汝 羊飼いと成り得る也?

[おはようございます。最初の夜が明け、朝を迎えました]

クラウンの言葉が響き渡り、同時にタブレットの電源が落ちた。

我那覇はタブレットを所定の位置に戻し、開いた扉へとゲームの中心地へと向かう。


そこには10分前と変わらず老若男女様々な人が集まっていた。

そして大画面のモニターの前に、18つのナンバープレートが置かれた台座が新たに出現していた。

[皆様、ご自分の部屋番号は覚えておいででしょうか。各自同じ部屋番号のナンバープレートをお持ち下さい]

我那覇のナンバーは12だ。誰からともなくそれぞれが自身のそれに手を伸ばす。

「あれ……。一つ、残った?」

18つあるプレートの内、9だけが台座に置かれたままであった。

我那覇の見ていた限り、クラウンの言葉に逆らって取らなかった人はいない。

「9……最初の犠牲者か」

気付くと目つきの鋭い青年が横にいた。

「始まるぞ。12番」

その言葉が合図となった。

[それでは朝の時間を進めさせて頂きます]

モニターに、メッセージが映し出されていく。

<夜が明けました。【モトムラ】様が死体となって発見されました>


「ぎ、せい……?」

我那覇は衝撃を覚えていた。残された一つのナンバープレート、青年の言葉、画面に現れたメッセージ。その全てが一つの事実を示していた。

[朝の時間は以上となります。それでは昼時間を開始します]

モニターの表示が切り替わり、1:30:00、1:29:59、1:29:58と数字が減っていく。

我那覇は想定外の出来事に頭がついていかず、呆然としてしまっていた。

そんな姿には誰も目もくれず、疑念と疑惑、思惑が交錯するゲームが始まった。

「ごめんなさい、モトムラさん」

我那覇ともう1人、プレートの前で祈る女性を除いて。



「議論を始める前に、全員に確認を取りたいことがいくつかある」

誰から話し始めるか、視線で牽制を飛ばしあっていた15人の中から青年が手を叩き注目を集めた。

「夜時間にルールを確かめる事はできたはずだけど、それでも理解出来なかった人、疑問が残っている人は手を挙げてくれ」

そういって青年自身も手を挙げるジェスチャーをした。

しかし、誰も目を細めるだけで応じる気配はなかった。

「大丈夫、これは理解が追いついていない人を見捨てるゲームじゃない。むしろ、そういう人をフォローしていかなければ、村人陣営が勝つ事は出来ない」

開始以前のギラギラとした雰囲気は影を潜め、青年の雰囲気はとても柔らかいものだった。

「初日の内にみんながわかっている事は共有しておくべきだ。当然、ルールの穴に関する情報もね」

その言葉に数名がざわついた。今、話の中心は完全に青年が握っている。

「ルールの穴っつーのはどういうことだよ。確かにいくつかクラウンが開示してくれねぇやつがあったのは俺もわかってる。けどそれは穴じゃねぇ、意図的に伏せられたものだろ?それとは違う抜け道があるってのか?」

少々荒っぽい言葉遣いの筋肉質の男が前にでて青年と対峙した。言葉遣いや見た目とは裏腹に、物腰や語気は柔らかいものだった。

「この中で気付いている参加者はどれだけいるだろうか。このゲームにおいて人外の2陣営は"秘匿性"という優位性を持っている。それがこのゲームの穴だ。目には見えているが、それをルールと気付かなければわからない法外のルール。それを穴と呼ばずして何と言う?」

青年の言葉を否定するものは誰もいない。

男もまた、感心したように頷き返していた。

「このゲームには、関心を持たなければ得られない情報が少なからず存在している。村人以外の2人外の優位性、といってもいい。僕たちはその優位性を限りなく埋めなければ、勝利は遠いだろう。けど勝利への筋道は必ずある。それを逃さない為にも」

思考を止め青年の言葉を聞いていた我那覇は、宛ら演説のようだと思った。

「というわけで、僕が夜時間に得られた情報について開示するよ。他に思い当たる情報があれば、誰からでも良い、言ってくれ」


Q.1 人狼の能力について

A.人狼は夜時間に一度、狼以外を指定して噛む(殺害する)事が

 また、夜時間中に遠吠えによって意思疎通を取ることが出来る

Q.2 狐の能力について

A.お答えできません

Q.3 術師、罠師の能力使用について

A.タブレットの能力実行タスクからご利用可能です

名簿がございますので、そこからプレイヤーを選択して実行されます


「さて一通り情報が共有出来たところで、もう一つ大事な事をしていこう」

「大事なこと?」

この中で恐らく最年少であろう金髪の少女が聞き返した。

「そう、名前さ。僕らはまだ、お互いの名前を知らないだろう?」

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