189.王族との集い
◆◇◆
収穫祭当日。
朝ご飯まではいつも通りだったけど、その後の打ち合わせが念入りでした。
「とにかくゼルから離れんなよ?」
「絶対ですわよ?」
「僕も見てるけどねー?」
「あ、は、はい」
再三再四?って言葉が浮かんで来るくらい、念入りに注意を受けました。
「……お前達、いくらなんでもカティアとてわかっているだろう?」
「お前が一番言えるか?」
「は?」
ええ、はい。
セヴィルさん朝ご飯が終わってからずっと僕の肩に手を置いて離してくれないんです。
「ゼルとの関係はまだ公表出来ねぇんだからベタベタすんのはやめとけ。ディア叔母に問い詰められるだけですまねぇぞ」
「……しているつもりはない、が」
「お前にしちゃ十分過ぎんの自覚持て!」
僕も全くドキドキしてないわけじゃないから、このままの状態はまずいと思っています。
エディオスさんの説得により、セヴィルさんは渋々って感じに僕の肩から手を離してくれた。
「ゼルが異常に気を許してる遠戚がいたとわかりゃ、近親の連中は特に押しかけてくっからな? 今年はフィーが久しぶりの参加だもんで、いるだけで牽制出来なくもねぇが」
「フィーさんはいつもじゃないんですか?」
「僕の神域の方が取り放題だからねー? 呼ばれなきゃ来ないって感じかな?」
それは物凄く納得出来る。
フィーさんの小屋?と本邸以外森に囲まれた場所であるから、このお城の何倍も果物狩りが出来て不思議じゃないもの。
「今年はエディの執務がもうちょっと片付いたら招待してあげようか?」
「え!」
「マジかよフィー⁉︎」
「で・き・た・ら、だよ?」
「……おぅ」
エディオスさんがあっさり頷いちゃうくらい、取り放題なんだね……。
「神域にご招待いただけるのでしたら、いつも以上に励まなくてはいけませんわね!」
アナさんもやる気満々だ。
せめて、エディオスさんが倒れないように差し入れは頑張ろうと僕もこっそり決めた。
「……とにかく、半刻後にまたここに集合だ。セリカやイシャールは下にいるらしいから、サイノスだけが来る予定だ」
「は、はい」
知ってる人達と知らない人達と大勢で集まるなんて、この世界に来てから初めてだ。
シュレインは別。エディオスさんに強引に連れて行かれたから。
◆◇◆
「あ、カティアちゃん!」
「おー、来たか?」
お着替えして集まって、全員で外の集合場所に向かえばセリカさんとイシャールさんがすぐに見つかった。
「おはようございます」
「ふゅふゅぅ!」
「つか、何でエディ達の親戚だなんて黙ってたんだ?」
「お、お兄様、声が大きいわ!」
「だって気になるしよ?」
たしかに、本当にご親戚でもあるイシャールさんからしたら不思議でたまらないだろう。
けど、僕が答えても納得はされないだろうから、隣にいるセヴィルさんが説明してくれることになった。
「お前以上に血脈が薄いからな。調べても出てこないだろうが、ゼヴィアークの家は今は存在していない。ここまで聞けばわかるだろう?」
「……なーるほどな?」
本当に嘘の嘘だけど、僕自身が異世界から来た人間だから身寄りなんていない。
そこを利用して、僕自身が身寄りのない親戚の子だったと言う設定にしています。セリカさん達の事件もあったから、イシャールさんなら何者かの手によって取り潰された嘘を話せば納得してもらえるだろうと。
こうもあっさり納得してもらえるのは、ちょっと心苦しいところはあるが仕方ない。
「んじゃ、カティアはある意味俺達とも親戚ってわけか?」
難しい顔から一変して笑顔になり、いつものように髪を荒く撫でてくれました。
僕が気落ちしないように元気付けてくれてるんだろうけど、実際は嘘ついてごめんなさいでいっぱいいっぱい。
(けど、セヴィルさんと結婚出来たら……本当にそうなるのかも)
その前にまだまだ体が戻らないと意味はないが、今は考えないでおこう。
「あらあら、そちらがゼルがお気に入りの子かしら?」
とここで、女性の声が割り込んできた。
誰だろう、ってイシャールさんの後ろを見ようにもガタイの大きな人達に囲まれてる今じゃ声しか頼りにならない。
アナさんやセリカさんよりずっと歳上なのはわかったけど、セヴィルさんを愛称で呼べるってことは?
「…………母上」
やっぱりそうでしたか!
どんな人か見ようにも、セヴィルさんがクラウごと後ろに隠されたので余計に前が見えにくい。
なんで隠すんだろうか?
挨拶はしなきゃいけないのに。
「あら、ご挨拶させてもらえないの?」
「貴女の場合は挨拶だけですみませんが?」
「いやねぇ、ちょっと抱っこするだけなのに」
「公爵夫人殿がちょっとで済むわけねぇと思うぜ?」
「あら、イシャール。言うようになったわね?」
つまり、セヴィルさんのお母さんに抱っこされるのを防ぐためですか。
それはありがたいです!
外見は小学生くらいだから不自然じゃなくても、中身が成人してるからそんなの羞恥プレイでしかない!
