228.進まぬ物事(エディオス視点)

 








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(エディオス視点)








 男の集まりだけで聞いてくるとは思ったが、アナもいる場でとは思わなかった。

 セリカも一応いるが、ぐっすり寝てるんで多分聞かれはしない。

 アナは聞く気満々だからか、髪と同じくれぇに頬が赤くなっていた。


(……正直に言うしかねぇか)


 飽きられるだろうが、下手に嘘つくのも良くはない。


「……競ってる途中から、少し話せたくらいだ」

「「それだけ(ですの)?」」

「……そんだけ」


 地図の指示を聞く以外、色気もなんもなかったのは事実だ。

 アナがいるから、サイノスとの行方がどーのこーのについては多少盛り上がったものの、本人らの前でバラす程俺も馬鹿じゃねぇ。


「せっかく想い人とご一緒でしたのに、何もなさいませんでしたの⁉︎」


 そうは言うがアナ。

 お前だって、隣のサイノスもだが人の事言えるか?

 いつも通り過ぎて何も進展なかったのはお互い様だろーが!


「じゃあ、聞くが。お前だって想う相手といて意識しまくらねぇか?」


 俺がそう言えば、アナはぐっと口を結んだ。

 アナの場合誤魔化しはしただろうが、サイノスに抱えられて正気を保つのは難しかったはずだ。

 成人よりずっと前以来、抱えられるなんて久々だったかんな。

 サイノスもアナが何を言うか気になってるのかちらちら見ている。

 当人同士じゃバレてねぇってのが不思議なくらいわかりやすい。見守り過ぎてた俺だって、こいつらの態度には辟易してるが、あとでゼルもまじえてサイノスの方に問い詰めてやろうと決めた。


「……そ、そうです、わね。殿方でも、緊張されると思いますわ」


 目尻が赤く、波打つ赤毛を軽く指先でいじる。

 明らかに、自身も想う相手がいることを周囲にわからせる行為だが、隣で少し落胆してるその想われ人は自分じゃねぇと思ってんな。

 あとで聞こうとする愚痴が増えそうだが、まだ許容範囲だ。


「俺は自覚出来たの最近なんだぞ? おまけに、二人っきりにもならなかったしな」

「……わざとでもない限り、セリカの立場じゃ特になかったな?」


 少し持ち直したサイノスは、俺とセリカが話す機会を思い返してたようだ。

 アナも同じように首を傾げてたが、やっぱり俺とセリカが二人で話すような機会がなかったと納得していた。


「六大侯爵家に戻りましても、フィルザス様がお決めになられたカティアさんへの家庭教師以外に……ほとんどカティアさんとご一緒ですわね?」

「兄貴のイシャールは、今じゃ中層の料理長だから実家以外じゃしょっちゅう話すのも無理だしな」


 家じゃ一緒に過ごすのは当然でも、宮城じゃそうはいかないのは普通だ。

 セリカも成人を過ぎてしばらく経った女だし、元々馬鹿じゃない。

 むしろ、機転が良く器用だ。伊達に学園の見習い職員を勤めてただけはある。


「ですが、エディお兄様は今や神王ですもの。気軽にお誘いも出来ませんわね?」

「そう思って、今回フィー達と企画したんだが……最初だから無理だったか?」

「やっぱ企んでたのかよ……」


 薄々気づいてたことが当たっていた。

 まあ、フィーは俺だけじゃなくゼル達やサイノス達の方も計画には入れてたんだろう。

 それもあとでサイノスに聞くか。


「仕様がねぇだろ? 王太子時代とも違って簡単に休み作れないお前さんを働かすには」

「…………まぁな」


 たしかに、事前に計画を知ってたら、もっと意識しまくってたはずだ。

 神域で収穫祭に行けるのと、単純に休暇を取れるって頭になかったからあれだけ書簡とかを捌けた。

 自業自得とは言え、普段からやれとゼルに言われてても今回に関して後悔はしてない。

 久しぶりにゆっくり休めるし、フィー手製の美味い飯が食える。それだけしか、セリカと二人になるまで頭にはなかった。


「……でしたら、エディお兄様」


 いきなり、アナが軽く手をを叩いた。


「セリカの公式・・な成人の儀を開いてあげませんか?」

「公式、のか」


 たしかに、市井にいた頃はミービス達から成人の祝いを受けただろうが……六大侯爵のリチェルカーレ家の令嬢としてはまだだ。

 幼馴染みの一人で現当主のロイズからも、少し前にセリカの成人の儀をとり行いたいと通達を寄越してきてた。

 統括補佐のアナにも通達が行ってて不思議じゃない。


「けど、開くのと俺とセリカが二人になれるのとどー関係があんだよ?」

「お披露目の宴の時に、お二人で踊られてはどうでしょう?」

「は?」

「おー、いいなぁ? 一発で牽制出来る!」

「は、はぁ?」


 なんで俺とセリカが踊るだけで牽制なんて出来るんだ?


