229.来ぬうちにお勉強

 







 ◆◇◆







「んー、セリカ起きてないかなぁ?」

「そうですねー……」


 この部屋に来てから20分くらい経ったけれど、誰もやって来ない。

 なので、ディックさんとは別のコボティさんが淹れてくださったあったかい紅茶でひと息ついてました。

 フィーさんが小屋でも出してくれたのと似た味がしたから、このお屋敷でストックしてあるのを魔法でも取り寄せてたのかも。

 美味しくてクラウと一緒にお代わりしてたら、一杯目をようやく飲み終えたセヴィルさんがフィーさんに問いかけた。


「……フィルザス神」

「何ー?」

神霊オルファ達がキアルを定期的に見回ってるのは本当だとしても、何故俺達の順路をバラバラにさせたんだ? 競うのであれば、一つの場所を目指すものだろう」

「だーから、今回は君達それぞれの逢引の時間を作るようなものじゃない? 知らないのはアナとエディだけど、エディはとっくに勘付いてるかなぁ?」


 たしかに、エディオスさんならとっくに気づいてるだろう。

 その割には、僕が少し振り返った時に見たあの優しい表情以外いつも通り過ぎ。

 セヴィルさんが話してくれた、異常に暴れるとかの感情的になるとかもない。

 さすがに、セリカさんの前でかっこ悪いとこを見られたくないからかな?


「そうか。だが、神域にあのような場所があるのは知らなかったな。リージェカインは、キアルが自生しやすいようにと言っていたが」

「そうそう。あの実は少ない太陽光で充分育つ代わりに、湿った風とかが好みなんだよ」

「『魔鏡の森』かと勘違いしかけたが……」

「ないない。僕も行きたくないあそこに似てるからって、わざわざ飛ばすと思う?」

「そう言うのなら、納得出来た」

「どもー」

「まきょーのもり?」

「ふゅぅ?」


 単語から聞くだけでも、不穏な場所っぽい。

 すると、フィーさんは苦笑いしながら僕らを見てくれた。


「光に闇は当然つきものでしょ? 聖獣だって魔獣になることもあるし、産まれ付き魔獣の子でも生息地はあるんだ。そこが、魔の鏡の森って言う魔鏡の森」


 つまり、モンスターの棲息地ってことなんだ?


「けど、魔獣は街の外で発見されることもあるんですよね?」

「サイノス達が訓練で討伐する以外に、冒険者達が倒す方はね? 魔鏡の方は、負の魔力が抜けずに地中に染み込んじゃった厄介な土地なんだよ。そこでうろうろしてる魔獣達は特に質が悪い」

「それらが勝手に出ぬよう、フィルザス神が強固な結界を施してるが繁殖は年々酷くなっているらしい。それを減らしていくのに、100年以上前からは高練度の冒険者のみ討伐を許可しているが」

「が?」

「熟練者の子達でも、一体倒すのがいいとこかな? 僕は誓約で基本的に殺生出来ないから、もう増えてく増えてく」


 軽い調子で言ってるけども、本当に大丈夫なんだろうか?


「よぉ、何話してるんだ?」

「お待たせしましたわ」


 ここで、サイノスさん達がやってきた。

 セリカさんとエディオスさんはと首を動かしたら、サイノスさんの後ろにちゃんといました。

 こっちに近づくにつれてお顔もちゃんと見れたけど、エディオスさんは苦笑してるのにセリカさんはまだ真っ赤でした。


「セリカさん、大丈夫ですか?」

「えっ、ええ……」


 そう言ってから皆さんと一緒に席についても、横から見えたお耳は赤かった。


(起きても、まだ恥ずかしがってるなんて……)