「ふゅぅ?」
クラウも気になっているけど、セヴィルさんの背中の向こうは全然見えない。
「ディア叔母、相変わらずだなぁ……?」
「可愛い方には目がないですもの」
「お前が言えるか?」
「あら?」
「ご、ご挨拶しなくていいんでしょうか?」
「今はやめとけ……と、叔父貴も来たか?」
「おじき?」
「ゼルの親父さんだ」
「え」
セヴィルさんそっくりのお父さん⁉︎
ちょっと見てみたいと、横からちらっと覗いても……イシャールさんの体に阻まれて見えませんでした。
「やあ、早速うちのが興味を持ち始めたんだね?」
声はちょっと似ている気がしたけど、雰囲気はセヴィルさんが二回目のデートの時に言ってたようにセヴィルさんとは似ていない。
「んもぅ、貴方からも言ってくださいな! ちっとも会わせない気ですわ!」
「君がそう攻め込む勢いだからじゃないのかな?」
「そ、そうでしょうか?」
おや、お母さんの勢いがちょっと小さくなってきたような?
セヴィルさんが背中に回してた手を少し緩ませてくれたので、ちょっとだけ前を覗き込めた。
けど、お母さんも女性の中じゃ背丈はあるようでふくよかな胸元しか見えない。
「ああ、その子が先先代もおっしゃっていた? へぇ、本当に綺麗な純金の髪だね?」
先に顔を見せてくれたのが、お父さんでした。
いつのまにかセヴィルさんの前でしゃがんでいて、僕の顔の高さまで視線を合わせてくれていた。
たしかに、年はずっと上でも紅い眼以外セヴィルさんそっくりで顔に熱が集まるのを感じた。
(え、笑顔全開のセヴィルさん⁉︎)
その例えが正しいってくらい、お父さんの笑顔はセヴィルさん並みかそれ以上に破壊力があった。
「は、ははは、はじめ……まして」
「うん、はじめまして。私はこの愚息の父でギルハーツと言うおじさんだよ」
「か、カティア=クロノ=ゼヴィアーク、です」
「よろしくね、カティアちゃん」
さらに笑顔の眩しさが増して、そこに大きな手で頭を撫でてくれました。
優しい手つきにちょっと恥ずかしさが和らいだ気がするけど、あくまで気がするだけ。
実際は恥ずかしさもだけど、緊張感が高まってクラウをぎゅっと抱っこしています!
「……父上。どさくさに紛れてカティアに挨拶するのはまだしも、余計に緊張させてどうするんですか」
「お前がディアを押さえてるからだろう? お前が珍しく側に置いてる子が気になるのは皆同じなのだから無理を言うな」
「この母にもご挨拶させてちょうだい!」
「…………はぁ……」
お父さんと挨拶したのならお母さんともしないとおかしいので、セヴィルさんは僕を後ろから出すことにして隣に立った。
「まあ! 旦那様がおっしゃった通り本当に綺麗な純金の髪だわ! 瞳も美しい蒼だなんて可愛いわ!」
お母さん、本当にセヴィルさんのお母さんでしょうか?
歳がお父さんより歳下なのは一目でわかっても、まだまだ若々しく見える。よく見ないと、サイノスさんよりちょっと上にしか見えない。
カナリア色のまとめた髪と瑠璃色の瞳に少女のようにほっぺが赤くて綺麗な女の人だ。
「は、はじめまして、カティア、です」
「あら、はじめましてカティアちゃん。私はセヴィルの母親でグラウディアと言うの。呼びにくいでしょうからディア叔母さんでいいわ」
「よ、呼べませんよ!」
「そう? あなたから見たら十分おばさんなのだけど」
「ふゅぅ?」
「あら、お人形さんじゃなくて聖獣だったの?」
「しゅ、守護獣のクラウです」
「ふゅふゅ!」
クラウも自分なりの挨拶をすれば、グラウディアさんはさらに顔を綻ばせてくれました。
「ちょっとだけ抱かせていただいてもいいかしら?」
「あ、はい」
「ふゅ?」
クラウなら、多分いいかなって思ってて渡したら……グラウディアさんはそれでもかと言わんばかりにクラウを抱きしめ出した!
「ふわふわで可愛いわ!」
「ふ、ふゅふゅぅ!」
「あら、嬉しい?」
「ふゅ!」
潰れなきゃ基本抱っこは好きな子なので大丈夫っちゃ大丈夫だけど。
怖いと思ったのは、最初にアナさんが突進しようとして来た時くらいだったし。
「何やら楽しそうだね?」
「そんなに可愛らしい子なの?」
「あら、兄上。ジャスティン!」
また新しい人達がやって来たみたい。
けど、グラウディアさんのお兄さん?って言うのがすぐに思い浮かばず、後ろにいるエディオスさん達の声で背筋がピンと伸びた。
「よ、親父にお袋」
「いらっしゃいませ、お父様お母様」
「すまないね、ディアが強引にねじ込んだから」
「あら、貴方様も賛同してたじゃないですか?」
「君もね?」
エディオスさん達のお父さんお母さんと言えば、前の神王様と王妃様。
なんで、来るって知ってたのに忘れてたんだろう!
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