「ご自覚されていませんが、エディお兄様。貴方様は神王になられる前から淑女達の憧れの的ですのよ? その御名手はまだ見つかっておりませんが、仮にセリカとなれば少し障害があれど反対派は少ないはずです。なにせ、あの侯爵夫人の写し身とも言われるほどの美貌ですもの。淑女達も着飾ったセリカが眩しすぎるはずですわ!」

「そのセリカを付け狙う輩達に、お前さんが近しい存在だと見せつけてやれば一発だろ? それとも、どこの馬の骨ともしれん輩に渡す気か?」

「更々ないな!」


 んなことさせるつもりは毛頭ない!


「だったら、もうちぃっとお前さんの予定を切り詰めてセリカの成人の儀を進めた方がいい」

「補佐として、わたくしもお手伝いいたしますわ!」

「……わーった。あとでゼルにも話すから、サイノスもっぺん説明しろよ」

「おー」

「けど、カティアはどーする?」

「あー、一応セリカから聞いたが踊りはまだ始めたばっからしいなぁ?」

「ゼルお兄様と、ずっとご一緒は難しいでしょうし……」


 いくら嘘でも、俺達の縁戚にさせてっから出席させるのは問題ない。

 が、幼児嫌いで有名だったゼルが、唯一気に入ってる女児。

 その側にいるのは、ゼルが一応後見人だから問題ないものの、未だゼルを狙う淑女からしたら面白くないだろう。

 カティアは自分の事に関しちゃ鈍くても、他者からの感情には気づきやすい。

 その視線に気づいて退席しようとするのも予想出来る。


「……なぁ。カティアを、ちゃんとした変幻フォゼさせんのは?」

「「絶対ダメだ(ですわ)!」」

「……だよなぁ?」


 今は幼児だから、女の色気とかは皆無でも。

 仮の成長した姿を見て、ゼルが正気でいられるとは思えない。

 言い出した俺もなんだが、カティアと再会して異様に慌てた従兄弟の有様を思い出すと、馬鹿な提案をしたなと反省した。


「あの愛らしいお姿が、セリカくらいになられましたら余計に注目の的になりますのよ⁉︎ ゼルお兄様に睨まれる以上の事になりましても、わたくしフォロー出来ませんわ!」

「俺も同感だ」

「だーから、悪かったって!」


 キレたゼルなんか見たくもない!

 カティアが来たお陰で多少雰囲気が和らいできたのに、復活したらたまったもんじゃねぇ!


「……そーいや、あちらさんも特に変化なかったよな?」


 サイノスが唐突に言い出した。

 俺も思い返したが、特別甘い雰囲気とかなってなかった。

 あの遠出以降、多少は一緒にいる機会が増えたらしいが、進展があるかと言えば全然。

 俺やサイノスも他人事じゃねぇが、どいつもこいつも皆同じだった。


「う、うーん……?」


 カティア達の事を話そうとしてたら、セリカがお目覚めらしい。

 ベッドの方を見れば、まだ眠そうだが身体を起こしてきょろきょろしていた。


「……あれ?」

「起きたか?」

「大丈夫、セリカ?」


 アナとサイノスが声をかければ、セリカはやっと目をぱっちり開いた。


「サイノスお兄様、アナお姉様?」

「エディもいるぞ?」

「え?……あ、れ、ここは?」

「フィルザス様の本邸よ。あなた、競技の途中で気を失ったらしいわね?」

「気を……? あ、あ、あぁああ⁉︎」


 神霊オルファのミュラージェイドに言われた事を、セリカは思い出したらしい。

 思いっきり布団の中に隠れやがった。


「セリカ?」

「マジで、神霊オルファに何言われたんだ。お前さんら」


 今は言えねぇ。

 俺も今になって羞恥心が戻って来たが、セリカの事を思って今は言わないでおいた。

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