 あちらのミュラーさんって神霊オルファさんに、ほんと何を言われたんだろうか。

 知ってるのはエディオスさんもだけど、ここじゃ話してくれないよね。


「カティアに魔鏡のこと教えてただけだよー?」

「ああ、あそこか? まー、キアルあったとこは似てたよな?」

「全然違うだろーが」


 エディオスさんが首を傾げたら、サイノスさんがばっさりと切り捨てた。


「……サイノスさん、行ったことがあるんですか?」

「ん? ああ、将軍になる試験みたいなのがあそこの魔獣討伐だったんだ。最も、決めたのは大将軍の俺の親父だがなぁ?」


 将軍さんが軍人さんだとトップかと言うとそうじゃないらしく、もう一つ上に大将軍があるんだって。

 サイノスさんのお父さんは、普段離宮の護りを仕事にされてるそうだ。


「ガイスは、相変わらず荒っぽいよねぇ? 自分の時はもっと楽だったろうに」

「それでも、親父の場合討伐数が大変だったらしい」

「何体だっけか?」

「俺の父上から聞いた話では、100は軽く超えてたそうだ」

「叔父様だからこそ出来ますものね」


 サイノスさん以上の猛者ってイメージがどんどん出来上がっていきます。

 お城で直接会うことは滅多にないらしいけど、完全にないとは言い切れない。

 でも、見た目によらず子供は好きなんだって。それはサイノスさんのお父さんだからかな?


「はい。魔獣についてはこんくらいでいいでしょ? 食事運んでもらう前にエディ達のキアルちょーだい?」

「おー」

「そういや、順位どうなってたんだ?」


 エディオスさんとサイノスさんがそれぞれ袋から出したのを渡しに行くと、サイノスさんが僕達全員の疑問を言ってくれました。


「ああ、到着順ね? 今聞きたい?」

「「当然」」

「いーいよー」


 フィーさんはキアルを亜空間収納して椅子から降りた。


「ほぼ同着だったけど、僕の目にはちゃんとズレがあるのを見れたよー。優勝は……」


 もったいぶって言うフィーさんの言葉に、僕はごくりと唾を飲み込んだ。

 きっと、他の皆さんも同じだろう。

 誰も茶々入れしないし。

 フィーさんも皆さんの反応がわかってたのか、にっこりと文字通り少年のような笑顔を浮かべた。


「サイノスとアナ! 次はエディとセリカでセヴィルとカティアは最後だったよぉー」

「っくしょ‼︎」

「よっしゃ! まだまだいけんな」

「……ろくに鍛えてなかったから仕方ないな」


 エディオスさんが机に突っ伏し、サイノスさんは誇らしげに胸を張った。セヴィルさんは、悔しい素ぶりとかない代わりに自分の反省点を上げていました。


「一着ですわー!」

「お、おめでとう、お姉様」

「まあ、最下位関係なくカティアには明日作るの手伝ってもらっていーい?」

「あ、はい!」


 お手伝いは喜んで!

 強く頷けば、フィーさんは何故かセリカさんの方を向いた。


「せっかくだから、セリカもどーう?」

「わ、私、もですか?」

「手が多い方に越したことないし、君は料理出来るしねー?」

「わ、わかり、ました」


 それと多分、エディオスさんへ美味しいものを作ってはどうかと言うお誘いだろう。

 エディオスさんだけは気づいてないから、アナさんや僕はちょっとによによしてちゃいます。


「じゃ、夕餉運んで来てもらおっか?」


 フィーさんの久々の指鳴らし。

 音が消えないうちに奥の扉が開き、たくさんのコボティさん達がワゴンを押しながらお料理を運んできてくれました。








 ◆◇◆







 全部美味しかった。


「満腹ですー……」

「ふゅふゅぅ……」


 ご飯もたくさん食べさせてもらい、ただ今お風呂タイム。

 アナさん達と一緒に、広い広い温泉に浸かっております。露天風呂はないらしいけど、温泉施設ばりの浴槽に洗い場は立派過ぎだと思う。

 女湯男湯とかはないと思ったら、コボティさん達にもちゃんと性別があるそうなので分けてありました。

 僕らは、彼らが普段使ってる女湯をお借りしています。

 エディオスさん達は、反対の男湯を使ってるそうな。フィーさんも本邸の時はそこを使うかららしい。


「良いお湯ですわね……」


 大理石で出来てる浴槽の縁で、アナさんはお疲れだったのかもたれかかっていました。

 セリカさんも、緊張疲れがたまってたのかぼーっとしている。

 そんなお二人、女の僕が羨むくらいの美女でスタイル抜群だからほんとどぎまぎしちゃうよ。


「そう言えば、カティアさん」

「あ、はい?」


 色っぽくお顔を上げられたアナさんに少しドキドキしながらも、なんとか返事をした。


「此度の休暇。フィルザス様達と計画されたのですか?」

「え、サイノスさんに聞いたんですか⁉︎」

「か、カティアちゃん!」

「あ」

「まあ、サイお兄様まで?」


 うっかり、サイノスさんの名前出しちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る