2話 願望
目を覚ますと車の座席で横になっていた。左頰に感じる滑らかな感触と鼻を微かに刺激する香水に違和感を覚え、起き上がる。すると、そこにはジャージ姿の女性が座っていた。車についている時計を見ると午前8時12分と表示されている。
「おはよう。具合は大丈夫?」
20代後半くらいの女性が問う。その質問と同時に車のエンジン音がとまった。
「うん」
返事をしながら目をこすった。なにやら右肩の方に違和感がある。辺りを見渡すと知らない場所にいた。だんだんと不安が込み上げてくる。昨日の夜中の出来事も思い出した。両親が死んだ。あれは、夢? 鮮明に残った映像が脳裏に浮かぶ。そうだ、きっと悪い夢を見ていたのだ、そうに違いない。
「ここはどこ?」
「君は今日から児童園に住んでもらおうね。お友達もたくさんいるから楽しいよ」
そう言って彼女は車から降りた。それを追うように僕も降りる。外は思いのほか寒く、思わず腕を擦った。女性は僕の手を引いて目の前にある児童園へ連れて行く。
中から聞こえる子供の声のおかげで不安は無くなり、素直に園の中へ入った。児童園の庭にはいくつかの遊具が設置されており、ここで遊びたいという思いが膨らむ。
校舎の中に入るとさっきまでの女性に代わって園の先生がオープンスペースへ案内してくれた。そこにはたくさんの子供が列を作って座っている。
「ほら、おいで」
先生に笑顔で手招きされ、集団の前に立つ。
「自己紹介してごらん」
耳元で囁かれ、少し焦るが
「えっと......和田
と自己紹介した。
同い年くらいの子達が目の前で目を輝かせているのがわかる。
「じゃあみんな、啓太くんと仲良くしてね! じゃあ、これで朝の会は終わり」
そう言い終わると列を崩して子供達がたくさん集まってきて
「遊ぼーぜ!」
「おままごとしよ!」
「おままごとより鬼ごっこやろう!」
と口々に言う。
「ちょ、ちょっと......」
頭をかき混ぜられ、動揺していると、腕を掴まれて無理矢理鬼ごっこ組に連行される。別に運動が苦手でも、鬼ごっこが嫌いというわけでもなかったので抵抗はしなかった。外に連れ出されると僕を合わせた4人でジャンケンして、勝った僕は一目散に逃げる。
滑り台、ブランコ、ジャングルジムがあり、滑り台に上った。上から見下ろしているだけの僕に鬼が気づいて滑り台の階段を駆け上がってくる。急いで滑り台を降りてジャングルジムへ向かう。そこにいた他の参加者を巻き込んで逃げ続ける。疲れと寒さを忘れて走り続けた。楽しい時間はあっという間に過ぎ
「そろそろ昼食の時間だから部屋に戻って」
と先生の呼びかけが聞こえる。
「はーい!」
元気な返事をした。友達に案内されて給食室に入るとカレーのいい匂いがし、お腹が鳴る。美味しそうなカレーに目を輝かせながら欲望を抑えるので精一杯。両親が居なくなった悲しみは忘れ、ここでの生活に慣れることができると思っていた。
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