第3話努力と失望

湧き上がる歓声。

それを受けるのはヒトミ。

ひれ伏すハナコ。


ハナコは歓声を受けることも応援も受けることはない。


『ワルモノ』だから。


****


「こんにちは。元気? 近くにタバコを吸っている人がいるから、火傷には気をつけて」


ハナコは白い杖をついた青年に話しかけた。


「ありがとう。気をつけるよ。ああいうのは空気でわかるから大丈夫」


「そうなんですか。勉強になりました。あ。東側の信号が青になりましたよ。私はそちら側に用があるので、さよなら」


「ありがとう。さようなら」


今日は週に二回あるボクシングジムでトレーニングの日。

ちゃんとプロからパンチの受け流し方の練習や、流れるようなスパーリングの打ち方や、痛くなくかつ派手な音の出るパンチの出し方など、その他の魅せる戦い方を学びに行く。

受け手が攻め手のどちらかがちゃんと学ばないとエンターテイメントではなく、ただのじゃれあいになってしまうような気がする。


それに加えて次の日はボイストレーニングとスピーチ教室に行き、マイクパフォーマンスの練習。


そして、月2でメンタルのコーチングを受けたりもしている。


頑張れ頑張れと自分を鼓舞している。

負けるのが仕事だから、こうでもしないと立ち上がれないような気がしていた。


「ねぇ〜コーチぃ〜良いでしょー」

どこかで聞いたことがあるこの声は。

振り返ったら巨大なラブホテル。そこに見慣れた2人。


ヒトミとコーチ。



血が、沸騰した気がした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る