのアミューズメント施設に向かっていた。
昔から仲が良かったため、休日に二人で遊びに行くことが多い。
電車内は特に混雑しておらず、二人の近くには人は居ない。
勿論、その方が二人は話しやすいので、特に気にすることでもないのだが。
「それでさ、今回のテスト酷かったんだよ」
「ほぉ、それは残念だったな。そんなんだから彼女出来ないんだよ」
高貴は余裕の笑みを浮かべながら、秀太を罵倒する。
「いやいや、高貴だって彼女いねぇだろ」
「俺はいいんだよ、いなくてもな」
それはどういう意味だ、とは聞かない。
秀太は高貴の秘密を知っているのだ。
──高貴は隠れオタクなのだ──
それが、高貴が彼女をつくらない理由である。
別段オタクが悪いなんて、秀太は全く思っていない。寧ろ好きなくらいだ。
だが世間は違う。オタクと言うだけで蔑まれ、貶され、良いことなど全くないのだ。
ラブコメの様なヒロインもオタク女子であったり、全く気にしない人なんて、現実では有り得ない。
だから、高貴は自らがオタクであることを隠すのだ。
だが、高貴は見た目は良い。イケメンと言えるだろう。イケメンとは、どんな趣味でも大半は受け入れられる。
だが、高貴は懸念しているのは、自分が認められ、その他のオタクが否定されることだ。
下手をすれば、自分のせいでそのオタクたちがいじめに遭うかもしれない。そのことを高貴は気にしているのだ。
「そろそろ夏休みだな」
突然、高貴がそんなことを呟く。
秀太はそのことに違和感を抱くこともなく、相槌を打つ。
「そうだな。夏休みになったら、また遊びに行こうぜ」
「おう。夏コミ行こう」
その返答に、秀太は「いつも通りだな」と笑いながら返す。
そんな、友人同士の微笑ましい計画を、世界は無慈悲にもぶち壊す。
突如、二人の足元から、妖しげな紫色の光が放たれる。
「「!?」」
二人は自らに起きている現象に驚き、目を見開く。
否、驚いているのは二人だけではない。
周りの者も、二人に起きていることが理解できず、非現実的なことに目を見開き驚きを露にする。
光の正体は、二人の足元に現れた魔法陣だった。
二人、その場にいる全員が、今起きていることに理解が追い付かず、ただ唖然とするだけだった。
やがて、魔法陣からドス黒い霧が発生する。
その霧はゆっくりと二人の体を呑み込んでいく。
二人は必死に声を上げようとするが、体が麻痺しているのか、ただ息が漏れるだけだった。
やがて、黒い霧は二人を完全に呑み込んだ。
霧が晴れた後、その場に二人の姿は無かった。
◆
二人が目を覚ましたのは、現代社会とはかけ離れた、とても古風な街だった。
建物は、煉瓦造りのものが多く、続いて石、木材で出来ている建物もある。
簡単に口にするなら、中世ヨーロッパが妥当だろう。
「ここ、どこだ?」
秀太は、そんな疑問を口にする。
「……異世界、って本当に有ったんだな」
隣に倒れていた高貴が、そんなことを呟く。
確かに、二人の現状は正に異世界転移と言えるだろう。
技術の発展していない世界では、魔法、及び魔術が復旧していて、モンスター等も存在する。
何度も想像し、そして不可能だと思っていたことが、秀太と高貴の身に起きていた。
「ラノベとかだと、俺たちはチートスキルで無双とかするんだろ?」
「現実的に、そんな上手くいくか。っと言いたいが、異世界に転移してる時点で、有り得ないとは言えないよな」
秀太は、考えることを放棄した。
二人は今、街の中を歩いていた。
街中を歩いていて、二人はより一層ここが異世界だと理解した。
まず、すれ違う人が、普通の人間ではない。
耳が長い者や、極端に背が低い者、そして、身体の一部に動物の様な耳や尻尾がある者がいる。
「なぁ秀太、アレって獣人とかエルフだよな?」
「まぁ、そうなんだろうよ」
やや興奮気味の高貴に、秀太は苦笑いを浮かべながらも同調する。
「君たち、少しいいか?」
突然、後ろから声を掛けられる。
後ろを向くと、そこには軽装の鎧を着た男が立っていた。
鎧の上からでも分かる程に、男の筋肉は盛り上がっていた。
「俺に付いて来てくれないか?」
筋肉男がそう言う。
まぁ、確かに俺たちは周りと服装が違うからな。怪しまれて当然か。
「分かりました」
「よし。それじゃあ来てくれ」
俺たちは、筋肉男の後を静かに付いていった。
筋肉男に連れてこられたのは、街の外門近くにある詰所の様な所だった。
あれぇ?なんかマズイ雰囲気?
内心、秀太は焦っていた。
「私だ、通してもらおう」
詰所の警備員?の様な人に一声掛けて、詰所の中に入る。
そのまま階段を上り、一つの部屋の前で立ち止まる。
筋肉男が、その部屋の扉をノックする。
「誰だ」
部屋の中から、誰何の声が掛かる。
「キーティスです。〝勇者〟と思われる者を連れてきました」
「入れ」
その言葉に、筋肉男は扉を開ける。
そこに居たのは、椅子に座り机の上の書類を整理している低身の男と、ローブを纏った年配の女性が居た。
「頼んだ」
低身の男が、ローブの女性に声を掛ける。
「……」
女性は言葉を返すことなく、ただこちらを見詰めていた。
「……終わったぞ」
数秒程経ち、女性が口を開いた。
終わった?何かしていたのか?
「結果を」
低身の男がそう言う。
「金髪の坊やの方が、身体強化系の能力。名付けるならば〝獣の勇者〟と言ったところかのぉ」
金髪、つまり高貴には、身体を強化?する能力があるらしい。
ってか、何でそんなこと分かったんだ?
秀太の疑問などいざ知らず、女性は続ける。
「そっちの黒髪の坊やは、さっぱりじゃ」
その言葉に、低身の男が眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「普通に考えれば、儂よりもランクが高い能力と言うことかの」
「そうか」
どうやら解決したようだ。
いや、俺の能力は?
それから長々と色んな説明を受けた。
まず、この世界には〝勇者〟と呼ばれる存在がいる。勇者は皆、特殊な能力を有している。
この世界には半世紀毎に魔王が復活する。
そして、復活した魔王の〝封印〟を目的とする勇者や兵隊の集団、〝軍〟が存在する。
俺たちが〝勇者〟だと感じた理由だか、この世界には、稀に〝勇者〟と成りうる存在が〝倒れている〟ことがある。
そして、その者たちは全員が〝勇者〟としての力を有するのだ。
俺たちの場合は、着ている服が明らかに異なる文化の物だったため、異界から来た勇者だと思い話し掛けたのだと。
最後に、勇者の中にも〝光の勇者〟と〝闇の勇者〟が存在するらしい。
〝光の勇者〟とは、魔王を〝封印〟すべく活動する勇者の呼び名である。
そして〝闇の勇者〟とは、魔王の〝復活〟を目論む〝勇者〟の総称だ。〝闇の勇者〟たちは魔王を〝復活〟させるべく、軍の邪魔をする。
〝光の勇者〟は闘気を使った〝闘気技〟を、〝闇の勇者〟は殺気を使った〝狂気技〟を行使できる。
どちらの力も違いは無いが、力の元となる闘気と殺気の違いで区別されている。
っと、以上が説明された内容だ。
「理解できたかね?」
低身の男、マーティグが訊ねてくる。
「まぁ、大丈夫です」
秀太はそう答える。
「では、後程またここに来てくれ。それまではこの街の中を散策でもするといい」
二人は頭を下げ、部屋を出た。
普通の男子高校生が異世界に飛ばされた結果 白餡 @argon1680
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